夢路千里―夢路一夜

とりあえず自分用まとめ。やげさに風
0
晴間 @haluma_toolv

薬研は寝床につくと夢を見る。不動と戦いに出た日、宗三と遠征に出た日、長谷部と手合せをした日。毎日くたくたになって布団に潜り込むのだが夜ごと夢路を旅している。やめておけと老刀は言うが、薬研は旅をやめる訳にはいかなかった。―ここは審神者のいない本丸。薬研の夢はいつも懐かしい声がする。

2016-03-15 23:53:14
晴間 @haluma_toolv

夢路一夜:薬研は海の、船の上にいた。格好を見れば、小綺麗にはしてあるが、日頃のかっちりとした戦闘着より幾らも緩い服を着ている。手には望遠レンズの嵌め込まれた筒。腰には自身の刀より先の太く長い剣がひとつ。カチャリ。柄に触れた指先を見れば、インクで汚れていた。はて、これは何の夢だ。

2016-03-16 12:04:27
晴間 @haluma_toolv

どうやら薬研は物見台のようなところに立っているようだ。本丸では海などそうそう御目にかかれない。にいと口角を上げたところで、声が掛かる。「おーい薬研!敵船、見えたか!?」聞きなれた兄弟の声。厚か。「……いいや、何も見えねえな」「しっかり探してんのか?」「厚、んなこと言うならお前も」

2016-03-16 12:05:34
晴間 @haluma_toolv

上ってこいと続けようとしたのだが阻まれる。「航海士!薬研!こっちだ!」「…何だ鶴丸」「おいおい。もっと言い様があるだろう」「言い様ねぇ」甲板にいる鶴丸が薬研に向かって何かを投げる。咄嗟に掴むと、レンズの嵌め込まれた筒がまた一つ。「敬意をもって開発部隊長鶴丸殿と呼んでほしいもんだ」

2016-03-16 12:07:34
晴間 @haluma_toolv

新型、完成だ。そう言われて筒を覗くと、先程手にしていたものより幾らも遠くが見える。「こりゃ凄いもんだな」「驚きに貢献できたなら何よりだぜ。…君の驚く声は主がさらわれてからとんと聞かなくなった」きらきらと光る水面をレンズ越しに眺めていたのだが、鶴丸は今何と言ったのか。「は?」

2016-03-16 12:08:20
晴間 @haluma_toolv

「大将、か?」「何寝ぼけたことを言っているんだ。この船の主にして、うちの海賊団の船長だろう?」薬研はそういうことかと額を押さえる。この夢にも、薬研が大将と慕うあの人はいない。「物見台に立って毎度熱心に敵船を探すのは自分だと言ってきかなかったくせに。なんだ、遂に見切りをつけたか」

2016-03-16 19:28:22
晴間 @haluma_toolv

「…そう見えるか?」「目の色が変わったところをみると、やる気を取り戻したってことか。いやあ僥倖」鶴丸は大きな笑い声を上げ、にんまり笑うと再び薬研を見上げた。「お前さんがやる気をなくすと全体の士気が下がるからな」「(この世界の俺っちも大将に随分ご執心なこった)…賊の名折れだな」

2016-03-16 19:35:28
晴間 @haluma_toolv

「おいおい、海で好き勝手やる俺たちに折れるほどの名があるか?」「頭を盗られて取り返せねぇなら、そいつは賊としても男としても名折れだろうな」「…お前が大将でも俺らはついていくんだろうがな」「馬鹿言え。俺っちは折れても御免だ」そう言って筒を再び覗くと、船が見えた。「…前方に船が3隻」

2016-03-16 19:41:03
晴間 @haluma_toolv

薬研は瞳をすっと細め、思考する。(残念ながら海戦のいろはにゃ疎いんだがな。)鶴丸はさあどうする航海士とどこから取り出したのか小さな笛をピイッと鳴らした。「おおもう俺にも見える。近いな。…あの船体、間違いなく主をさらった奴らだ」どこか楽しげな鶴丸の声。金の瞳は爛々と輝いていた。

2016-03-16 19:53:14
晴間 @haluma_toolv

「砲台に太郎は次郎が控えてるし、舵は蜻蛉切が取ってるぜ」「…この場面で俺っちに判断を仰ぐか」「一番近くにいたからな」鶴丸の声のトーンが、一つ下がる。「主の判断にきっとお前が一番近い。俺は、…いや、俺らはその指示に従うさ」物見台の下には、本丸で見ている顔がそろい始めていた。

2016-03-16 19:59:58
晴間 @haluma_toolv

さあさあと試すような視線が、面白がるような視線が、薬研に集まる。小さな声を海風が運ぶ。「…大将を取られたんなら、俺らが失うもんはもうないってことだよな」その時、ぶわりと風が吹く。薬研の背中を押す。肩に、背中に、懐かしい感覚。人の手、のような。視線だけ後ろにやるが、当然何もない。

2016-03-16 23:34:10
晴間 @haluma_toolv

風が吹く。帆が張る。敵船方向に真っ直ぐ吹く追い風。迷うだけ無駄らしい。「…戌の方角に全力全身。蜻蛉切、舵取りは任せた」「御意」「帆の具合は、」「はいはーい。兄弟と僕で見るね」堀川が高く右手を上げ、反対の左手で山姥切の袖を引いていた。山伏は任されよと快活に笑っている。

2016-03-16 23:47:21
晴間 @haluma_toolv

「今回は派手に暴れても文句言わねぇよな」同田貫のぎらついた目をじっと見た後、薬研は少しだけ顎を引いた。「俺っちは大将ほど甘くもないんでな。情け容赦はいらん。好きに暴れてくれていいぜ」あの大将のことだ。どうせこの夢の中でだって、甘く無鉄砲に生きていたことだろう。「話が分かるな」

2016-03-16 23:56:57
晴間 @haluma_toolv

「ただし」そう言いながら剣を抜き、物見台の手すりに剣先を刺した。「背中傷はともかく、多少の怪我は男の勲章にゃ違いないんだがな」言わんとしたことが分かったのか、数人は口角を上げ、にやにやとした面を向ける。「誰一人、欠けてくれるな」剣を抜け。覚悟を決めろ、野郎共。

2016-03-17 00:03:51
晴間 @haluma_toolv

物見台から飛び降り、どんと甲板に降り立つと少しだけ軋んだ。甲板に穴を開けんなよと厚と後藤に頭を叩かれ、顔を上げれば敵船までもう少し。薬研のいた位置に堀川が上って、帆を少し畳むよう指示を出している。(堀川が分かるなら任せるか。餅は餅屋ってな) 立ち上がると鶴丸がすぐ側に立っていた。

2016-03-17 00:08:48
晴間 @haluma_toolv

「俺も前線でいいのか、航海士」「 ……腰に物騒なもんぶら下げてよく言うぜ」「陸奥守と幾らか爆薬を調合したんで奴で実験だ。風向きやら何やらとの関係と分析は手伝ってくれ」鶴丸の奥で、陸奥守がピースサインを決めている。「…大将を無事取り戻せたら考えてやらんこともない」「辛い返事だな」

2016-03-17 00:14:36
晴間 @haluma_toolv

堀川と蜻蛉切から射程域だと告げられた。打ってもいいかい?と次郎が騒ぐので、ゴーサインを出した。初の海上戦は出たとこ勝負だ。「奴さんを煮ようが焼こうが大砲を打ち込もうが勝手だが、大将は巻き込んでくれるなよ」「無茶言うねぇ。アタシにはどの船にあの子がいるかなんて分からないよ」

2016-03-17 00:21:10
晴間 @haluma_toolv

腰に手を当て次郎がでも、と笑った。「第一陣はボクが行く」乱が船べりに足を掛け、後ろで一つにくくった髪をたなびかせる。ゴーグルをしたところを見るに、泳いでいくつもりらしい。「潜入班の副隊長としてここは譲れない。主の船を特定したら帆にこの鶴さん特性カラーボール投げつけて知らせるから」

2016-03-20 00:44:07
晴間 @haluma_toolv

いいでしょ?と真ん丸な瞳を細めたこの兄弟が夢の中とは言え恐ろしく思える。次郎と乱は『暴れたい』思い半分のようにも思えるが。「…流されねぇか」「もしもの時はいち兄が飛び込んでくれるよきっと」「お前」「じょーだん。…ボクも覚悟して船に乗ったんだよ」優しく船を撫で、乱は薬研を見た。

2016-03-20 00:49:24
晴間 @haluma_toolv

乱が海に潜り、次郎が砲台に、浦島が物見台につくと船内はさらに騒がしくなった。がちゃがちゃと剣だ何だと装備する音がし、火薬の匂いが漂う。今は敵の視角であり、砲撃で狙うならこの機を逃すまいとしている。緊急用の小舟を何人かが準備していた。敵を撹乱させる遊撃部隊である。今回その筆頭隊長で

2016-03-20 01:01:32
晴間 @haluma_toolv

ある清光と安定に、薬研は急いで調合したあるものを渡した。船の造りはよく分かっていなかったが、夢の中でも薬研は薬研だ。材料は揃っているに違いないと踏んで、戦支度を整えると言って船内を駆けた。あとは想像の通りである。「何これ」「所謂痺れ薬だな。いざって時に使ってくれ」「ふうん…」

2016-03-20 01:06:46
晴間 @haluma_toolv

「…薬研はここ誰かに任せて行かないの?」安定が不思議そうに首を傾げこちらを見た。「俺っちは、」待つ。そう言いかけて、やめた。だが、それ以外の言葉は咄嗟に浮かばない。「…俺っちは、大将が戻るまでここの指揮官だ。放り出して大将のもとには駆けつけられんな」ほれ行ってこいと背中を押すと、

2016-03-20 01:18:22
晴間 @haluma_toolv

清光が不服そうな視線を寄越し、薬研の膝裏を蹴って小舟へと乗り込んでいった。乱がそろそろ泳ぎ着こうという頃、清光たちを小舟も出発し、船内は体躯のいい輩がやれ砲弾だ帆を調整だと駆け回っている。薬研は敵船を見た。この奪還作戦が片付いたら、もう一度あの人に会えるのだろうか。

2016-03-20 01:23:31
晴間 @haluma_toolv

嗚呼、何と都合のいい夢だろう。拳をぎゅっと握り、顔を上げた。小舟が波の影響を受けないよう離れた位置につけたことを堀川が確認、その直後、真っ白な敵船の帆が赤に染まる。「主さんの船、とくてーい!乱くんもうまく隠れてるみたい」浦島の声に、行くよといつもより少し野太い次郎の声が乗った。

2016-03-20 01:28:42
晴間 @haluma_toolv

砲撃が開始されると、その後は早かった。一隻沈めると同時に砲撃をやめ、遊撃隊が突撃を掛けた隙に本船を敵船に寄せる。薬研たちが乗り込むと、もう一隻も壊滅状態であり、最後の一隻に皆が集中していた。船の甲板では打刀や太刀が応戦、「おっそーい!」と敵の武器を奪ったらしい乱も戦っている。

2016-03-20 01:36:33