【「お前のお前」の責任③】二人称の「話し合い」の世界=天皇制/~「二人称のみの世界の対話方式」の二人の成功者、自らを純粋人間だと証明した恩田木工と美濃部都知事~

イザヤ・ベンダサン『日本教について~あるユダヤ人への手紙~』/「お前のお前」の責任/不思議な「対話の世界」/127頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①成功した二例とは、徳川時代に恩田木工という人がとった方式と、ごく最近に東京都知事美濃部亮吉氏がとった方式です(もっとも決定的に成果をあげたのは天皇ですが、これは次章にゆずります)。<『日本教について/イザヤ・ベンダサン』

2016-05-02 17:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

②恩田木工につきましては、近く『日本人とユダヤ人』の英語版が出ますからそれを参照していただくとして、美濃部氏と恩田木工の方法を対比して、その基本的共通性を探り、ついで日本を論じる場合、常に最終的には避けて通ることのできない天皇制の問題との関連も説明したいと思います。

2016-05-02 18:09:05
山本七平bot @yamamoto7hei

③恩田木工は、徳川時代に小さな藩の財政建直しをやった人ですが、彼の再建方法を一口でいえばまず第一に 「債務は一切帳消しとする」 でした。

2016-05-02 18:38:50
山本七平bot @yamamoto7hei

④二年先、三年先まで既に租税を収めている者に対して、これは「お上の取り得」だと言い、第二に、俸給を二分の一しか払ってなかった政庁の武士達に対しては、その未払い分は帳消しだとしました。

2016-05-02 19:09:03
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤第二に金を借りた町人に対しては支払は無期限に延期(お前達の子孫に払いうる事もあろうといって)と宣言しました。ただ租税の納付不能な者には、その未納分を徴収しないと言いました(ただし、これは実損はありません)。 これだけ言った上で、当年分の租税は月割にして完納せよ、と言った訳です。

2016-05-02 19:38:50
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥皮肉な言い方をすれば、もしこういう方法が可能ならば、現在の世界のあらゆる破産者も即座に立ち直れると思います。 領民たちは喜んでこれに従ったのですが、この場合すぐに誤解されることは、 「日本人は権力に弱い」 といった解釈です。

2016-05-02 20:09:08
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦彼らは権力に弱いから、このように不法な、あらゆる契約と契約に基づく権利とを一方的に蹂躙されても、奴隷のように従ったのだ、 と考えがちです。 否、そう考える以外に解釈の方法がないわけです。

2016-05-02 20:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧しかしこの考え方は誤りであり、事実に反します。 徳川時代の日本の農民を西欧の農奴と同様に考えてはなりません。 地方の農村では、武士と農民が完全に分れておらず、「郷士」といわれる武士兼農民が明治維新まで存在しつづけました。

2016-05-02 21:09:10
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨この「郷士」こそ、私の考えでは、日本における産業革命と近代化の担い手です。 先年、世界的に話題をまいた皇太子の平民出の花嫁は、正確にいうとこの郷士の子孫であり、郷士から小企業家となり、ついでその事業を大企業に発展させた人の娘です。

2016-05-02 21:38:53
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩また日本の農民は武器の所持は禁じられていたとはいえ、彼らには「竹槍」という天然の武器があり、一方当時の武士たちは、「小銃で武装をし、横隊で行進する」傭兵隊ではなかったので、領主たちも、圧倒的な銃砲で農民を弾圧することは不可能でした。

2016-05-02 22:09:13
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪事実、徳川時代を通じて記録に残る大きな農民一揆だけで千五百件以上あり、当時の領主たちは、農民の意向を無視して政治を行なうことは不可能でした。

2016-05-02 22:38:52
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫「百姓は国の基」というこの伝統は実に強く…現在でもほぼそのまま残り、日本の農民は今なお政府の特別の保護を受け、常識では考えられないほど高価な農産品を消費者に供給しており、これが日本にとっては耐えがたいほどの重荷となっているのですが、政府はこの問題には手がつけられないようです。

2016-05-02 23:09:14
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬恩田木工が前記の「改革」を行なった地方の農民も、もちろんいざとなれば、一斉に竹槍で武装して蜂起することもありうるわけで、時代は違いますが同地方で起った大規模な農民の一揆は有名で『信州義民録』の名で劇にまでなっております。

2016-05-02 23:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

⑭一方、未払俸給を切り捨てられた下級武士はどうだったでしょう。 武士というものは、上級者の命令ならどんな命令にも従うと思うのは誤りで、恩田木工の登場する少し前に、この地方で、下級武士のストライキが起っております。

2016-05-03 08:09:07
山本七平bot @yamamoto7hei

⑮従って彼らは権利を蹂踊されながら奴隷のように従ったのでなく、自らの意志で、進んで恩田木工の指示に従った事は、記録を仔細に検討すれば、全く疑問の余地がありません。 では一体、恩田木工はどういう方法をとったのでしょう。またそのどの点が美濃部東京都知事の行き方と似ているのでしょう。

2016-05-03 08:38:50
山本七平bot @yamamoto7hei

⑯美濃部都知事は、明治以来の最も信望が高くかつ人気のある地方長官といわれ、天皇についで人気があると、ある新聞は報じていますが、この両者に共通することは「対話方式」という一種独特の面白い方式をとっていることです。 ではまず恩田木工の「対話」を順序を追って記してみましょう。

2016-05-03 09:09:16
山本七平bot @yamamoto7hei

①対話をはじめる前に、彼はまず自分が「純粋人間」であることを立証しようとします。 そのため必要とあれば妻を離別し、子を勘当し、使用人を一切やめさせ、衣服その他はすべて新調せず、最低の食事・最低の生活も辞しません。<『日本教について/イザヤ・ベンダサン』

2016-05-03 09:38:52
山本七平bot @yamamoto7hei

②ついで自分の行為も言葉もすべて「純粋に領民のことのみを考えていること」を立証しようとします。 (話は横道にそれますが、前述の桂首相も岸首相もこの点でまず失格で、この二人を日本人は最も純粋でない人間と考えております)

2016-05-03 10:09:06
山本七平bot @yamamoto7hei

③さてこの立証が終ると、次に領民との「対話集会」を開きます。 すなわち総百姓に「よくものを言う者」をつれて城中に集まるように布令を出します。 美濃部氏の場合も同じで、選挙に際してまず氏が「純粋」であることが、家系および経歴等を通じてあらゆる面で強調されます。

2016-05-03 10:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

④この点では日本では未だに家系が大きな力をもっていることを、まざまざと見せつけられました。 次に氏が「純粋に都民のことのみを考えていること」を立証しようとします。

2016-05-03 11:09:12
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤すなわちある種の政党に所属すれば、政党のことを考えて都民のことを「純粋」に考えてくれないであろう(これは実に面白い考え方です)という危惧を打ち破るため、氏自身「自分は都民党である」と宣言します。 もちろんそういった政党は現実には存在しません。

2016-05-03 11:38:50
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥そして存在しないが故にこの言葉は、氏が「純粋」であると説得する力があるのです。 その上で「都民との対話集会」が開かれるのですが、東京都の人口は一千万人…ですから、対話は実際的には不可能で、おそらく様々の部門の「総百姓」と「よくものを言う者」とが招集されるのでしょう。

2016-05-03 12:09:07
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦ところでこの「対話集会」ですが、これが実に不思議な集会なのです。 恩田木工は、この集会の人びとと徹底的に議論して、その多数決に従って、何かを決定しようとしたわけではないのです。 といって前記の方針を命令のように一方的に布告したのでもないのです。

2016-05-03 12:38:52
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧そんなことをしたら、たちまち収拾のつかない一揆になります(この逆である岸首相の強行採決は、大一揆を引起すのが当然と思われます)。 一方美濃部氏の「対話集会」ももちろん、この集会で何か議決されて、知事がその議決に従うわけでもないのです。

2016-05-03 13:09:09
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨東京都には議決機関として都議会があるのですし、この対話集会は何ら法的な基礎をもつ集会ではありませんから、日本が法治国である以上、そういう事は不可能です。では、都知事の、法に基づく指示を徹底する為の集会なのでしょうか。そうではありません。何はともあれ、これは「話し合い」なのです。

2016-05-03 13:38:54