ORACLE-s #2 "紫炎の魔女"

創作ファンタジー小説"ORACLE-s"第2章
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01010100011011 @jou_sousaku

「三日三晩……俺は……俺は……!」ブラッドにあの夜の惨劇がフラッシュバックする。「エノク!俺は、俺は!」「落ち着いてくれ、ブラッド。聞かせて欲しいんだ。」エノクは優しく諭す様にブラッドに語りかけた。「エノク……」「僕は君の口から聞きたいんだ。君の言葉で聞くまでは信じない」49

2016-02-09 23:16:04
01010100011011 @jou_sousaku

「ああ……分かった」エノクの目に見据えられ、ブラッドは少し落ち着きを取り戻した。彼はソドスの村での出来事を、記憶を一つずつ辿るようにエノクに語って聞かせた。ブラッドの話の間、エノクは相槌も打たずにただひたすらブラッドの言葉に耳を傾けていた。何かと照らし合わせるかのように。50

2016-02-09 23:20:46
01010100011011 @jou_sousaku

「……結局、俺のせいでアンジールは……!」「もういい、ブラッド、ありがとう」エノクは血が出るほど固く握り締められたブラッドの手を握り、彼の話を遮った。「ああ……」我に帰ったブラッドは、ベッドに横になった。エノクは立ち上がり、思い詰めた表情のまま窓側へと歩いて行った。 51

2016-02-09 23:25:36
01010100011011 @jou_sousaku

「エノク、俺の話を聞くまで信じないって何のことだ?」「……託宣が、あったんだ。ソドスの村の災厄の、続きが」エノクは窓の向こうの景色を見たまま振り返らない。「なんだって?」「ソドスの村を襲った災厄の為に村人は皆死に、騎士1人を残して騎士団は父の御元へ旅立ったと……!」 52

2016-02-09 23:28:38
01010100011011 @jou_sousaku

エノクは壁に手をつき、かぶりを振った。「救援の騎士達が向かった時には、君1人を残して皆炎に巻かれて死んでいたというんだ。僕は……僕はその託宣を信じたくは無かった。託宣が真実になるだなんて」エノクは振り返る。「……もう深くは考えない、君だけでも無事で良かった、それだけだ」53

2016-02-09 23:33:07
01010100011011 @jou_sousaku

エノクは微笑んだ。「ありがとうエノク」「ブラッド、目覚めたばかりの君に言うのは心苦しいんだが、実は父上が君と2人だけで話したいというんだ。」「聖王が?」ブラッドは驚いた。一介の騎士と聖王が直接話す?普通はそんな事はあり得ない。エノクとこうして話しているのは例外中の例外なのだ。54

2016-02-09 23:37:16
01010100011011 @jou_sousaku

「父上には僕から進言しておく。明日からでも構わないから……」エノクの言葉を、ブラッドは手で遮った。「いや、大丈夫だ。出来るなら、今からでも」自分でも説明が付かないが、ブラッドには聖王と直ぐにでも話をするべきだという奇妙な直感があった。「……分かった、近衛に取り次がせよう」55

2016-02-09 23:40:56
01010100011011 @jou_sousaku

エノクは病室から出て行き、室外に控えていた近衛に2、3言ほど話掛けた。近衛は深く頭を垂れ、病室を離れていった。エノクがベッドの傍らの椅子に戻ってくる。ローブの首元から、紐につながれたあの十字架を取り出した。「ああ……ちゃんと返せなくて悪かった」エノクは首を横に振った。 56

2016-02-09 23:44:55
01010100011011 @jou_sousaku

「いや、いいんだ。治療の邪魔になってはいけないと預かっていたんだが、君の話を聞いた限り、この十字架が君を守ってくれたに違いない。これはやはり、君が持っているべきだ。」そう言うとエノクはブラッドの首に十字架を掛けた。「ありがとう……」ブラッドは改めて十字架を見た。 57

2016-02-09 23:47:05
01010100011011 @jou_sousaku

そこにはあの日の黄金色の煌びやかさなど何もない、鈍色に光る古びた十字架が有るだけだった。病室のドアがノックされ、近衛が外から声を掛けた。「聖王様がお会いになるそうです」 58

2016-02-09 23:49:03
01010100011011 @jou_sousaku

ブラッドが通されたのは、託宣の祭壇の間であった。ここならば聖王の許なく何人たりとも入る事は出来ない(たとえエノクでさえも)。聖王は、それ程までに人を遠ざけ、何を語るのだろうか。ブラッドには言葉に出来ない確信めいた予感があった。祭壇の前に、聖王が控えていた。 60

2016-02-09 23:52:12
01010100011011 @jou_sousaku

聖王の顔は、出征前にブラッドが見たよりも更にやつれていた。目に見えぬ何かを恐れるかのように、彼の眼には怯えの感情が常に浮かんでいた。「ブラッドか……お前が……」聖王のしゃがれ声が託宣の間に響く。跪こうとしたブラッドを止め、聖王は続けた。「アンジールではなく……お前がか」 61

2016-02-21 22:51:12
01010100011011 @jou_sousaku

アンジールの名を聞かされ、ブラッドの脳裏にあの晩の惨劇がフラッシュバックする。「思えばお前がエノクと共に国に戻って来た時から定められていたのかも知れぬな」聖王は祭壇の傍らに置いてある銀の十字架を手に取った。「あの日、聖国の民に告げた託宣は全てでは無かった」 62

2016-02-21 22:55:18
01010100011011 @jou_sousaku

ブラッドは驚かなかった。エノクから聞かされていた違和感とはこの事だったのか思うだけだった。「あの日託宣には先があった……ソドスの村は災厄に焼かれ、騎士達は父の膝下にて安らぎを得る。しかし、紫炎の災厄の中よりただ1人だけ楽園には迎えられぬ……と」聖王がブラッドを指差す。 63

2016-02-21 23:00:17
01010100011011 @jou_sousaku

ブラッドの胸中は、氷のように冷え切っていた。つまり聖王は騎士達が、アンジールやチャールズが死ぬと解っていて死地に追いやったのだ。それがこの国の為に尽くした騎士達に向ける仕打ちだろうか。ブラッドは口を開きかけたが、聖王はそのまま続けた。「ここまでは既に民の知る所だが……」 64

2016-02-21 23:07:11
01010100011011 @jou_sousaku

聖王は手の中の十字架を見つめながら言葉を探している。「託宣には……最後の一節がある」聖王は十字架をかざし声を張り上げた。まるで民の前で託宣を告げるかのように。「残されし騎士よ!その命は捧げられし魂!自らの手により災厄の根源を討つべし!」わんわんと託宣の間に聖王の声が響く。 65

2016-02-21 23:11:46
01010100011011 @jou_sousaku

託宣を告げ終えた聖王は立つ事すらままならずその場に膝をついた。ブラッドはぞっとする程冷たい目で、聖王を見下ろしていた。「ブラッド……お前だけが頼りだ。この国に纏わりつく災厄の影を払ってくれ」聖王は最早地に頭を着けてブラッドに懇願していた。 66

2016-02-21 23:16:24
01010100011011 @jou_sousaku

(((この男は……いや、この国は……託宣とやらに従い騎士を……アンジール達を見殺し……同じ口で助けを乞うのか……)))ブラッドの視界に、祭壇に掲げられた剣が入る。眼前には地に伏す惨めな男がいる。ブラッドの手が少しずつ、剣に伸びてゆく。剣の柄に、指が触れた。 67

2016-02-21 23:20:28
01010100011011 @jou_sousaku

キィ……と、扉が鳴った気がした。ブラッドは振り返ったがそこには誰も居なかった。もう一度聖王に向き直ると、弱々しい視線がそこにはあった。一瞬あの夜のチャールズの怯えた顔が思い浮かんだ。そして仮面の魔女に剣を突き立てた時の憎しみが再び湧き上がった。(((俺の目的は……復讐だ)))68

2016-02-21 23:25:21
01010100011011 @jou_sousaku

ブラッドは聖王の前に跪き、頭を垂れた。「騎士の名誉にかけて、父の刃となりましょう」聖王の顔が希望を取り戻す。だがブラッドの胸中にはただ、仮面の魔女に対する復讐しか無かった。 69

2016-02-21 23:29:41
01010100011011 @jou_sousaku

ORACLE-s #2 "紫炎の魔女" 終わり #3 へ続く

2016-02-21 23:31:17