真・マグロ ~地球最後の日~ #2

時事ネタのマシンガンで蜂の巣にしていくスタイル
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劉度 @arther456

彼女たちよりも熾烈で、重要で、絶望的な戦いを行っている部隊があった。「村田ァァァ!」一機の天山が機銃弾を浴び、煙を吹いて墜落していく。日独連合艦隊の頭上を守る空母部隊は、空を黒く染める敵攻撃機群と終わりの見えない戦いを続けていた。 23

2016-03-13 22:12:11
劉度 @arther456

「だいぶ敵の島に近づいたと思うんやけどな、どや!?」「駄目だねぇー、空母がちっとも見つからないよ!」爆撃の嵐の中を駆け抜けながら、龍驤と隼鷹は敵機の発進元を探す。これだけの数なら空母の数も10や20ではないはずだが、それだけの大部隊はどこにも見当たらない。 24

2016-03-13 22:15:12
劉度 @arther456

「こりゃあれだ、陸上型だよ!あの島に陸上型が居ついてるに違いないねえ!」島としての霊格を持った陸上型深海棲艦は、空母とは比べ物にならない莫大な航空機運用能力を持つ。龍驤たちも何度か戦っている相手だ。その中で龍驤は、一人の深海棲艦を思い浮かべた。「ほっぽ……っ!」 25

2016-03-13 22:17:48
劉度 @arther456

北方棲姫。飛行場姫とともに行方不明になっている深海棲艦だ。もしかしたら騙されて、あの島で戦わされているのかもしれない。そう思った時、既に龍驤の体は動いていた。「ちょ、龍驤ー!?」隼鷹も慌てて後を追いかける。二人で敵陣の真っ只中に駆け込む形になる。 26

2016-03-13 22:20:21
劉度 @arther456

「何をやっているんだ、彼女たちは!」グラーフ・ツェッペリンが突出した二人を見つけた。二人の頭上には艦載機が群がっている。グラーフは腰のポーチから複雑な紋様の描かれたカードを取り出し、艤装に差し込んだ。カードの術式が作動し、艦載機の使い魔を召喚する。 27

2016-03-13 22:22:52
劉度 @arther456

「Bf109隊、発艦!」艦上用に術式が調整された戦闘機が空に舞い上がる。敵編隊に鋭く切り込み、反撃の隙を与える間もなく、バラバラに引き裂いた。ドイツが長年の研究の末に開発した空母艤装と、その期待を一身に背負ったエリート艦娘の組み合わせ。強力無比である。 28

2016-03-13 22:25:25
劉度 @arther456

だが、ドイツ空母は彼女一人しかいない。果敢に切り込んだBf109隊は、あっという間に敵機に囲まれてしまう。「おのれ……っ!」追加の部隊を発進させようと、ポーチに手を伸ばす。だが、カードを手に取る前に別の編隊が敵の包囲網を蹴散らした。日本の艦上戦闘機、烈風隊だ。 29

2016-03-13 22:27:59
劉度 @arther456

「瑞鶴?あまり突出しちゃダメよ?」振り返ると、銀髪の艦娘が目の前に立っていた。文字通り、目と鼻の先だ。「うわぁ!?」思わず後退るグラーフ。友軍の艦娘である翔鶴だとはすぐに分かったが、顔が近い。「しょ、翔鶴。心配してくれるのはありがたいが、そんなに近づく必要は……」 30

2016-03-13 22:30:33
劉度 @arther456

「だって瑞鶴が心配なんだもの」「瑞鶴?なら瑞鶴の側にいればいいじゃないか」瑞鶴は後方で零戦隊を操っている。「何言ってるの、瑞鶴?」「私は瑞鶴ではないぞ?」この艦娘、頭は大丈夫なのか。グラーフがそう思った矢先、上空からこちらに向かって突っ込んでくる巨大な影が現れた。 31

2016-03-13 22:33:08
劉度 @arther456

マグロだ。それもただのマグロではない。車ほどの大きさがある、巨大知性マグロである!翔鶴めがけて一直線に突進してくる!「ッ!エルンスト!」《了解!》グラーフの命令でBf109隊の一つが反転、マグロに機銃掃射をかける!だが、マグロの堅牢な外皮は機銃弾を弾き飛ばす! 32

2016-03-13 22:35:53
劉度 @arther456

マグロと翔鶴が激突!「くうっ……!?」第二改装を受けた翔鶴だが、マグロのパワーはそれに勝る。水飛沫を上げながら、翔鶴が押されていく!「まずい……!」爆撃機隊を発艦させようとしたグラーフだったが、その手が止まった。波間に誰かが浮いている。 33

2016-03-13 22:38:13
劉度 @arther456

「やっちゃえー!ミナミー!」巨大マグロに声援を投げかける、潜水棲姫だった。「おおおいおいおいおい!?駆逐艦ー!誰かー!誰かー!」慌ててグラーフは護衛を呼ぶが、皆ペンギンや深海棲艦に手一杯で、誰もこちらに気付かない。「あら、気づかれたかしら」潜水棲姫がグラーフの方を向いた。 34

2016-03-13 22:40:57
劉度 @arther456

「き、貴様!マグロなどと手を組んで、恥ずかしくないのか!」「ミナミさんとは友達だもーん!」「可愛らしく言って誤魔化すな!気持ち悪いだけだ!」「だったら止めてみなさいよ。正規空母に対潜兵装なんて無いでしょうけどね!」グラーフは腰の副砲を抜き放ち、撃った。「グワーッ!?」命中! 35

2016-03-13 22:43:26
劉度 @arther456

「ゴボッ!?」潜水棲姫の危機を感じ取ったミナミマグロは、翔鶴から離れた。反転して、グラーフに向け一直線に突進する!「うわっ!?」トラックめいた突進をグラーフは間一髪で回避!マグロが潜水棲姫の横に並び立ち、翔鶴とグラーフも体勢を立て直した。 36

2016-03-13 22:46:08
劉度 @arther456

「瑞鶴、大丈夫?」「だから私は瑞鶴じゃない」グラーフはスツーカ隊を発艦させた。潜水棲姫とマグロも、改めてグラーフたちと対峙する。「あの姫が敵軍のリーダーだ。ここで逃さず仕留めるぞ、翔鶴!」「ええ、頑張りましょう、瑞鶴!」二人の空母の命を受け、爆撃機隊が風を切った。 37

2016-03-13 22:48:46
劉度 @arther456

「……いやー」隼鷹は自分の指を見た。一本。つまり、まだそこまで酔ってはいない。「何なんだろうねえ、これ」自分が正気だと認識すると、ますます今の状況が分からなくなった。まず一番おかしいのは、敵本拠地のオートロ島に、場違いなプレハブ小屋が建っていることだ。 39

2016-03-13 22:51:19
劉度 @arther456

「ほっぽー!出ておいでー!帰るでー!」そして龍驤が小屋のドアを叩いている。「うるせぇー!帰れよ!」返事は冷たい。中にいるのは、ヘッドホンとメガネをかけた深海棲艦だ。「なんでや!この前のたこ焼きが冷めてたのが悪かったんか!?」「だから帰れつってんだろ!クソババア!」 40

2016-03-13 22:54:07
劉度 @arther456

深海棲艦がドアを開け、そこから大量の艦載機を龍驤に投げつけた。「グワーッ!」編隊の勢いに押し流され、龍驤が隼鷹の足元まで吹っ飛ばされる。その背中を魚雷艇の深海棲艦が踏んでいった。「ぐえっ」深海棲艦の子どもたちは龍驤を無視して、スクラップの山に登っていく。 41

2016-03-13 22:56:45
劉度 @arther456

「おーい、ゴムホースあったぜー!」「マジで!パチンコ作れんじゃん!」「パチンコ合戦しようぜ!」魚雷艇たちはゴミ漁りに夢中で、隼鷹たちに敵意は抱いていないようだ。「人の背中踏んどいて、挨拶もナシかいクソガキども!」一方、踏まれた龍驤は怒っているが。 42

2016-03-13 22:59:20
劉度 @arther456

「しかし、あれが本当にほっぽちゃんなのかねえ?」小屋の方をを見ながら、隼鷹は呟いた。「何言っとるんや!あの見た目!あの仕草!どう見てもほっぽやないかい!」龍驤には北方棲姫に見えるようだ。「でもあの子、ほっぽちゃんより10は年食ってるよ?」「港湾棲姫のことがあるやろが!」 43

2016-03-13 23:01:51
劉度 @arther456

確かに港湾棲姫は、一ヶ月ちょっと見ない間に飛行場姫から今の姿に成長した。しかし飛行場姫に戻ることもあるし、何よりカオスの塊みたいな深海棲艦である。北方棲姫も同じカオスを持っているのだろうか。そんなことを隼鷹が考えていると、魚雷艇群のパチンコ玉が小屋の窓ガラスを貫いた。 44

2016-03-13 23:04:26
劉度 @arther456

「ガーキーどーもーっ!」小屋から姫が飛び出してきた。「やべー!」「オタクのネーチャンがキレた!」「逃げろー!」魚雷艇群が慌てて逃げていく。姫はそれを追う。「ああもう、どいつもこいつも……!」龍驤も彼女たちを追いかける。残された隼鷹は、開けっぱなしのドアから小屋の中に入った。 45

2016-03-13 23:06:59
劉度 @arther456

小屋の中は酷かった。脱ぎっぱなしの服に、ゴミ袋、プラモの空き箱、そしてどこから買ってきたのか分からないすき家の牛丼で足の踏み場もない。阿賀野やイタリアの部屋でも、ここまで汚くはないだろう。「うええ、マジかよ……」自分のことは棚に上げて、隼鷹は部屋の様相に頬を引きつらせる。 46

2016-03-13 23:09:34
劉度 @arther456

とりあえず冷蔵庫を開けてみる。空っぽだ。なので牛丼の肉だけを皿に開け、レンチンしてからこたつに持って行った。こたつの周りは辛うじて片付いている。なんとか潜り込むと、隼鷹は懐からウイスキーのスキットルを取り出し、牛皿をツマミにして飲み始めた。 47

2016-03-13 23:12:09