ORACLE-s #2 "紫炎の魔女"

創作ファンタジー小説"ORACLE-s"第2章
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01010100011011 @jou_sousaku

その日は太陽が高く登っていた。幼いブラッドは家業の漁業の手伝いとして舟の手入れを行っていた。日用品の取り換えや掃除である。今日は街に聖王家の人々が慰問にやって来る日であったため、両親はその準備に追われ、船上にはブラッドただ1人であった。 1

2016-02-07 16:11:52
01010100011011 @jou_sousaku

「ねぇ、なにしてるの?」ブラッドが魚籠を積み込んでいると声を掛けられた。振り返ると長く黒い艶髪を潮風になびかせる同じ年頃の男の子が居た。「手伝いだよ」「それって舟?」「うん」「ねぇ、乗せてよ!」ブラッドは単調な仕事に飽きていたこともあり、見知らぬ少年を舟に乗せたのだった。 2

2016-02-07 16:15:48
01010100011011 @jou_sousaku

「すごい!水の上に浮かんでる!」黒髪の少年は舟に乗るのは初めてのようで、はしゃいでいる。ブラッドと少年はしばらく舟の上で遊んでいた。ブラッドの教える様々な遊びを少年は全く知らなかった。家の手伝いばかりで同年代の友人がいないブラッドは、初めて出来た友人との時間を楽しんでいた。 3

2016-02-07 16:20:14
01010100011011 @jou_sousaku

あっという間に過ぎていく時間。彼らが気がついた時には、港と繋ぐもやい綱は解け、舟は沖に出てしまっていた。少年たちがいくら叫んでも、聖王家を迎えるため街じゅうの人間が出払っていたため、その声は届くことは無かった。 4

2016-02-07 16:22:41
01010100011011 @jou_sousaku

「ぬうん!!」アンジールの持つ騎士槍が紫炎を受けて煌めく。仮面の女は素早く身を翻し槍の軌道から外れた。ブラッドは呆然とその光景を見ていた。闇の中に広がる、この世のものとは思えぬ紫に光る炎に照らされ、アンジールと仮面の女はまるで神話の世界から抜け出してきたかのようだった。 6

2016-02-07 16:27:58
01010100011011 @jou_sousaku

「愚かしや……死に抗うことは人の身に余る行為ぞ」仮面の女が背に負う紫炎の塊から炎を掬い舞うように放つ。アンジールは辛くも回避するが、鎧の縁は炎に舐められ黒紫に炭化した。「ブラッド!何をしている!チャールズを安全な所まで避難させるのだ!」 7

2016-02-07 16:32:17
01010100011011 @jou_sousaku

「は、はいッ!」アンジールの言葉に我に帰ったブラッドはチャールズの肩を抱き林から抜け出そうとする。村へめがけ駈け出すと、紫炎に焼かれた木が倒れアンジールとブラッドを分断した。「団長ーッ!」紫炎の向こうにはアンジールと仮面の女の激闘。 8

2016-02-07 16:37:19
01010100011011 @jou_sousaku

「せりゃあッ!」「ふふふ……人の身で何時まで耐えるか」互いの攻撃は当たらない、否、紫炎に囲まれるアンジールは次第に行き場を無くし始めていた。「そんな……!」ブラッドが踵を返し掛けた時、チャールズの呻き声が耳元で聞こえた。失われた彼の肘先が目に入る。焼けただれ血が蒸発している。 9

2016-02-07 16:42:06
01010100011011 @jou_sousaku

「先輩……」今はアンジールに与えられた使命を果たさねば、チャールズの命が危ない。「必ず戻ります!」ブラッドは振り返る事無くソドスの村へ向かった。林の中を進むが、紫炎の灯りはどこまでもついて来る。果たして、村へたどり着くとそこも紫炎に巻かれ惨劇の様相を呈していた。 10

2016-02-07 16:46:37
01010100011011 @jou_sousaku

「なんて事だ……」家々は紫炎に焼かれ、紫に燻りもがく様に手を突き出す炭像があちこちに転がっていた。すでに何人かの騎士団は消火活動を始めていたがいくら水をかけようと紫炎が弱まる事は無い。「ブラッド!チャールズ!」1人の騎士が2人に気づく。「先輩が危険なんです!安全な場所は!?」11

2016-02-07 16:50:36
01010100011011 @jou_sousaku

「おお、チャールズ、なんて事だ!教会に行け!あそこはまだ火に巻かれていない!」「分かりました!」ブラッドは再び歩き出す。通り過ぎる家々から時たま叫び声が聞こえてくる。ブラッドは、まるでこの世に地獄が噴き出してきたかのように思えたのだった。 12

2016-02-07 16:54:24
01010100011011 @jou_sousaku

「……!先輩、着きましたよ、教会です!」騎士の言う通り、教会は無事だった。周囲の家々が紫炎に焼かれる中、木造で有るにも関わらず焦げ一つすら無い様子は、かえって不気味である。しかし、安全な場所はここしか無い。意を決してブラッドは教会の扉を開けた。 13

2016-02-07 16:58:36
01010100011011 @jou_sousaku

教会の中は灯りひとつなく、周囲の紫炎に照らされているために不気味である。辺り一面埃だらけの教会は、このソドスの村の信仰の有り様を雄弁に語っていた。「先輩、聞こえてますか!?」「ブラッド……俺の腕は一体」チャールズは意識が朦朧としているのか、焦点の定まらぬ目で虚空を見た。 14

2016-02-07 21:54:32
01010100011011 @jou_sousaku

ブラッドは騎士鎧の装飾布を裂くと包帯代わりにチャールズの腕を縛った。断面が焼け焦げている為出血は無いが油断は出来ない。「くっ……先輩、ごめんなさい、俺は団長のところへ……!」ブラッドが駆け出そうとしたその時、チャールズの叫び声が響いた。「あああ!熱い!腕が熱い!」 15

2016-02-07 21:58:05
01010100011011 @jou_sousaku

「そ、そんな!先輩!」ブラッドは驚愕した。チャールズの紫に焼け焦げた断面から紫の炎が燻り始めている。ちらちらと、しかし確実にチャールズの腕を紫炎が昇っていく。「ああああ!消してくれ!この火を消してくれーッ!!」チャールズは半狂乱でのたうちまわる。 16

2016-02-07 22:01:50
01010100011011 @jou_sousaku

ブラッドは教会のカーテンを引きちぎりそれでチャールズの腕の紫炎をもみ消そうとしたが、紫炎は決して消える事は無い。「くそっ!くそっ!消えろッ!」チャールズは叫び続ける。だがブラッドにはどうする事もできない。やがて炎は肩を、胸を、そしてチャールズの顔を焼き始めた。 17

2016-02-07 22:06:15
01010100011011 @jou_sousaku

「助けてくれ!助けてくれブラッド!」叫びは最早断末魔の絶叫と化していた。ブラッドも必死、だが紫炎はあざ笑うかの様にチャールズだけを焼き尽くしていく。「いやだ!死にたく無い!助けてくれ!」余りの熱にブラッドが手を離したその一瞬、紫炎は激しく燃え上り、チャールズは炎の中に消えた。18

2016-02-07 22:13:24
01010100011011 @jou_sousaku

「先輩……?」紫炎はチャールズを焼き尽くすと、あっという間に消え去った。教会のカーテンも、ブラッドの結んだ装飾布も全く焼け焦げず、チャールズだけを焼き尽くした紫炎は、まるで最初からそこには存在しなかった様に鎮火した。ブラッドは膝をつき、呆然とその光景を見つめるしか無かった。19

2016-02-07 22:20:47
01010100011011 @jou_sousaku

どれくらいそうしていただろうか、ブラッドはやがて外から聞こえてくる悲鳴や叫び声に、聖騎士団の仲間たちのものが混じり始めた事に気づいた。ブラッドはふらふらと教会の外に向かう。そんなはずはない、きっと騎士団のみんながあの仮面の女と戦っているだけだ。俺も早く加勢しに行くんだ。 20

2016-02-07 22:26:55
01010100011011 @jou_sousaku

ブラッドの脳裏にこびりつくチャールズの断末魔の光景がフラッシュバックし、彼はその場に倒れ込み嘔吐した。「ゲホッ、ゲホッ!」脚が震える。扉を開けたくない。そこに広がる光景を見たくない。その場から動けなくなってしまったブラッドの耳に飛び込んできたのは、アンジールの声だった。 21

2016-02-07 22:33:15
01010100011011 @jou_sousaku

「皆怯むな!これこそが託宣にあった試練に相違ない!我々はこれを乗り越えねばならんのだ!」その声と共に騎士団の声に力が漲る。ブラッドもまた同じだ。(((託宣は関係ない。俺は、アンジールに受けた恩を返す為に戦うんだ!)))ブラッドは自らを鼓舞し、教会の扉を開け放ち外へ飛び出した。22

2016-02-07 22:39:23
01010100011011 @jou_sousaku

教会の目の前には生き残った数人の騎士、そしてアンジールと仮面の女。その時、仮面の女は紫炎を纏う大鎌を持っていた。アンジールの騎士槍は両断され、紫炎の刃が彼の肩を大きく切り裂いていた。23

2016-02-07 22:45:15