真・マグロ ~地球最後の日~ #1

大トロ回
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劉度 @arther456

「レーダーに反応、なかった?」艦長席につくと、提督はオペレーター妖精に問いかけた。「いえ、特に何もありませんでしたが」「あれー?」水平線上なら、『蔵王』のレーダーに写るはずだ。見間違いだったのだろうか。「……まあいいや。警戒しつつ、フィリピン北部に向かおう」「分かりました」 23

2016-03-09 23:14:19
劉度 @arther456

それから2時間後。提督たちは何の妨害もなくフィリピン北部に辿り着いた。洋上には空母部隊が展開し、索敵機を飛ばしている。「提督!敵編隊を発見しました!」赤城の報告を聞いて、提督は膝を叩いた。《よし、総員戦闘配置!姫ちゃんの攻撃機だから、気をつけて!》 24

2016-03-09 23:17:39
劉度 @arther456

数分後、空の彼方に黒雲のような攻撃機部隊が姿を現した。《……なんか数、多くない?》以前、飛行場姫と戦った記憶よりも、敵機が多い。おまけに艦載機の形も違う。《新型かな。いつもと動きが違うかもよ、注意して!》「ええ、分かったわ、瑞鶴。烈風隊、攻撃開始!」 25

2016-03-09 23:20:52
劉度 @arther456

翔鶴の操る烈風が、攻撃機編隊の一群に斬りこむ。すれ違いざまの機銃掃射。瞬く間に、複数の機体が火達磨になる。烈風が反転して再度攻撃。敵が旋回する前に後ろに回り込み、銃弾を撃ち込む。「運動性は悪いみたいだねえ!」隼鷹の駆る友永隊すら撃墜できるほどだ。 26

2016-03-09 23:23:56
劉度 @arther456

だが、何しろ数が多い。精鋭の戦闘機部隊でも撃ち漏らしは出てくる。「やだっ!当てたのね!」陸奥に爆撃が命中。幸い、掠り傷で済んだ。「知り合いなのに、手加減してくれないのかしら!」三式弾で敵機を撃ち落としながら陸奥がボヤいた、その時だった。「12時方向に姫ちゃん、見つけたよ!」 27

2016-03-09 23:27:01
劉度 @arther456

時雨が指差す先には、水飛沫を上げながらこちらに向かって爆走してくる飛行場姫がいた。「おうっ、速い……」島風の目測では45ノット。提督の乗る『蔵王』に向け、一直線に突っ込んでいる。「まずいわね……時雨、対空射撃をお願い!」「どうするの?」 28

2016-03-09 23:30:09
劉度 @arther456

「何とか止めてみるわ……!」陸奥は拳を構えた。艤装のパワーを全開にして、アッパーで空中に吹き飛ばす。それで進行方向が変わるはず。問題はタイミングだが、そこは33地区の筆頭戦艦として、合わせてみせる。陸奥は拳を握りしめた。 29

2016-03-09 23:33:16
劉度 @arther456

見る見るうちに飛行場姫が迫ってくる。陸奥のすぐ近くに攻撃機が落ちる。時雨がいなければ空襲を受けていただろう。いい仕事だ。呼吸が噛み合った。一歩踏み出し、鼻先まで近づいた飛行場姫に、渾身のアッパーカットを放つ!「グワーッ!」飛行場姫の体が、空中高く吹き飛ばされた。 30

2016-03-09 23:36:18
劉度 @arther456

「グワーッ!?」直後、陸奥の体もトラックに跳ね飛ばされたかのように吹き飛ばされた。空中で陸奥が見たものは、水上を走る飛行場姫であった。それも二人。「そういうことだったのね……!」先頭の飛行場姫が巻き上げていた水飛沫で、後ろ二人の姿が見えなかったのだ。 31

2016-03-09 23:39:21
劉度 @arther456

力尽きた陸奥が海面に叩きつけられた。一方、先に吹き飛ばされた飛行場姫は、見事な前転着地を決めると飛行場姫と飛行場姫の後ろについて走りだした。「飛行場姫!飛行場姫!ジェットストリームアタックをかけるぞ!」「もうやってる」「だからお前は誰なんだよ」ノリと勢いだけで走っている! 32

2016-03-09 23:42:39
劉度 @arther456

「まずいっ!むっちゃんがやられた!」一方、飛行場姫に迫られている『蔵王』は騒然としていた。このままでは衝突事故は免れない。飛行場姫に悪気はないだろうが、島と船がぶつかれば大事故だ。「仕方ない……艦内の妖精さんたち全員に緊急通達!プロトコル『ジャーマンポテト』を開始する!」 33

2016-03-09 23:45:42
劉度 @arther456

「場所は!?」「後部甲板!」「了解!全乗組員に告ぐ!後部甲板でプロトコル『ジャーマンポテト』を開始する!速やかに準備せよ!」すると、CICの妖精さんが持ち場を離れ、CICを出て行った。提督はというと、椅子の下から干し芋の真空パックを取り出してから、後部甲板へと向かった。 34

2016-03-09 23:48:58
劉度 @arther456

後部甲板には既に多くの妖精さんが集まり、持ってきたペンギン型枕を積み上げていた。妖精さんたちが自室で寝る時に使う支給品の枕で、いざという時はぐずる飛行場姫を宥めるクッションになる。「3人分欲しいんだけど足りそう?」「わからんのです」「そもそも何で増えてるのです?」「さあ」 35

2016-03-09 23:52:10
劉度 @arther456

「とにかくみんな、離れて。芋を撒くよ」枕が十分集まった所で、提督は干し芋の袋を開いた。好物である芋で飛行場姫を釣りだし、クッションに突っ込ませて大人しくしてもらう。それがプロトコル『ジャーマンポテト』だ。あんまりにもバカバカしい作戦のため、赤煉瓦には教えていない。 36

2016-03-09 23:55:16
劉度 @arther456

「姫ちゃん来ました!」「様子は!?」「芋を見つけた時の顔をしています!」「よし!」後はクッションで満足してくれるかどうかだ。先頭の飛行場姫がジャンプし、甲板に乗り込んできた。「姫ちゃん、そこにお芋がグワーッ!?」飛行場姫は間髪入れずに提督に体当りした。「芋ーッ!」 37

2016-03-09 23:58:16
劉度 @arther456

飛行場姫が反応したのは、地面に落ちた芋ではなく、提督が持つ干し芋の袋だった。寝ぼけた彼女は匂いだけで芋の在り処を探って、間違えて提督に突っ込んでしまったのだろう。提督を巻き込んだヘッドスライディングは、そのままクッションの山へと飛行場姫を埋もれさせた。 38

2016-03-10 00:00:21
劉度 @arther456

「芋ーッ!」「「グワーッ!」」そこに飛行場姫が突っ込んできた。クッションの中から、2人分の悲鳴が響く。「芋ーッ!」「「「グワーッ!」」」そこに飛行場姫が突っ込んできた。クッションの中から、3人分の悲鳴が響く。4人目が突っ込んでくる気配は、ない。 39

2016-03-10 00:03:21
劉度 @arther456

「ええと、成功ということで……?」「いいんじゃないでしょうか」「ご無事か」「ぐええ……」クッションの山の中からは、3人分の寝息と1人分の呻き声が聞こえてくる。ひとまず提督は生きているようだ。「生きてるなら大丈夫です?」「OK牧場」「OKじゃないよ助けて……」 40

2016-03-10 00:05:28
劉度 @arther456

グロース・シュトラール。ドイツ海軍の誇る超兵器の一つである。主武装はレーザー砲。最大出力で発射すれば、戦艦すら一撃で沈める威力を持つ。船長を含めて実力は確かなものであり、ドイツ艦娘が生まれる前から戦艦ル級を多数撃破し、あの戦艦棲姫をも日本海軍と共同で撃破している。 42

2016-03-10 00:07:33
劉度 @arther456

この船の全長は500mを超える。隣に並ぶ『蔵王』はオモチャ同然だ。もちろん、横だけでなく縦にも大きい。提督が乗船用エレベーターに乗って1分経ったが、まだ甲板が見えない。「長いねえ……」「すまない。安全のため、これ以上早くエレベーターを動かすことができないのだ」 43

2016-03-10 00:09:45
劉度 @arther456

「ああ、いや、いいよ。そんなに真面目に返事しなくても」傍らの金髪の艦娘に話しかける。彼女の名はグラーフ・ツェッペリン。ドイツ初の空母艦娘だ。この船には他にも多数のドイツ艦娘が乗り込んでいる。ドイツでもいよいよ艦娘が増えてきた、とグラーフが語ってくれた。 44

2016-03-10 00:11:47
劉度 @arther456

「しかし、意外だな」「何が?」グラーフの不思議そうな顔に、提督は首を傾げた。「戦艦棲姫を倒した提督というから、もっと厳格な方を想像していたが……アドミラールは、こう、親しみやすい」「あー……ごめん。ガッカリした?」「いや、これはこれで……あ、いや、なんでもない。なんでも」 45

2016-03-10 00:13:51
劉度 @arther456

「めうー」妙な鳴き声。提督に背負われている、飛行場姫のものだ。「……アドミラール。さっきから気になっていたのだが、その子は一体?「あー、えーと、うちの海軍の艦娘だよ。詳しくは軍機だから、聞かないでね」「そうか」釈然としないグラーフだったが、それ以上聞いてくることはなかった。 46

2016-03-10 00:15:53
劉度 @arther456

グロース・シュトラールの艦長、ゲルト・ホラニア元帥とこの飛行場姫には並々ならぬ縁がある。今日も顔を見せてあげようと、提督が寝ている飛行場姫を背負ってきたのだ。決して、クッションが足りず提督が身代わりになっているわけではない。しばらくすると、エレベーターが止まった。到着だ。 47

2016-03-10 00:18:00