撮影隊が、記録映像を撮る為にカメラを回していたわ。 彼らは私の有様をみて、ぎょっとして様だった。私はそれに気が付いて不愉快に思ったけど、彼らに「あっちへ行け」とか言ったかどうかは覚えてないわ。
2016-12-04 20:40:37実家にて
私たちが帰宅すると海軍省のお役人さんがいて、家の外で待っていました。喪服のような黒いスーツに、何か不吉なものを感じたんです。子供たちを寝室にやり、彼を居間に通しました。 彼は言いました。「悪い知らせです」と。
2016-04-22 15:43:44子供たちには、私が伝えました。「敵に攻撃されて、おねえちゃんは死んだ」と。 彼が持ってきたバッグには、娘の持ち物が入っていました。万年筆と手帳と、歯ブラシ、コップ。娘が使っていた制帽もありました。
2016-04-22 15:51:38防御を貫く
誰かの防御が撃ち貫かれたときは、近くにいれば必ずわかるものです。砲弾が生身の部分に当たる音が聞こえるからです。なんともゾッとするような音がします。本当に、嫌な音です。以前にその音を聞いたことが無くとも、本能的にわかるんです。 砲弾が、肉や骨を砕く音だとわかるんです。
2016-04-22 18:07:37近距離での砲撃戦で、深海棲艦の装甲を撃ち貫く音が聞こえました。一瞬静かになった後、その深海棲艦はもの凄い悲鳴を上げました。たまたま、その場に居た全員が次弾を装填していて、両軍にその叫びが響きました。 我々も、深海棲艦も、その恐ろしい叫びを聞いて身震いしていました。
2016-04-22 18:16:21撃沈処分
最初の残骸は人型で、顔の半分がなくなっていました。体にも無数の傷が。私は機雷を設置しながら、彼女たちに話しかけました。 「いい? 着けるよ。はい、オッケー。うん、いいじゃない」 ……話しかけたわけじゃない。何も考えたくなかっただけ。
2016-04-22 22:24:36あるとき、姫級の残骸を見つけたわ。……いいえ、彼女はまだ生きていた。腹にひどい傷を受けていた。それが致命傷だったのね。彼女はまだ浮いて、息もあったけど、動ける状態じゃなかった。 だれが見つけたんだったかしら……
2016-04-22 22:36:45僚艦に呼ばれて見に行ったの。そしたら、その姫は日本語で話しかけてきた。そう、姫級は人語をはなせるのよ。 「いつか静かな、そんな海で、私も……」 ごめんなさい、ちょっと気分が……。
2016-04-22 22:42:42残骸を…残骸の、ひどい有様を思い出して……。敵も味方も、回収するものは回収して、あとは機雷を設置して処分するの。 姫には、日本語を喋ってほしくなかった。だってあんなのまるで……。
2016-04-22 22:47:20あれ、なんで私泣いてるんだろう…? 深海棲艦は敵なのに…敵でしょう? 私は、祖国を脅かす敵を倒したんだ。絶対に、絶対に……そうでしょう?
2016-04-22 22:53:43作戦完了
×月××日、帝国海軍任務部隊、防空棲姫を撃沈。FS方面における深海棲艦の組織的抵抗が終了する。同日、艦隊司令部、FS作戦の完了を宣言。この作戦における帝国軍の死者は……
2016-04-22 23:00:33帰還
凱旋の声高らかに、艦娘母艦と艦娘たちが汽笛を鳴らし、横須賀の港へ帰ってきました。テレビも、ラジオも、皆々帝国海軍の勝利を讃え、街は行進する人々であふれ、軍艦マーチが鳴り響きました。
2017-05-27 07:27:28やりきれない思いでした。誰がどうこうということではありません。ただ皆が帰って来たのに、娘は帰ってこなかったのです。
2016-04-22 23:06:01見も知らないやつが近寄ってきて、「深海棲艦を殺したかい?」なんて馬鹿なことを聞く。背中を叩いて、ビールをおごってくれたりもする。こっちも多少は愛想良くして、戦闘の話もしたさ。 でも決して、本当の話は言わなかった。今日まで誰にも言わなかったんだ。
2016-04-22 23:21:00演説
我々帝国臣民は、成されたことを誇りに思い、海につづられた英雄たちの歴史を誇りに思い、連合艦隊を讃える今日の日を誇り、そして…… 帝国人であることを、誇ります
2017-05-27 07:51:55