2016年4月28日

【五・一五事件と純粋人間③】三十五万通の減刑嘆願書/~五・一五事件を起こした青年将校に「論理」は無かった~

イザヤ・ベンダサン『日本教について~あるユダヤ人への手紙~』/五・一五事件と純粋人間/人類史上もっとも卑劣な事件/三十五万通の減刑嘆願書/78頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①もっとも、五・一五事件と似たような暗殺の例は西欧にもあったではないか、という反論もあると思います。 いうまでもなくブルータスでしょう。 しかしここで、この海軍軍人とブルータスを比較すると、さらにわからなくなってしまうのです。<『日本教について/イザヤ・ベンダサン』

2016-04-25 10:38:52
山本七平bot @yamamoto7hei

②ブルータスは、あくまでも自分は共和国ローマに忠誠を捧げた人間であると規定し、従って共和国を覆滅しようと意図した者は共和国への反逆者としてこれに対処するという論理が成り立つ訳ですが、では一体、この海軍軍人にはどういう論理があったのでしょう。

2016-04-25 11:09:18
山本七平bot @yamamoto7hei

③実をいうと、今のべたような「論理」は日本人には皆無なのです。 私は第一便で、 日本人には条理はあっても論理はない と書きました。 これに対して日本の哲学者久野収氏は、この言葉は形而上学的な意味でなら正しい、といった意味の批評をされました。

2016-04-25 11:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

④だが実をいいますと、これを書きましたとき、私には「形而上学」が特に念頭にあったわけでなく、むしろ日常の言葉に論理がなく、従って論理的帰結の延長に行動があるわけではない、という点に注意が向いていましたので、この批評は全く意外でした。

2016-04-25 12:09:11
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤また、もし久野氏が「形而上的」には論理がなく、「形而下的」には論理があるという状態がありうると考えておられるなら、この考え方もまた非常に不思議だと思いました。

2016-04-25 12:38:52
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥従って、この海軍軍人の行動を、何らかの論理的思考の帰結から始まったと仮定し、その論理とブルータスの論理を比較しようとしても、何とも比較の方法がない不思議なことになってしまうのも、実は当然のことなのですが、ここで一応、仮定の論理を立ててみましょう。

2016-04-25 13:09:08
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦彼らは天皇に対して狂信的なほど忠誠な軍人であった筈です。 それならばこれは、いわゆる「王様クーデター」であったのでしょうか? 犬養老首相は国会の信任を楯に天皇と対立したのでしょうか? それならば彼らの行動は、是非は別として論理的に理解できます。 ところがそうではないのです。

2016-04-25 13:38:58
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧当時の憲法では、首相の任免権は天皇にありました。 従って首相を罷免できるのは天皇だけです。 では犬養老首相は天皇に罷免されながら、なおその職に留まろうとしたのでしょうか。 そうではないのです。

2016-04-25 14:09:15
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨…近衛公の手記によりますと、天皇は首相を任命する時三カ条の指示を与えたという事です。 第一条が憲法を重んじ憲法に従って政治を行なわねばならない 第二条が諸外国と協調しなければならない 第三条が財界に急激な変動を与えるような政策はとってはならない という三カ条であったそうです。

2016-04-25 14:38:53
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩日本には宣誓という伝統がありませんし、あるはずもないのですが、新首相が、この三カ条を指示されて、その通りにいたしますと応答したことは、一種の宣誓を行なったと考えてよいと思います。

2016-04-25 15:09:11
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪では犬養老首相は、天皇の三カ条に反する政策をとった――いわば天皇への一種の「宣誓違反」を犯したため、天皇に忠誠な軍人たちの怒りを買ったのでしょうか? そうではないのです。 むしろ逆であって、犬養老首相の政策は、まことにこの三カ条を忠実に守ったものでした。

2016-04-25 15:38:52
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫とすると、一体この軍人たちは何を考え、どのような思考(論理)の結論として、このように行動したのでしょうか。 実をいうと、以上のような思考は、戦前戦後を問わず、日本人にはないのです。 だが、と貴方はお考えになるでしょう。

2016-04-25 16:09:17
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬それならこれは明らかに天皇への反逆ではないか、 たとえいかに論理的思考がないとはいえ、これが反逆以外の事である筈がない―― 第一、陛下の軍人として携帯が許されている武器で陛下に任命され信任されている首相を殺すという事は天皇の権威への挑戦ではないか、と。

2016-04-25 16:38:53
山本七平bot @yamamoto7hei

⑭しかしそれなら彼らは帝政ロシアの虚無党員と対比できる筈です。虚無党員がツァーリの信任厚い大公を暗殺した時、これははっきりとツァーリ及びツァーリズムヘの挑戦であった訳ですから、同じように天皇の信任厚い首相を暗殺した者は…共産主義者か、少なくとも天皇制に不満をもっている者の筈です。

2016-04-25 17:09:16
山本七平bot @yamamoto7hei

⑮しかしそういう考え方も、日本教徒には初めからないのです。 この海軍軍人たちに、自分たちの行動が、虚無党員と同様に、少なくとも結果としては、天皇の権威に挑戦する行動であるという考え方が少しでもあったかといえば、はじめから全くないのです。

2016-04-25 17:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

①【35万通の減刑嘆願書】では一体何の罪で彼らは起訴されたのでしょうか。 反逆罪です。 それなら理解できる、と貴方は仰るでしょう。 今まで何やかやと不思議だったが、結局は反逆罪で起訴されたなら、日本人にも我々と同じような論理的思考がある証拠ではないかと。<『日本教について』

2016-04-25 18:09:06
山本七平bot @yamamoto7hei

②ところが実はこれが証拠にならないどころか、逆の証拠になってしまうのです。 反逆を犯したという意識は、反逆罪で起訴された彼らに皆無であり、起訴した検察官に皆無であり、裁判官に皆無であり、一般民衆にも皆無だった、といって良いと思います。

2016-04-25 18:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

③戦前の日本では、天皇への反逆は極刑であった筈です。 反逆罪で起訴されるという事が、即座に死刑を意味した筈です。 その上彼らは史上で最も卑劣な行動をとったのですから、日本文化が「恥の文化」なら、このような恥ずべき行ないをした反逆者に情状酌量の余地などある筈はありませんし、(続

2016-04-25 19:09:04
山本七平bot @yamamoto7hei

④続>たとえ軍の上層部が彼らの刑を軽減しようとしても、世論がこれに承服する筈はない、たとえだれが何かをして彼らを助けたとしても、少なくとも社会は彼らを受け入れる筈はない――と考えるのがわれわれの常識でしょう。 ところがそうではありませんでした。

2016-04-25 19:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤彼らの受けた判決は、一見重いようでしたが、実質的な服役では、その罪状から考えれば無罪に等しいといってよいでしょう。 また社会も、彼らを糾弾するように見えながら、実をいうと、彼らが裁判をうけている最中に、何と35万通もの減刑嘆願書が裁判長の手元に送られて来ているのです。

2016-04-25 20:09:12
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥これは日本裁判史上最高の数の減刑嘆願書ではないかと思います。 従って戦後一部の日本人が常に主張するように、当時は軍部が横暴で、他の日本人は言いたいことも言えなかったのだ、とはいえません。 嘆願書を送る義務はだれにもないはずですから。

2016-04-25 20:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦更に驚くべき事には、この事件の主犯が戦後堂々と参議院議員に立候補している事です。 私は彼以外に暗殺犯人が上院議員に立候補した例を知りません。 これも人類史上に特筆大書しておくべき「無恥の典型」かも知れませんし、或いは日本人は我々と全く別の世界に住んでいる証拠かも知れません。

2016-04-25 21:09:07

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