【ミイラレ!第三十一話:霊媒物質のこと】(原文のみ)

怪異に好かれる少年と退魔師の少女がなんやかんやするお話。修行回? たぶん修行回。 こちらは原文のみです。実況付きはこちら→ http://togetter.com/li/958679
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鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

意味を理解できず、四季は困惑の視線を悪魔に向ける。この手、というのは霊媒物質で形成された方のことなのだろうが……硬く。「……こ、こう?」ぐっ、と力を入れてみる。するとトリルが小さく吹き出した。「そうじゃないよ、四季。それだと元の体に力を込めてるだけだろ?」25 #4215tk

2016-04-05 20:36:20
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「そんなこと言われても……」「ボクが握ってる方の手に集中しなきゃ。ほら、握り返してみて?」どこか甘い囁きに、四季は素直に従う。霊媒物質の手でトリルの手を握る。その直下にある本来の手も、何かを握るような動きを見せた。「両方動かしちゃってどうするのさ」26 #4215tk

2016-04-05 20:40:18
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

トリルが呆れたように言う。「たかが手が一つ増えただけだろ?ちゃんと使い分けなよ」「無茶言わないで」さすがに四季は言い返す。普通の人間は手足の数が増える経験などしたことがないだろう。やや考える素振りを見せた悪魔も、その結論に達したようだった。27 #4215tk

2016-04-05 20:44:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「そっか。人間ってそういう肉体の変化には対応できないのか。えー、じゃあそこから訓練しなきゃな……」「ご、ごめん」「謝ることはないけど。うん、四季も一応は人間だったね。すっかり忘れてた」悪びれずに言うトリルに、四季は顔をしかめた。なんだと思っているのか。28 #4215tk

2016-04-05 20:48:19
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「じゃあ作戦変更だ。まず霊媒物質だけを独立して動かせるようになってもらおう。四季、こっち見て」トリルが間近に顔を寄せてくる。四季はどぎまぎしながらも、その瞳を見つめ返した。金色の瞳。その瞳孔は蛇のごとく縦に裂けている。それがさらに縦に細まった、気がした。29 #4215tk

2016-04-05 20:52:13
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

次の瞬間「あつッ!?」四季は小さく悲鳴を上げた。視界が一瞬フラッシュアウトする。全身に微かな痛み。いったいなにを。そう言いかけて彼は気づいた。舌が動かない。いや、体が動かせない!「ふふ、驚いた?そういえば四季に魔眼を試すのは初めてだっけ」30 #4215tk

2016-04-05 20:56:41
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

楽しげに笑った悪魔は、眼を見開いた四季の頬に手をかける。「びっくりした顔で固まっちゃって……かわいいなあ。このまま押し倒していい?」四季は動けない。返事もできぬ。「ボクに好き放題されたくなかったらさっさと霊媒物質の使い方を覚えてね」悪魔の目が嗜虐に歪んだ。31 #4215tk

2016-04-05 21:00:30
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季は硬直している。満面の笑みを浮かべた悪魔が目と鼻の先まで顔を近づけてきた。「さて、さて?まずはどうしようかなぁー?」なぶるように四季の頬をつつく。これ、本当に訓練だろうか。頭の片隅に疑問符を浮かべつつも、四季は必死に霊媒物質を出そうとする。32 #4215tk

2016-04-06 20:20:16
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

そうこうしているうちに、胸を軽く押された。動けない四季はなすがままに後ろに倒れる。何をする気か。焦りを増す彼の脚に、悪魔は手をかける。あぐらの形を保っていた脚がゆっくりとほどかれる。どうやらこの状態でもトリルの手にかかれば動かせるらしい。33 #4215tk

2016-04-06 20:24:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

同様に腕の形も整えられる。最終的に横たえられた四季の上にトリルが覆いかぶさった。「まだ出せそうにない?それとも、もしかして出したくなかったりする?」からかうような悪魔の声が耳をくすぐる。甘い吐息。ゆっくりと体全体がのしかかってくる。不穏な熱。34 #4215tk

2016-04-06 20:28:25
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季は落ち着かなく眼球を動かし、悪魔の眼から視線を外そうとした。とてもではないが、直視していると集中できない!「ふふ、照れちゃって。かわいいなあ。でもいつも側にいる怪異と同じようなことしてるんじゃないの?」『してないってば!』「そっか。念話はできるんだっけ」35 #4215tk

2016-04-06 20:32:29
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

眼を丸くしたトリルが破顔する。「じゃあ、あれだ。霊媒物質が出せそうにないなら念話で反応返してよ。そうしてくれると興奮できるから」『訓練だよね!?これ、訓練でしょ!?』「どっちにしても訓練にはなるさ。ほら、早くしないと服脱がすよ」言葉通り、悪魔の手が四季の服へ。36 #4215tk

2016-04-06 20:40:16
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

が、その手はぴたりと止まる。訝しげに見上げる四季の前で、トリルはなにか考え込み始めたようだった。「待てよ。四季の性格からして……先にボクが服を脱いだ方がいい反応見れそうだよな……」あからさまにロクでもないことだった。とはいえ本人の表情は真剣そのものである。37 #4215tk

2016-04-06 20:44:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

トリルは密着していた体を離し、四季の腰の上に馬乗りになった。「こういう状況で適当に服を脱いで…………うん、適当に四季のズボンも剥がして嬌声の一つでもあげてみよう!下の大人たちにもわかるくらい!」『そこまで行くとシャレにならないよ!?』念話で抗議!38 #4215tk

2016-04-06 20:48:33
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

だがトリルは聞く耳を持たないようだった。彼女は見せつけるように自分の服の裾に手をかける。四季は視線を外しながらも、必死に霊媒物質を出そうと(……ん?)不意に、彼は新たな気配を感じた。自分とトリル、そして寝込んでいる薫以外の存在を。……薫のベッドの下から。39 #4215tk

2016-04-06 20:52:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季は反射的に『腕を伸ばした』。肩から生えた半透明の第三の腕が、勢いよく伸びてベッドの下のわずかな隙間へと潜り込む。「きゃっ!?」手応え、短い悲鳴。力いっぱい掴んだものを引き寄せると、転がるように現れたのは赤帽子の少女!四季が掴んだのはその左腕のようだった。40 #4215tk

2016-04-06 20:56:13
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「は、離してよっ!」赤帽子がどこからともなく両刃の斧を取り出し、振り上げる。無論、狙いは四季の第三の腕!そこを悪魔がひと睨みした。それだけだ。それだけで赤帽子は停止する。半端に振り上げた形の手から斧がこぼれ落ち、床の上で粉々に砕け散った。41 #4215tk

2016-04-06 21:00:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「おめでとう、四季。自分で霊媒物質が出せるようになったみたいだね」笑いかけた悪魔が、四季の額に唇を落とす。同時に束縛が解けた。彼が身を起こすより早く、トリルは馬乗りを止めて硬直した赤帽子の怪異へと近づいている。「しかしちょっと予定外だな。覗きが出てくるとはね」42 #4215tk

2016-04-06 21:04:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

赤帽子の瞳に恐怖の色が浮かぶ。へたりこんだ姿勢で硬直した怪異を、悪魔は冷たく見下ろした。「別にまあ、ボクと四季の情事を見られる分には全然構わないんだけど。それだけで来たわけじゃあないだろ?なにが目的だ?口は動かせるようにしてやるから答えろ」「……だっ、誰が」43 #4215tk

2016-04-06 21:08:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

口答えしかけた赤帽子に、トリルは眼を細めた。彼女はそのまま怪異の頭を鷲掴みにする。「くだらないお喋りはいらない」吐き捨てると同時、赤帽子が苦悶し始める。その口や目から、シュウシュウと音を立てて煙が吐き出される。「分をわきまえろ、羽虫。ボクをなんだと思ってる?」44 #4215tk

2016-04-06 21:12:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

声にならない悲鳴。焦げた臭いが部屋に広がった。「お前のことは多少聞いてる。以前に怜を襲ったやつだな?シェイプシフターを知ってるか?正直に答えるんなら灰にするのだけはやめてやる」後ろで見ていた四季は息を呑む。悪魔の背中には、先程とは別人のごとき怒気が漲っていた。45 #4215tk

2016-04-06 21:16:33
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「ギ……あ、ガッ……や、やめ」懇願の声に応えたのは、酷薄な瞳と焼けつく音。焦げた臭いと赤帽子の悲鳴が部屋に広がる。「質問が聞こえなかった?シェイプシフターを知ってるか、って聞いたんだ」「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃっ!知ってる!知ってます!」46 #4215tk

2016-04-07 20:48:16
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

その答えにトリルは笑みを浮かべ、赤帽子の頭から手を離す。怪異の顔面とトレードマークであろうその帽子に、無残な焼印が刻まれていた。「成る程。それで?お前はあいつの一味か」「り、リジィは……リジィは呼ばれただけ。力を貰った恩もあるし、協力はしたわ」47 #4215tk

2016-04-07 20:52:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

力を貰う。「あの怪異、そんなことができるんだ」思わず四季は声を上げていた。悪魔がちらりとこちらを見やる。「それくらいは多少格の高いやつなら誰でもできる芸当だよ。余ってる霊気を譲ってやればいいだけだからね。さて」その瞳が不穏に輝き、赤帽子へ。48 #4215tk

2016-04-07 20:56:04
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「あいつに協力してる馬鹿どもはお前以外にどれだけいる?正直に答えろ。嘘をついたらどうなるか、わかるよな」「ひっ……!し、知らないわ!本当よ!リジィは、他の怪異とは、あまり会わせてもらえてなかったの!」「ふぅん」トリルはしゃがみ、赤帽子と視線の高さを合わせる。49 #4215tk

2016-04-07 21:00:09