【ミイラレ!第三十一話:霊媒物質のこと】(原文のみ)

怪異に好かれる少年と退魔師の少女がなんやかんやするお話。修行回? たぶん修行回。 こちらは原文のみです。実況付きはこちら→ http://togetter.com/li/958679
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鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

【ミイラレ!第三十一話:霊媒物質のこと】 #4215tk

2016-04-04 20:00:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

静まり返った夜の神社。その境内で相対する二つの影あり。一人は軽装。両腕に赤と青の反物を巻いた奇妙な出で立ち。もう一人は2mを超える大柄な体躯を赤ずくめの衣服で包み込んだ女。闇の中で金色に輝くその瞳は、おおよそ人間のものとは思えない恐ろしさだった。1 #4215tk

2016-04-04 20:04:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「マジでやんのかよォ、怜」赤ずくめが口を開く。耳まで裂けた大きな口を。『口裂け女』龍造寺 美咲である。「やる」対する少女は決然と頷いた。怪異と退魔師。戦うのは自然といえる組み合わせ。だが、二人の間に漂う空気は憎み合うそれとはまた違う。「そうかァ……」2 #4215tk

2016-04-04 20:08:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

困ったように呟いた美咲は真横を向く。そこにも爛々と輝く瞳の持ち主が二人。「どうすっかなァ、御笠ちゃん充虎ちゃん。あたし、人間相手の特訓なんてやったことねぇよ」「私たちだってないよ」次女の御笠が肩を竦める。「ひとまずお姉ちゃんの攻撃に耐えられるかだよね」3 #4215tk

2016-04-04 20:12:13
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「だよなァ……ウー」美咲が怜に向き直る。「まずは……そうだな。なるべく手加減して殴るから、それを防御してみてくれ」「わかった」真剣な表情で頷き、怜は低く構える。いつぞや中断させられる羽目になった怪異との戦闘訓練を、まさか自分から怪異に頼むことになるとは。4 #4215tk

2016-04-04 20:16:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

怪異との訓練。そこに至るまで彼女を突き動かしたのは、自身の力不足から来るなんとも言い難い感情だ。四季を連れて消えてしまったトリルの一言は、小さな棘のように怜の心に突き刺さっている……「じゃあ行くぜー?ちゃんと防いでくれよ」美咲の言葉。怜は気を引き締める。5 #4215tk

2016-04-04 20:20:16
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

両腕を交差させ、霊気を展開。限定的な結界障壁を前方に作り出す。直後、赤い風が襲来した。「あうッ!?」硬いものが割れる澄んだ音。衝撃。怜は成す術もなく吹き飛ばされ、木々に激突「おっと」する寸前、誰かに受け止められた。「大丈夫?」姉妹の三女、充虎だ。6 #4215tk

2016-04-04 20:24:15
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

こちらを案ずる声に、しかし怜は答えられない。呼吸を整えるので精一杯だ。両腕はじんじんと痺れ、感覚がない。改めて実感する。これが退魔師と……否、人間と怪異の力量差。「わ、悪い!大丈夫か!?」瞬間移動かと錯覚するような速度で、美咲が駆け寄ってきた。7 #4215tk

2016-04-04 20:28:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「うん……大丈夫。まだ、やれる」充虎の腕を優しく振り払い、怜は言った。見下ろす美咲の目には、安堵と困惑の色が混じる。「そりゃよかった、けどよォ。今の何度も続けて大丈夫か?」怜は思わず言葉に詰まった。正直なところ、あの威力の攻撃を何度ももらっては身がもたない。8 #4215tk

2016-04-04 20:32:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「やっぱり霊気の絶対量が足りないよ」音もなく側に現れた御笠が言う。「防御の仕方は悪くないけど。まず基礎をなんとかしなきゃ」「というと?」一同の視線を集める中、次女はあっさりと言った。「とにかくなんでもいいから霊気を使い切って、取り込む量を増やすところからやろう」9 #4215tk

2016-04-04 20:45:17
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

美咲と充虎が顔を見合わせる。「……そうすっか」「だね。攻守交代して、美咲姉さんが怜の攻撃を防ぐようにしたらいいんじゃない?それなら事故も起こらないし」「だな。それでいいか、怜?」きょとんと彼女らを見上げていた怜は、黙って頷く。千里の道も一歩から、だ。10 #4215tk

2016-04-04 20:48:23
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

…………一方その頃。都月家では。11 #4215tk

2016-04-04 20:50:36
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「じゃあ四季、早速レクチャーを始めるよ」「う、うん」二階、薫の部屋で。トリルの言葉を聞きながらも、四季は視線を彷徨わせる。なんというか、落ち着かない。悪魔もその様子に気づいたか、どこか意地悪げな笑みを浮かべた。「どうかした?女の子の部屋に興味がある?」12 #4215tk

2016-04-04 20:52:15
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「いや、ええと」「別にそれで気が散っちゃうんなら好きなだけ部屋の中を漁るといいよ。薫は気にしないだろうし、下の大人たちだってボクが適当に誤魔化してやるからさ」「別にいいって!」少しだけ荒い口調で断る。ついで四季は思い起こす。ここに訪れたときの出来事を。13 #4215tk

2016-04-04 20:56:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

トリルに連れられて夜空を飛んだ四季は、正面からこの家にお邪魔することになった……つまり、玄関からだ。当然のごとく、薫のご両親に出迎えられた。驚くべきは、夜遅くに、仮にも男である四季が訪れたにも関わらず、咎められるどころかにこやかに迎えられたことである。14 #4215tk

2016-04-04 21:00:17
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「トリル、あの人たちになんかしてるよね?」「当たり前だろ。そうじゃなきゃボクがこうしてこの家に居られるわけないじゃないか」至極当然といった顔で答えられる。「ちょっとした認識阻害。別に怪我させるわけでもないし、生活面で致命的な影響が出るわけでもない。安心しなよ」15 #4215tk

2016-04-04 21:04:31
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

そう言われても、四季は微妙な表情を崩せない。実家にいたときも、同じような手段で家庭に入り込んだ怪異たちを思い出してしまう。「……ま、薫の怪我に関してはごまかしようがないから多少ボカして説明はしてる。なるべく早く解決したいんだ。さっさとトレーニングを始めよう」16 #4215tk

2016-04-04 21:08:14
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「トレーニングと言ってもさ」四季は眉をひそめる。「具体的にはどうするの?また首絞められるの、正直嫌なんだけど」「そう?ボクはまたしたい」さらりと零したトリルは、四季に半眼を向けられ話題を逸らすように咳払いした。「ん、ん!まあ、今回は別のやり方をするよ」17 #4215tk

2016-04-05 20:04:19
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

そして四季の手を取る。「最初のあれは、霊媒物質に自覚的になってもらうために派手めにやったんだ。次はコンパクトな出し方を覚えてもらう」「……出し方と言われても」冷たく、柔らかいトリルの手をなるべく意識しないようにしながら、四季は首を傾げた。18 #4215tk

2016-04-05 20:08:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

部屋の中はまた暗闇。聞こえてくるのは、時折苦しげな呻きを漏らす薫の息遣いだけ。朧に見えるトリルが微笑したように見えた。「そう、ひとまずは霊媒物質を使いこなせるようになってもらわないと困る。というわけで、始めようか」「え?……熱ッ!?」19 #4215tk

2016-04-05 20:12:14
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

悲鳴が漏れる。手の甲の上に乗せられたトリルの手が、にわかに熱を持ち出したのだ。熱した鉄板を当てられているかのような錯覚すら覚える。「これくらい我慢しな?むしろ、今の感覚を覚えておいて。霊媒物質を引き出す感覚ってのをさ……よっと」トリルが手を離す。20 #4215tk

2016-04-05 20:16:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

そこに張り付くようにして、輪郭の曖昧な白い手の影が四季の手から『引き剥がされる』。「う、わ」「はい、手からも出せた。ところで四季さ、幽体離脱したときに思いっきり光を浴びてたでしょ?あれ、平気だった?」動揺する四季を気にすることなく、トリルが尋ねてくる。21 #4215tk

2016-04-05 20:20:04
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「え?……ああ、怜が来たときか。別になんとも。ちょっと眩しかったくらい、かな」「ふむふむ。いきなり実戦に耐えうる霊媒物質を出せてたわけだ。今まで外に出すことを知らなかったから溜まってたんだねえ」霊媒物質でできた手に指を絡めながら、トリルは笑う。22 #4215tk

2016-04-05 20:24:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季は身をよじる。霊媒物質の手は普通のそれより敏感なのか、とてもくすぐったいのだ。その様を見たトリルが眼を細める。「触っても問題ないみたいだしね。普通、人間が出す霊媒物質って脆くて使い物にならないことが多いんだけど……うん、そこはさすが四季だな」23 #4215tk

2016-04-05 20:28:15
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

執拗に霊媒物質の手を触ってくる悪魔に眉根を寄せつつ、四季は問いかける。「え、ええと。じゃあその、こういうのを自分で出せるようになればいいの?」「まず最初はね。でもその練習をする前に、霊媒物質の性質を覚えておこうか。四季、ちょっとこの手を硬くしてみて」24 #4215tk

2016-04-05 20:32:07