ORACLE-s #2 "紫炎の魔女"

創作ファンタジー小説"ORACLE-s"第2章
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01010100011011 @jou_sousaku

紫炎がアンジールの肩を駆け上る。ブラッドは弾かれた様に飛び出した。仮面の女は背の紫炎をなぎ払い騎士達を焼こうとする。逃げ遅れた騎士の1人が悲鳴をあげて燃え尽きる。紫炎の間を縫ってブラッドが仮面の女の側面に肉薄する。「喰らえッ!」大上段から振り下ろされるブラッドの剣戟。 24

2016-02-08 23:25:00
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仮面の女はブラッドに向き直るため鎌を引き抜こうとする。しかし、抜けない。肩を焼かれながらアンジールが刃を掴み、離さない。不敵な笑みを浮かべていた仮面の女の口元に初めて嫌悪の表情が浮かぶ。「人の子めがッ!」仮面の女は鎌を捨てブラッドに向かうも、既に剣は振り下ろされていた。 25

2016-02-08 23:28:57
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泥を斬るかのような奇妙な手応え。仮面の女を斬ったブラッドは一瞬そう考えた。ブラッドの騎士剣は仮面の女の肩口からバッサリと腹まで切り裂いていた。「ハァーッ、ハァーッ……!」ブラッドは違和感を覚えた。剣が引き抜けない。仮面の女の裂創から紫炎の光が漏れ出す。 26

2016-02-08 23:33:25
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何かが不味い、ブラッドが確信を得るより先に、仮面の女の体内からこれまで以上の紫炎がほとばしった。焼かれる、ブラッドの目に紫炎が飛び込むのとほぼ同時に、彼は胸目掛け飛んできた何かに突き飛ばされた。「うわッ!」地面を転がるブラッド。傍には折れた騎士槍の柄。アンジールの物。 27

2016-02-08 23:39:08
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「まさか、アンジール!!」燃え盛る紫炎の向こうには哄笑する仮面の女の影。そして大鎌を持ち上げる男の影。大鎌を閃き、仮面の女の胸を突き刺し地面に縫いとめる。噴出する紫炎が爆発し、そして次の瞬間には周囲の炎ごと消え去っていた。辺りを包んでいた紫の妖光は消え、月明かりだけが残った。28

2016-02-08 23:44:58
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爆心地には女の仮面と地面に突き立った大鎌、そしてそれを振るったであろう炭像が立っていた。「嘘だろ……?アンジール……?」ブラッドはふらふらと像へ歩く。もはやそれは形を保つ事が出来ず、パラパラと崩れ始めていた。「アンジールッ!」ブラッドの伸ばした手に、炭像の頭部が崩れ落ちる。29

2016-02-08 23:49:25
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「うわああああッッ!!」ブラッドの両手の中で、アンジールだったものが崩れてゆく。ブラッドは叫んだ。「落ち着け、ブラッド!」生き残った2人の騎士が暴れるブラッドを抑える。「団長は立派だった、お前を助け災厄を打ち砕いた。」彼らも涙を溢れさせている。 30

2016-02-08 23:55:14
01010100011011 @jou_sousaku

「アンジール……」ブラッドはがくりと肩を落とし地面に座り込んだ。「他に生存者はいないか探すんだ。託宣の騎士として務めを果たそう。それが我らの父の思し召しで生き延びた我々の役目だ。」生き残りの騎士が重々しく言った。だが、今のブラッドにはその言葉は酷く虚しく響いた。 31

2016-02-09 00:00:18
01010100011011 @jou_sousaku

「父の思し召しだって……?」「ブラッド?」「なら何でアンジールは死ななきゃいけなかったんだ!あの女に勇敢に立ち向かったのはアンジールだ!ぶっ殺したのもアンジールだ!なんで神サマは俺なんかを生き残らせてアンジールを殺したっていうんだ!」「おい!バカな事を言うな!」 32

2016-02-09 00:04:13
01010100011011 @jou_sousaku

「もし神サマが見守ってるて言うなら、何でチャールズ先輩は教会で助けを請いながら死ななきゃならなかったんだよ!そもそも、こんな託宣が無ければ誰も死なずに済んだんだ!」「もう止めろ」「俺はまだアンジールに何も恩返し出来てないのに!二度と返せない借りまで作って!」 33

2016-02-09 00:09:08
01010100011011 @jou_sousaku

「ブラッド、いい加減にしろ」「アンジールの代わりに俺が死ねば良かったんだ!」「馬鹿野郎!」ブラッドの顔面を騎士の拳が捉えた。地面に這いつくばるブラッド。「ブラッド……お前が本当に団長の恩に報いたいと思ってるのなら、今やるべきは悔いる事ではなく騎士の本懐を遂げる事だと思わんか」34

2016-02-09 00:12:49
01010100011011 @jou_sousaku

殴った騎士の拳はわなわなと震え、涙を流している。もう1人の騎士も、涙を必死にこらえ俯いていた。「……すいません」「きっと団長やチャールズ達は父の御元でその功績を讃えられていることだろう。我々は彼らを想い、出来ることをするのだ」「…………はい」ブラッドが顔を上げたその時だった。35

2016-02-09 00:17:49
01010100011011 @jou_sousaku

「……何だ?」突き立った大鎌の根元、女の残した仮面がカタカタと震えている。ぽっかりと空いている眼孔に紫の妖光が灯る。「そんな馬鹿な……」「父よ……」騎士達の表情が再び恐怖に染まる。「2人とも、離れ……」振り返った騎士は、そのまま再び噴き出した紫炎に呑まれた。 36

2016-02-09 00:21:17
01010100011011 @jou_sousaku

「うわああああ!」逃げ出そうとしたもう1人の騎士の心臓を矢のような紫炎が貫く。糸の切れた人形のようにバタリと倒れた騎士は、そのまま声もなく紫炎に包まれた。2人を呑み込んだ紫炎が一つになり巨大な火柱となる。妖しく光る仮面が浮かび上がり紫炎の渦から現れた妖艶な手がそれをつかんだ。37

2016-02-09 00:24:41
01010100011011 @jou_sousaku

「少しは驚いたが……所詮は人の子よ……死から逃れる術を知らぬ……」燃え盛る紫炎の中から進み出たのは、最初に現れた時と同じ、戦闘など無かったかのように綻び一つない黒いドレスに身を包んだあの仮面の女であった。「おぬしで終いにしようぞ……」 女はブラッドの眼前にふわりと舞い降りた。38

2016-02-09 00:28:25
01010100011011 @jou_sousaku

ブラッドの胸中に去来したのは恐怖ではなく憎悪。アンジールの、騎士団の皆の仇、仮面の女を殺す。ブラッドの思考は殺意に塗りつぶされた。「うらあああッッ!」剣を手に飛びかかる。仮面の女は残酷な笑みを浮かべながらブラッドを指差す。指先から紫炎の閃光がブラッド目掛け飛んだ。 39

2016-02-09 22:36:41
01010100011011 @jou_sousaku

紫光を知覚する間も無く、ブラッドの意識は失われた。彼は空中で突如猛牛にはねられた様に、無様に吹き飛ばされた。砕かれた騎士鎧の破片が舞い散り、ブラッドはそのまま地面に仰向けに投げ出された。「生は泡沫の夢……死こそが永遠不滅の真理……」仮面の女は宙に浮かび上がり両手を掲げた。40

2016-02-09 22:41:44
01010100011011 @jou_sousaku

「ああ……今宵は供物がこれ程までに……」恍惚の笑みを浮かべていた仮面の女だが、やがてその眉をひそめた。紫炎に貫かれたはずなのに炎上しないブラッドに気づいたのだ。「こやつ……何故……」仮面の女はブラッドの胸元に光る物を見た。それは騎士鎧の中に隠されていた、古びた十字架であった。41

2016-02-09 22:46:04
01010100011011 @jou_sousaku

「これは……ふふふ……ふふふふ」仮面の女は得心した様に頷くと肩で笑い出した。「ふふふふ!大いなる運命の輪はここに繋がりおるとは」仮面の女はブラッドの十字架を掴もうとした。「ん……」十字架に触れた仮面の女の指先が黄金色の光に変わる。「驚いた……我を呼びし者が聖柱とは」42

2016-02-09 22:50:54
01010100011011 @jou_sousaku

仮面の女は黄金色の光を振り払うとあっさりと十字架を取ることを諦めた。ブラッドの意識が微かに戻る。「う、ぐく……!」「人の子よ……お前の命は既に祭壇に捧げられた羊……」仮面の女の背後の空間から現れた時と同じ様な紫炎が現れる。「ま、待て……!」仮面の女は徐々に紫炎に飲み込まれる。43

2016-02-09 22:55:11
01010100011011 @jou_sousaku

「案ずるな人の子よ……最早お前の意思に関わらず……お前は我の前に現れよう……」女の姿は紫炎の中に消え、仮面だけが炎の中に浮かんでいる。「しばしの別れだ……神に捧げられた魂よ……」女の声が遠くなり、やがて聞こえなくなると、仮面は粉々に砕け散った。44

2016-02-09 22:58:30
01010100011011 @jou_sousaku

「ふざけるな……!逃げるのか!殺す!必ず殺してやるッ!うわああああ!!」ブラッドは女が掻き消えた空間に向け叫び続ける。やがて声が枯れ涙が尽きた頃、今度こそブラッドの意識は闇の中へ落ちていった。45

2016-02-09 23:00:59
01010100011011 @jou_sousaku

遠くから正午を告げる鐘の音が鳴り響く。柔らかい日差しを感じ、ブラッドは目を覚ました。身体中に痛みが走る。清潔な絹の布団をはぐると、体のあちこちに包帯が巻かれているのが見えた。聖都の病院だろうか。ブラッドがベッドの傍らを見ると、椅子に座ったままうたた寝するエノクが目に入った。47

2016-02-09 23:08:09
01010100011011 @jou_sousaku

「エノク……?」ブラッドの声に、エノクは目を覚ます。「ん……ブラッド……?ブラッド!気がついたんだね!」エノクは椅子を派手に転かし、ブラッドの肩を掴んだ。「エノク……俺は……」「君は発見されてから三日三晩昏睡状態だったんだ。無事で……無事に意識を取り戻してよかった……!」48

2016-02-09 23:12:13