「ツチヤとミッコ」

ツチヤとミッコの話の自分用まとめ
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金之助@にごりえのかわず @n_kinnosuke

「継続高校が?」 生徒会室に呼び出されたみほは、いつものように干し芋を掃除機のように吸い込んでいる生徒会長からの言葉を反復する。 「そ。近々大洗に寄港するらしくてさー、折角だから遊びに行っていいかって」 「件の試合の恩もあるからな、こちらとしては迎え入れない理由はない。

2016-03-22 00:11:47
金之助@にごりえのかわず @n_kinnosuke

西住は戦車道受講者に受け入れる態勢を整えておくよう伝えてくれ」 「わかりました。継続からは誰が?」 「選抜戦でBT-42に乗っていた三人らしいわ。ミカさん、アキさん、ミッコさんね」 みほは継続高校隊長の不思議な雰囲気を思い出す。黒森峰の頃に一度試合をして、今回も助けてもらったが、

2016-03-22 00:14:27
金之助@にごりえのかわず @n_kinnosuke

どうにも掴みどころのない振る舞いで、どういう人なのかを掴み損ねていた。それに合わせて、考えてみればミカ以外の二人とは顔を合わせていなかったことも思い出す。 「やっぱり、戦車の見学とか、懇親会とかですか?」 「そだねー、こっちからもやっぱりお礼はしておきたいしさ。そうそう、

2016-03-22 00:16:58
金之助@にごりえのかわず @n_kinnosuke

実は継続ちゃんから一個、今回のことで希望があるらしくてさー」 「希望?」 「そそ。具体的には――」  ◆ ◆ ◆ 「ツチヤー、Ⅳ号のシュルツェン取り付けるからちょっと手伝ってー」 「りょうかーい!」 ポルシェティーガーの車体下に潜っていたツチヤはするりとそこから抜け出すと、

2016-03-22 00:21:07
金之助@にごりえのかわず @n_kinnosuke

隣のⅣ号の整備をしているナカジマの元へ駆け寄った。午前の練習でⅢ突の砲撃を受け吹き飛んだシュルツェンを、二人で慣れた手つきで取り付ける。今回は長時間の整備を必要とする車輌は出なかったので、このⅣ号を片付ければ一段落つきそうだった。ホシノもスズキも各車の最終チェックに移っている。

2016-03-22 00:25:59
金之助@にごりえのかわず @n_kinnosuke

「今日はこのあと練習ないから、ゆっくりできそうだねー」 のほほんとしたナカジマの言葉に頷く。 「そういえば今日は継続高校が来てるんじゃなかった? 夕方から懇親会やるって聞いてるけど」 「ああ、そうだった」 ホシノに言われて思い出す。

2016-03-22 00:29:25
金之助@にごりえのかわず @n_kinnosuke

継続高校といえば例の選抜戦で応援に駆けつけてくれた高校だ。直接の接点はなかったが、BT-42一両でカールの撃破に一役買ってくれたのは記憶に新しい。 そしてツチヤは個人的に気になっていることがあった。 「継続高校かあ、BT-42の操縦士も来てるのかな」

2016-03-22 00:31:16
金之助@にごりえのかわず @n_kinnosuke

選抜戦の、自分の知らないところで奮戦していたBT-42を、ツチヤは後日映像で見ていた。自由自在に駆け回る鈍色の戦車。履帯が外れて、片方の転輪が外れても走り続けた姿が目に焼き付いている。 「操縦士、どんな子なのかなあ」 「すごいドライビングだったもんねえ、気になるのも当然っしょ」

2016-03-22 00:34:24
金之助@にごりえのかわず @n_kinnosuke

スズキの言う通りだった。ツチヤも操縦士で、アクロバティックな運転も大好きな自動車部だから、あの執念のような操縦をするのはどんな子なのだろうと気になっていた。 「来るのはあの戦車に乗ってた三人らしいから、きっと会えるよ」 うん、とナカジマに頷いたとき。 「こんにちはー!」

2016-03-22 00:36:53
金之助@にごりえのかわず @n_kinnosuke

戦車倉庫に快活な声が響いた。内心ぎょっとしながら声のほうを振り返ると、人の出入り用についている扉から人が入ってきているのが見えた。 見るからに活動的な、ぱっちりとした目が印象的な少女だった。赤めの茶髪を二つ結んでいて、爽やかな水色のジャージを着ている。

2016-03-22 00:41:10
金之助@にごりえのかわず @n_kinnosuke

スカートの下にも軽く捲ったジャージのボトムを履いていて、まさに活発といった雰囲気をしていた。そして左胸には「継」の文字。 「んー、ひょっとして継続の子?」 Ⅳ号の上から飛び降りたナカジマが歩み寄る。 「ええ、はい。ミッコって言います」 「継続って、

2016-03-22 00:46:33
金之助@にごりえのかわず @n_kinnosuke

今は隊長や会長と大洗の街巡ってるんじゃなかったっけ? 迷った?」 「いやいや、ちょっと用事があったっていうか……ここにポルシェティーガーの操縦士がいるって聞いてきたんだけど……」 「へっ? 私に用事?」 素っ頓狂な声を出てしまった。

2016-03-22 00:51:58
金之助@にごりえのかわず @n_kinnosuke

ツチヤには継続高校の生徒が訪ねてくる理由が浮かばなかったからだ。他の三人からの視線をこそばゆく感じていると、ミッコが目をキラキラさせながら近づいてきた。 「えっ、君が! わあよかった会えた! 一回話してみたかったんだよー、全国大会の決勝もVTR見ててさあ!」

2016-03-22 00:53:52
金之助@にごりえのかわず @n_kinnosuke

がっしと両手が掴まれぶんぶんと揺すられる。予想もしていなかった展開にツチヤの頭は軽くパニックに陥っていた。 「ポルシェティーガーって足回り弱いのにすっごい上手く扱ってるし石橋崩したりとかしてるし、この前の試合の加速もすごかった!どんな人が操縦してるのか気になってたんだよ!」

2016-03-22 01:00:01
金之助@にごりえのかわず @n_kinnosuke

「え、えっと、えっと、そのー……」 褒められているのはわかる。すっごい褒められているのはわかる。ただそこまでだった。それに対してどう返せばいいのかとか、そもそも今どういう状況なのかを処理する能力がツチヤから吹っ飛んでしまっていた。 「おーい。おーいツチヤー、もどってこーい」

2016-03-22 01:01:44
金之助@にごりえのかわず @n_kinnosuke

見かねたナカジマに肩を叩かれてようやく正気に戻った。 「あ、ありがとう。そう言ってもらえると、嬉しいな。ところで君は……」 「あっ、ごめんなんか一方的で。あたしは継続でBT-42の操縦士やってるんだけど――」 ミッコがそう言ったところで、今度はツチヤが強く両手を握った。

2016-03-22 01:05:25
金之助@にごりえのかわず @n_kinnosuke

「ひょっとして、選抜戦でBT-42を操縦してた?」 「うん」 「会えた!」 「へっ!?」 「あの試合のVTR見て、どんな子が操縦してるか気になってたんだ! あのドライビングほんっとすごくてかっこよくてさあ! 今日会えるかなって楽しみにしてたんだ!」

2016-03-22 01:08:13
金之助@にごりえのかわず @n_kinnosuke

「ありがとーっ! ほんっとに会えて嬉しいよ!」 互いに腕をぶんぶん振りながらはしゃいでいる様子を見て、自動車部の三人は顔を見合わせてにこりと笑った。 「ミッコー、ここにいるー?」 そんな折、扉のほうからややゆるい呼びかけが聞こえた。そして、ブロンド髪のおさげの少女が顔を出す。

2016-03-22 01:16:12
金之助@にごりえのかわず @n_kinnosuke

「あれ、アキ。どうしたの?」 知り合いか、ミッコはきょとんとした顔をしている。見ればジャージの左胸に、ミッコと同じく「継」の文字がある。 「どうしたのじゃなくてー。勝手にいなくなるから探してたんだよ、懇親会の会場に移動するってさ」 「ここ来るって言っておいたじゃんか」

2016-03-22 01:18:12
金之助@にごりえのかわず @n_kinnosuke

むぅと頬を膨らませたミッコが渋々といった様子でツチヤの手を離す。 「私たちも懇親会には参加するし、そのときまた話そうか」 「そうだね、楽しみにしてるよ!」 じゃーねー、と大きく手を振りながら、ミッコはアキと一緒に車庫を出ていった。ふう、と息をついたツチヤが振り返ると、

2016-03-22 01:20:39
金之助@にごりえのかわず @n_kinnosuke

三人が優しい笑顔でツチヤを見ていた。 「会えてよかったじゃん、ツチヤ」 「俄然、懇親会が楽しみになってきたっしょ」 「どっちも生き生きしてたねー」 かけられる言葉に笑いながら、ツチヤは数時間後に開かれる懇親会で、どんな話をしようかなあ、とわくわくしながら思いを馳せた。

2016-03-22 01:26:00