ローガンダルレンの友達#2 魔竜への手紙◆1
_エルヴィは前へと進んだ。赤茶けた生命の気配のない斜面を登っていくと、前方に洞窟がぽっかりと口を開けている。霧はだいぶ晴れており、その外観がよく目に映った。まるでワニが口を開けたような入り口。 (ここが魔法陣の中心……) 31
2016-04-16 17:26:11_ここに超魔導魔竜が住むという情報は無い。そもそも1000年の間干渉を避けており、最新の情報というのも1000年前のものだ。 しかしエルヴィには確信があった。防護服の分厚いヘルメットの奥で微笑む。 (視界を遮る洞窟は、本能的に安らぎを感じる場所だ……) 32
2016-04-16 17:31:39_1000年もの間、孤独に耐えるために、少しでも精神の平静を保つだろう。エルヴィにはそんな直感があった。洞窟を覗き込むエルヴィ。 そこには、入り口から差し込んだ光の輪の中に、ローガンダルレンがいた。ピンクのスーツを着ており、顔はぎこちない。 33
2016-04-16 17:37:50_恐ろしい魔力の圧を感じる。先程和らいだはずの痛みが、洞窟を覗いただけでビリビリと全身を駆け巡る。 エルヴィは歯を食いしばり、防護服の腰に結わえ付けた契約書を取り出す。 「不戦の契約を……お……お願いしに来ました。サインを……」 34
2016-04-16 17:45:06_ローガンダルレンはというと、ぎこちない笑みを浮かべて、声を出そうとしているようだった。だがその声はあまりにもか弱く、エルヴィの耳には届かなかった。 不思議だった。高圧的な感じや、侮蔑、敵対の感情は見られなかった。 (もしかして……人間が嫌いじゃない?) 35
2016-04-16 17:49:45「あの……もしかして、人間は嫌いではないのですか?」 「あ……あ……もちろん、人間は好きだよ……よかった、わ、分かってくれて……」 ローガンダルレンはどもりつつも、経緯を話してくれた。最初は、戦争が原因だった。竜の国と、古代エシエドール帝国の戦争が。 36
2016-04-16 17:54:38_灰土地域で勢力を拡大したエシエドール帝国は南進をはじめ、戦火は竜の国の境界、竜芽山脈にまで及んだ。竜芽山脈の防衛のために、ローガンダルレン含む竜の軍人が強力な結界を張った。戦いは激しさを増し、彼の仲間は次々と死んでいった。その穴を埋めるように、彼は魔力を高めていった。 37
2016-04-16 18:02:16_援軍はいつまでも来なかった。竜芽山脈の防衛ラインは放棄されたのだ。竜の国の戦力は壊滅状態で、ローガンダルレンを助けることはできない。彼は一人で竜芽山脈を守り続けた。押し寄せるエシエドール軍を止めるために、彼はとうとう限界を超えた……超えてしまった。 38
2016-04-16 18:12:56_魔法陣の力はもはや戻れない領域……超魔導領域へと到達し、彼自身にも制御不可能なレベルになってしまった。それでも彼は後悔しなかった。彼は無敵だ。エシエドール軍の戦略弾道光子魚雷の直撃に耐えたときは、誇らしさで一杯だった。そしてエシエドール帝国は自壊し、戦争は終わった。 39
2016-04-16 18:17:55「ことの重大さに気付いたときは、もう遅かった。僕が竜の国に帰還したら、竜の国は亡ぶんだ。竜の国はすっかり僕に怯えていた。抜身のナイフを持った人間に安心できるかい? しかも、そのナイフは自動的に君の心臓を狙う。僕は人間が好きなのに……人間は、僕を恐れ、忌み嫌うんだ」 40
2016-04-16 18:22:05【用語解説】 【光子魚雷】 科学文明を興したスムートハーピィが開発した大量破壊兵器。神々との戦争のために開発された。地上から発射する弾道タイプと、機動兵器に搭載する戦術タイプが存在する。その技術はエシエドール帝国に継承され、実践投入されたが、帝国崩壊と共に技術は断絶した
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