【第3話】魔法少女れいるたん【大ピンチ! 巨大タコの猛威!】
……夢を見ていた。夢の中で彼は、英雄だった。だった、というのは今は違うということだ。かつての親愛と敬意は時を経て畏怖と侮蔑へと姿を変えていた。何故だと疑問することもない。人の心など移ろいやすいものだ。都合のいい時だけ救いを求めて不要となれば掌を返す。そんなものだ。
2011-02-01 19:55:44やがて、救国の英雄は封印される運びとなった。真っ白な檻に縛られることになっても、彼は甘んじて受け入れた。それで国がよくなるならば、と。だが、心の底に僅かにあった澱のような思いは日を重ねるごとに深く、黒く、大きくなり、彼の魂を蝕んでいった。そして、彼は封印されたまま――
2011-02-01 19:58:29「……ん」目を覚ましたれいるは自分の頬が濡れているのに気がついた。「夢か」妙に現実感のある、しかし不思議な夢だった。ここではない、どこか遠くの話のような。「あ、やっと起きましたねえ。ねぼすけですね」風邪薬がソファに“寝そべって”テレビを見ていた。「あ、おせんべ頂いてますんで」
2011-02-01 20:01:30「おい」半目で睨むが風邪薬はテレビに夢中だ。何やら魔法少女モノのアニメを見ているらしい。傍目にはただの風邪薬の箱だが、楽しそうにしているのが“わかる”程度にはれいるもこの不思議な存在に慣れてきていた。「オマエ、若干くつろぎすぎじゃね?」
2011-02-01 20:04:49「えー、そんなことないですよー」「ごろごろすんな! 実家か!」「まあ、わたしにとっては第二の故郷と言っても過言では」「過言だ!」「あのー、あんまり怒ると体に障りますよ?」「……誰のせいだ」うんざりとうめくれいるは確かに体の不調を感じていた。
2011-02-01 20:08:43「ここんとこ、土管から飛び出すキツネだの長ランのヒヨコだの忍んでない忍者コスプレ野郎だのの相手をさせられてたからな。そりゃ疲れるっつーの」「わたしの錠剤は魔力を供給しますが不足分はれいるたんの体力で補填しますから」「どーりで体がダルいわけだ。最近朝起きれないし」と時計を見た。
2011-02-01 20:11:11「げ!」時刻は既に11時を過ぎている。「目覚ましかけてたのになんで」「あ、うるさいので止めておきましたよ」「オマエなあ! 遅刻するじゃねえか!」「学校はお休みですよね?」「佐藤と約束してんだよ! あー、もう間に合わねえ!」「いいじゃないですか遅刻すれば」どこか拗ねた口調の風邪薬。
2011-02-01 20:15:00「楽しんでくればいいんじゃないですか。わたしは血だまりスケッチ見てますから」「おい何言ってんだ?オマエも行くんだよ」「えっ」「ん?」「えと、ま、まあ、そこまで言うなら付いて行ってあげてもいいですよ。仕方ないですね」ぼそぼそと呟く風邪薬に「何か言ったか?」「なんでもないです!」
2011-02-01 20:19:02海岸沿いの開発途中のベイエリアにできた巨大ショッピングモールにれいるは来ていた。軽く1時間ほど遅刻している。佐藤にはメールで謝罪と遅れる旨を伝えてある。『いいよー。テキトーに見て回ってるから』との返事に胸をなでおろす。「いいひとですねえ」「オマエも見習えよ」「えっ」「えって何だ」
2011-02-01 20:23:29「とりあえず佐藤と合流しないとな」「えー、すこし二人でぶらぶらしましょうよー」「やかまし」ぎゃあぎゃあと言いあいながら(傍から見ると独り言を言ってるようにしか見えないが)、れいるたちはショッピングモールに入ろうとした。その時だった。
2011-02-01 20:27:43