DAS BOOT
元ネタ
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ドイツ海軍は、深海戦争に二万人の少女をUボートとして海に送り出した。 彼女たちは戦い、勝利し、そして…… 一万八千が戻らなかった
2016-07-25 19:54:55バア・ロワイアルへの道のり
"ホテル・マジェスティック"の士官宿舎から"バア・ロワイアル"に行く道は海辺を走っている。五キロにわたって大きくカーブを描きながら。月は出ていないが、道路はほの白い帯となってちゃんと見えた。
2016-07-25 21:46:21戦隊旗艦<フロチラリーダー>は夜のレース・バーンを前にするかのようにアクセルを踏み込んだが、とたんにブレーキに踏み変えた。 タイヤの軋る音。 ブレーキをいったん放し、もう一度きゅっと。
2016-07-25 21:47:44"あねさん"と呼ばれる旗艦の腕はいい。重い車を尻も振らさず、何やら手を振り回している少女の前で止めた。ふらふらした足取り、明らかに泥酔している。
2016-07-25 21:48:11それがこちらのヘッドライトの光芒のわきで手を降ってる。青いプルオーバー、中尉の階級章、袖のマーク……潜水艦娘じゃないか!
2016-07-25 21:48:41彼女は車のボンネットをバンバンと叩くと、旗艦に向かって何事かと叫んだ。 「汝健気な小鹿! 汝の心を今射止めん!」 車内に気まずい沈黙。 「汝健気な小鹿! 汝の心を今射止めん!」 また叩かれるボンネット。あねさんの顔が険しくなる。今にも爆発しそう。
2016-07-25 21:50:15「うちの戦隊の艦娘だったな」 姉さんはスピードが上がるか上がらないかのうちに、またブレーキを踏まねばならなかった。 今度は余裕があった。遠くにふらふらの集団を認めたのである。
2016-07-25 21:51:41ヘッドライトに照らし出される少女の列。十人程度が道一杯にひろがっていた。みんなクラニ(海軍ジャケット。キールの仕立屋の名をとった)の艦娘。
2016-07-25 21:52:15近寄ってみてわかったのは、彼女らズボンをどこかに置いてきているということ。当然のようにパンティも履いていない。なんてこと、ここはあわびの陳列販売所か。
2016-07-25 21:52:37姉さんがクラクションを鳴らすと、列は二つに別れた。車はあわびの展示の間を通るかたち。 「散水車とか言ってるやつね。……うちの戦隊の艦娘もいるじゃないの」 後部座席からあきれ声。
2016-07-25 21:53:11絶景かな、絶景かな、彼女達が泥酔してくだをまいていなければ。どんなに飢えた男達も、この光景を前にしては、自慢の逸物も勃たないだろう。
2016-07-25 21:54:22車が通ると、彼女ら一斉に放尿した。 四方から放射される美少女達のおしっこ! ここまで安売りされると何の有り難みもない。
2016-07-25 21:54:48「ほかの連中は男娼街だ」 と姉さん。 男娼なら勃つのだろうか。彼らはプロフェッショナル、仕事とあらばなんとかするのだろう。 「男娼街も今日は大繁盛だな。メルケルは朝早くに出掛けて行ったが」
2016-07-25 21:55:19千メートルほど走ったところで、野戦憲兵の巡察が光芒に入ってきた。 「明日の朝、全員そろってればいいけど」 これは後部座席から。 「酔ってるとすぐ憲兵相手に問題を起こすんだから」
2016-07-25 21:55:52「私は憲兵に同情します」 艦娘は華奢な見た目のわりに強健だ。酔うと手がつけられない。さっきの散水車に暴漢が襲いかからないのもそのせい。返り討ちにあう。
2016-07-25 21:56:33「私ももう若くない」 まだ二十代前半だ。 「今日は忙しすぎた。午前中は葬儀。シャトーニュフの空襲でやられたUL戦隊の中尉の。その最中にまた空襲があった。深海棲艦の奴ら、礼儀を知らない。葬式中に襲い掛かってくるとはね。高射砲が十二機仕留めた」
2016-07-30 14:33:27「そのほかには?」 私は尋ねてみた。 「今日はそれだけさ。しかし昨日の銃殺だが、後味の悪いものだな。敵前逃亡。弁明の余地なし。新造のⅦ式C/42型だ。十歳。よそう、その話は」
2016-07-30 14:38:24「で、午後にはマジェスティックで豚を殺した。お祭りのつもりだったんだろうけど ーメッツェル・スープとかいう奴ー だれもうまいとは言わなかったよ」
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