雪月花鳥風千首

睦月卅日より弥生朔日に至るまで、堀河太郎次郎の二百題を雪・月・花・鳥・風の心に分ち千首の歌を詠じたる写し。此は歌道の証なるや否や。 人見たまはゞ笑ひ種にせさせたまへ。
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憂卅一文字 @sanjo_deletus

申すべきこと、今ある限り御覧ぜよ。是やがて此流れに非道のわざをなすべし。扨は人大方去りたまひね。玉を流し石を放たむ業に、万の人、願はくは疾く是を退きたまへかし。もしはこれより流す言なる #雪月花鳥風千首 此詞を退けたまへ。構へて命令にはあらず。懇願の類と思し召せ。先づ畏まり申す。

2016-03-03 18:49:09
憂卅一文字 @sanjo_deletus

今ぞ知る和歌の浦波憂身にも、かけゝる神の恵みありとは。我近比歌道不振の上、妄執の雲晴れやらぬを、さる縁にて翻さむと思ひ立ち、睦月卅日より弥生朔日に至り、堀河太郎次郎百首の題を取り、各雪月花鳥風の心に寄せ、二百題五首計千首を詠じ、神への幣となし奉り手向け申すべし。 #雪月花鳥風千首

2016-03-03 19:12:47
憂卅一文字 @sanjo_deletus

雪月花鳥風千首 上 堀河院御時百首和歌題 #雪月花鳥風千首

2016-03-03 19:14:39
憂卅一文字 @sanjo_deletus

立春 雪 春立てど枝にかゝれる白雪はふる年よりも変らざりけり 月 梓弓春立つしるし有明の月もけふこそ霞そめけれ 花 予て待つ花なき里も花そへて四方の梢に春や立らむ 鳥 谷川は今は解ぬと里とめて春を知らする鶯の声 風 唐衣春たちきては沢ごとに氷面とき初むる春の山風 #雪月花鳥風千首

2016-03-03 19:20:34
憂卅一文字 @sanjo_deletus

子日 野澤には雪げの水のねの日して千代に流るゝ齢ならまし けさ引けば千年すむべき証にや松のひまよりさせる月影 変らじと子の日毎にも頼むかな小松の花も松の千歳を 鶯のねのひぐらしも待かひはいかに引べき数まさるらむ かくて引く千代の齢はそよながら枝葉鳴さぬ野辺の松風 #雪月花鳥風千首

2016-03-03 19:26:07
憂卅一文字 @sanjo_deletus

霞 ふるさとの雪げの雲を隔てつゝ霞たなびくみ吉野の山 春の夜は波なる影もうちそへておぼろにかすむ住の江の月 霞立ちにほひはをちの梅ながら軒端に香こそ訪ひ渡りけれ 鶯のなく音は我にあらぬやはなべてながめはかすむ憂世に 野辺の風吹きゝて後や一方に霞の衣たちかさぬべき #雪月花鳥風千首

2016-03-03 19:32:50
憂卅一文字 @sanjo_deletus

鶯 めもはるに今やなりぬる我宿も花と見つゝぞ鶯の鳴く くらぶ山月のしるべはおぼろにて身をうぐひすもいねがてのよや 待つとなく羽掻きに花の香をそへて我鶯にさそはるゝかな すみ渡る谷の氷のうちとけて初音もしるき鶯を聞く 徒に花な散らしそ鶯の名をも羽風も立つるかひなし #雪月花鳥風千首

2016-03-03 19:37:36
憂卅一文字 @sanjo_deletus

若菜 けふよりはいかであは雪分けもして若菜をぞ摘む春日野の原 若菜摘む袖白妙の月見ればかたみに影のとまりこそすれ 春日野の若菜と共にしめおきて木毎の花も人の見ずもが 鶯の梅の花笠添てまし年はつむとも同じ若菜に 常ならぬ風は若菜も同じことかたみの中を吹きな散らしそ #雪月花鳥風千首

2016-03-03 19:42:03
憂卅一文字 @sanjo_deletus

残雪 淡雪の果ては別れとゝくるこそ惜しむ効なき憂世なりけれ 久方の天ぎる雪の名残には霞に消えぬ春の夜の月 ふりはへて折りも分かじな香はよそに花を残りの雪と見てまし 鶯の谷も涙もとけつれば立にし後は惜しむべらなり 残りなく消えば形見も何ぞとて風や憂世を雪に知らせむ #雪月花鳥風千首

2016-03-03 19:48:13
憂卅一文字 @sanjo_deletus

梅 ゆきふれば先は移らぬ梅の香も折り見て後ぞ袖にしみぬる 佐保姫の衣ぞなるゝ月影と梅のにほひを経緯にして 願はくはいかで染めてむ唐衣かへらぬ梅をぬきとむるがに 梅が枝はより分きがたし鶯の声をしるべにとめは来しかど しばしこそ風も恨みね梅の香はわが山里の庵に移れば #雪月花鳥風千首

2016-03-03 19:53:35
憂卅一文字 @sanjo_deletus

柳 白雪のおしなみ降れどわびはつる折こそなけれ青柳の枝 なみよれる川ぞひ柳水底に枝さしかはす春の月影 白玉を柳の枝にぬく少女花こきまぜて錦をぞ着る 青柳の糸竹による鶯は惜しむひまなく繰り返し鳴け うちなびく柳の糸は佐保姫の緑の髪を風やかくらむ #雪月花鳥風千首

2016-03-03 19:58:55
憂卅一文字 @sanjo_deletus

早蕨 わが上の雪やとくるといひ顔に野辺の早蕨もえ出にけり 武蔵野に生ふる早蕨昼はもえ夜は月にもさえわたる哉 めもはるにもゆるにほひや紅の椿にまさるけふの早蕨 煙だになき早蕨を鶯の焼くと聞けばや立ちよりもせぬ 四方の野に春べの風の吹きしけばいかに蕨のもえわたるらむ #雪月花鳥風千首

2016-03-03 20:03:29
憂卅一文字 @sanjo_deletus

桜 み吉野や雪と花とに飽ぬ身の出れば憂世やがて捨てゝむ 袖かはし影はくまなく白妙の花の雲居に月を見るかな 散るといへば玉のをのへの花桜我身も末の惜しからましや うくひずと声の限りに鳴なゝむ花も心に立ちとまるべく 桜花ひとりあはれは吹かせじと風のにほひを盗む也けり #雪月花鳥風千首

2016-03-03 20:08:16
憂卅一文字 @sanjo_deletus

春雨 世の中の憂きをつくづくながむれば身は春雨のかゝる白雪 春雨のひまあらばこそ言問はめ雲間の月も物や思ふと 糸ごとに花ぬきかくる春雨は宿るばかりにゝほひそむらむ 深山よりなく鶯の声そめて嘆きをそふる春雨の空 春雨の糸もなびかぬ風弱み心細くもながめつるかな #雪月花鳥風千首

2016-03-03 21:02:50
憂卅一文字 @sanjo_deletus

春駒 白雪に人目あれにし若草を春駒毎に扨も食むらむ くらぶ山こゆれど明し久方の月のかげなる駒ぞいばゆる 若菜生ふる野辺の春駒荒ぬともあしげに花は行な散らしそ 百千鳥今も来鳴かむ春駒のいばゆるこゝをしるべにはせよ おのづから行きて恨みむ春風の宿りこそとき駒と知けれ #雪月花鳥風千首

2016-03-03 21:08:42
憂卅一文字 @sanjo_deletus

帰雁 願はくは又かりがねの声せまし言伝て待たむ越の白山 形見とや翼を影にうちかはしおぼろ月夜に帰るかりがね 下かげに宿らむ人もあるものを花見で帰る雁ぞつれなき 帰る年いさをいまとてたがふればながごと返せ雁の玉札 都より花を見捨てゝ帰る雁羽風ばかりもつゝまゝしやは #雪月花鳥風千首

2016-03-03 21:14:05
憂卅一文字 @sanjo_deletus

喚子鳥 世中の憂きに山路へよぶこ鳥吉野の奥のゆき隠れなむ 荒れ果てし庵に誰をか呼子鳥こたへぬ月の霞む山の端 鳴くに猶止らぬながら散ぬべき花を我身によぶこ鳥哉 深山出でゝ都に鳴かばよぶこ鳥こたふる人もあらまし物を 呼子鳥鳴けどかひなき野山とや風を友にも類ふなるらむ #雪月花鳥風千首

2016-03-03 21:20:29
憂卅一文字 @sanjo_deletus

苗代 小山田に雪げの水をまかすれば流れもいそぐ里の苗代 苗代に注連はへかくる賎の男は山田の庵に月ともるらむ 深山辺の花の散るにも先立てゝ小田の苗代いそぐなりけり 山里に雁がねしばしとまらなむ苗代水に種ぞかすなる 苗代の水とゝもにはまかすれど荒くな吹きそ春の山風 #雪月花鳥風千首

2016-03-03 21:25:35
憂卅一文字 @sanjo_deletus

菫菜 わが庵に頭の雪もふりにしを猶あはれとて菫をぞつむ おぼつかないくよ経にけむ浅茅生に月も菫も影のさやけさ おとづれの荒れて久しき宿りにも薄紫にすみれ咲つゝ 菫見に浅茅生に来る鶯は我身と春といづれふりぬる 古里に風を逃れて咲くすみれ扨もあはれはなどつまざらむ #雪月花鳥風千首

2016-03-03 21:31:08
憂卅一文字 @sanjo_deletus

杜若 東路の雪げの沢の杜若こや春冬を隔つなるらむ 鳰の海の月をへだつる杜若人の越えなば乱れもぞする 杜若わが散らぬがに夏こめてかひありげにもすめる池水 杜若雉子の声はとめぬともたつをばえこそとゞめざりけれ 杜若色濃く染めて吹く風に花は散るまでうつらざらなむ #雪月花鳥風千首

2016-03-03 21:36:16
憂卅一文字 @sanjo_deletus

藤 白山や声を我身もまつが枝にかゝれる藤の紫の雲 藤浪にうつれる月の影繁み千代の松にもなべて見るかな 汀には幾重の藤をゝりはへてながめもあかぬ日を暮らすらむ 今年しもわが先づ来鳴く時鳥池の藤波とむるなりけり 世の中のうつろふ風の立つなへに波のひまなき藤衣かな #雪月花鳥風千首

2016-03-03 21:48:45
憂卅一文字 @sanjo_deletus

款冬 くちなしの衣ひとへに嘆かじな白波の雪ゐでの山吹 宿るとも色にはえこそいは波を月には映る山吹のかげ 八重をこそめでたしと見め蛙鳴く井手の岸べの山吹の花 山吹の散ると知ればや羽掻きせで蛙と惜むひばり鳴くなり 世の波と風のうたてき名残より折りは尽くさむあはれ山吹 #雪月花鳥風千首

2016-03-03 21:54:50
憂卅一文字 @sanjo_deletus

三月尽 定むべき方なかりけり行春の憂きやは消ゆる雪にまさらぬ 問てまし去年も今年も朧月いくたび過る春は見しやと 予てより散にし花のめでたさは暮行春にあはぬ也けり 年ごとに世をうぐひすと恨みずは春の別に扨や会はまし 春ごとに吹きしとめねば心には風も我身を嘆くなる覧 #雪月花鳥風千首

2016-03-03 22:01:14
憂卅一文字 @sanjo_deletus

更衣 白妙の衣を雪とけふよりはひとへにかけてたのみつゝ着む 月見れば夜半や心のなかるらむ思ひたちきる蝉の羽衣 惜しむべき花の袂をぬぎかへて蔭とたちにし夏衣かな 大空に花色衣かけてまし春に鶯またやかへると 夏衣裾野の草もうちなびき足柄山に風ぞ吹きしく #雪月花鳥風千首

2016-03-03 22:05:43
憂卅一文字 @sanjo_deletus

卯花 卯花の垣根は冬を隔つとや吉野の山に咲きわたりつゝ 照る月の雲の垣根をさし越して影と見るまで咲ける卯花 何ぞとや山にとく咲き世に飽けるあなうの花と問はゞこたへむ なきわたる我身も共に入ぬべき山時鳥さそへ卯花 世を厭ふ山はむべなり卯花の憂世の風になみぞ寄るめる #雪月花鳥風千首

2016-03-03 22:13:05
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