化石発掘家になる夢をあきらめ自殺した男の独白　８

アドリア海 @keizi80

「ＦＸ？『ＦＨ』ではないのですか？」 　「ふふ」 　怪獣男はしたり顔で笑った。 　やはりどれだけ背伸び顔で威張って見せたところで、こいつはまだ高校すら卒業していない小娘にすぎないのだ。 　証拠金外国為替取引の存在など知る由もない。

アドリア海 @keizi80

いつも自分を小ばかにしている彼女に対して僅かながらの優越感を覚えることができた彼は喜びに頬を染めた。 　「その『ＦＸ』で借金をこさえたのですか？」 　「そうともそれで借金をしては溶かし借金をしては溶かしを繰り返すうちにとうとう首が回らなくなってしまった」

アドリア海 @keizi80

「溶かすたびにああ今の金があれば僕はパラオにいけたなあと痛烈に後悔してしまうものでね。ならばどうあっても取り返さなくてはならないではないか。市場に巻き上げられたものは市場から奪還するのだ、と、さらに借り入れで種を用意し相場に突っ込んでしまうのだな」

アドリア海 @keizi80

「気が付けば僕は、パラオにフライトするどころではなくなってしまっていた。一生レベルの視野から見てね」 　「そもそもあなたなはぜＦＸを始めてしまったのです？」

アドリア海 @keizi80

「僕は働きたくなかったのだ、働かずして生きられる時間が欲しかったのだ。さっきも言ったように僕は人一倍不器用だったから、１日働けば心身ともぼろぼろになり、帰ってくれば眠るだけで終わってしまう。モササウルスの専門家になるという夢どんどん遠のいていった」

アドリア海 @keizi80

そして低時給で貯蓄も作れない以上、冷静に予測すれば今後もその生活は半永久的に続いていくわけさ。僕は自分という人間のストーリーが終わったことを早々と察知した。そんな生に意味はないではないか。だがそれでもあとほんの少しだけ余裕があったなら、まだ挽回の余地はあったんだ」

アドリア海 @keizi80

「これは言い訳ではない本当のことだよ。自らの生を蘇生させるため、モササウルスに専念できる時間と資金を作るため、僕は自然と相場に向かってい た。それに足りるだけの額は、底辺アルバイトの収入では絶対に作ることができなかったのだからね」

アドリア海 @keizi80

「だがその結果手段であったＦＸが僕の生涯に止めを刺して しまった。終わってみれば、より悪質な未来が待ち構えていた。以前までの僕はただ働き続けることで何も得られないだけの人生を送っていた。今の僕は働いて働いてそれでなお決して減らないマイナスに追い立てられ続ける毎日だ」

アドリア海 @keizi80

「正直生涯を賭しても完済は無理だろう。つまるところ僕はこの世の財を毀損するためだけに世の中に現れ出でた、生まれないほうがましな厄介者としてのポジションに落ち着いたわけさ」 怪獣男はくくくと喉の奥から力のない笑いを捻り出しコップの中にわずかに残ったペプシ味の氷を飲み込んだ。