【萩に吹く風】

友情を取るか、打算を優先するか。考えて選べ
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雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

雨が降りしきるある日。時間は昼だが、外は夕暮れの如く暗い。汚染された雲が空を覆っているからだ。 宿毛湾泊地とある部屋で、フードを深く被った女性が作業をしていた。その部屋は、所謂執務室である。だが内装はとても、執務室などと呼べるものではない程に埃が舞い、散らかっている

2016-04-16 22:31:37
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

部屋中に糸が張り巡らされていた。1本の黒い糸を中心に、幾つもの糸が蜘蛛の巣めいて結ばれている。女性は糸に、クリップに留められた紙切れを吊るす作業をしている。「沖ノ島陥落!」「本土侵攻!艦娘の失態」物々しいフォントで文字が書かれたそれは、新聞や雑誌の記事の切れ端のようだ

2016-04-16 22:34:12
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

新聞記事以外にも、人物の写真や作戦報告書のようなものも吊るされていた。全ての紙には日付が正確に書き記されている。「コロネハイカラ輸送作戦実施!」と書かれた紙を吊るし、糸を結んだ時、女性は何かに気付き、執務室の机の上に上がり部屋を見渡した。そして呟く 「ついに見つけた」

2016-04-16 22:36:25
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

背後で雷が煌めく。女性は強く目を閉じた。数秒遅れて雷鳴が轟く。雷が収まった頃、女性の姿は跡形もなく消え去っていた

2016-04-16 22:38:41
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【交錯する禁断の糸】第1話-萩に吹く風-

2016-04-16 22:39:17
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宿毛湾・雪花-瑠奈花と麾下 執務室では今司令部にいる艦娘達、瑠奈花、そして見慣れぬ艦娘が1人集まっていた。瑠奈花は机上に乱雑に散らばった書類を綺麗に整えてから、集まった麾下に新たな“仲間”を紹介した 「大規模作戦の前に、新しい仲間を迎える。駆逐艦、萩風だ」

2016-04-16 22:41:18
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「どうも、陽炎型十七番艦の萩風です。どうかお見知りおきを」 見慣れぬ紫髪の少女は萩風と名乗った。萩風はお淑やかにお辞儀をした 「…司令官、しばらく仲間は迎えないはずでは?」 「上からの通達だ。面倒を見てやれとのことらしい」

2016-04-16 22:42:21
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不思議そうに尋ねる吹雪に、瑠奈花は門川から届いた書類を見せて事の成り行きを説明した。そもそもは萩風が上層部からの通達と共に雪花を訪れたのが始まりだ。吹雪がまじまじと書類を見つめているのを、瑠奈花は珍しく感じた

2016-04-16 22:43:13
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「よろしくね、萩風ちゃん!」 「ふふ、よろしくお願いします」 雪花は新しい仲間の加入に沸き上がり、萩風は既に馴染んでいる様子だった。その様子を見ていると、萩風は集団から抜け出て、瑠奈花に尋ねた 「こちらには、陽炎型はいないのですか?」

2016-04-16 22:44:50
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なんだかんだ、親しい仲間がいなければ不安か、と瑠奈花は思った 「そうだな。知り合いのところなら雪風や舞風、天津風やらがいるのだが。そうだ、その天津風と親しい島風がいる。島風」 「はいはい。なーに?」 「君の部屋は確か空いていたな。萩風をルームメイトにしてあげてくれ」

2016-04-16 22:46:27
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「いいよ。よろしくね」 「こちらこそ…よろしくお願いします」 「雪花を案内したげる」 島風は萩風の腕を引っ張り、そそくさと部屋を出ていった。他の仲間達もそれに続き、萩風についていく者、それぞれの仕事に戻る者に別れて退室していった

2016-04-16 22:47:21
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「キミ、前はどこにいたの?」 「えっ!?えっと…」 「?」 島風に尋ねられた萩風は一瞬戸惑ったが、すぐに答えた 「よ、横須賀にいました」 「へえー。すごいじゃん」

2016-04-16 22:47:57
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「そうですか?」 「だって横須賀と言えば歴戦の勇将が集まる海軍の中心地だよ。活躍してたんでしょ?」 島風の中では、横須賀は瑠奈花と親しい元帥や彼の友人である猫のようなあだ名の猛将がゴロゴロいるイメージらしい 「そんなことは…横須賀にはいましたけど、下っ端でしたし」

2016-04-16 22:49:20
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「ふーん。ここが私の部屋ね」 「お邪魔します。あら」 萩風は口を抑えて島風の部屋を見渡す。散らかっていた 「ごめんねー散らかってて。すぐ片付けるよ。一人部屋だから好き勝手できる分、整理整頓疎かにしちゃうんだよね」 「ふふ、手伝いましょうか?」 「おねがーい」

2016-04-16 22:51:46
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それからしばらくの間、島風と萩風は仲良く過ごした。元々島風は吹雪と絡むことが多かったが、今は萩風と共にいることが多くなっていた。吹雪はそんな島風の様子を気にしていた。ある日、ついに吹雪は島風に、萩風について尋ねた

2016-04-16 22:53:16
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「島風ちゃん」 「ん、どしたの」 「いや、最近萩風ちゃんと仲良くしてるなと思って」 「まあね。ルームメイトだし」 島風はにひひ、と笑いながら答えた。彼女はずっと一人部屋だった。元は島風自身が望んだことだったが、やはりルームメイトがいると嬉しいのだろう

2016-04-16 22:54:15
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

だが吹雪には気になることがあった。先日瑠奈花に見せてもらった書類を元に、萩風について調べていたのだ 「ここだけの話、萩風ちゃん、ここに来る前の経歴が不明なの」 「そうなの?」 島風はきょとんとした顔で聞き返す 「なんでそんなこと知ってるの」

2016-04-16 22:56:41
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「ちょっと調べてみたのよ。あの子なんか怪しいよ。気をつけた方が」 「何それ。そんなこと言いに来たの?わざわざ経歴まで調べて」 島風は目を細めて吹雪を見た。言葉を間違えた、と吹雪は思った。気をつけた方がいい、ということを伝えたいだけなのだが

2016-04-16 22:58:23
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「悪いと言ってるわけじゃないよ…ただ」 「もしかして、新しい子と仲良くしてる私に嫉妬してる?吹雪にもそんなところあるのね」 「いや…」 そういうわけじゃ、と言いかけた吹雪を差し置いて島風は笑いながら話し続けた。彼女は会話も早い

2016-04-16 22:59:50
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「ふふん、そんな意地悪言うんじゃ、もーっと萩風ちゃんと仲良くしてやるんだから。じゃーね」 吹雪は呆然と立ち尽くして、踵を返して立ち去っていく島風を見つめた。そして、普段の吹雪からは想像できないほど暗い声で、小さく呟いた 「島風…」

2016-04-16 23:00:49
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

その日の夜、島風と萩風は小さなシングルベッドに2人で寝ていた。瑠奈花が萩風の分のベッドも発注してくれたのだが、こうして寝ることも少なくない。窮屈ではあったが満足していた 「ね、萩風ちゃん」 「なあに?」 「私達、友達だよね?」

2016-04-16 23:02:40
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

先程の吹雪との会話が脳裏をよぎる。少し気に障る言い方をしたかもしれないが、悪いとは思ってない。そんなつもりではないし、そんな事で仲が拗れるほど雪花の絆を甘く見てはいない 「どうしたの急に」 「私ちょっと嬉しいの。あまり友達とかいなくてさ。雪花に来てからはそうでもないんだけどね」

2016-04-16 23:04:00
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

吹雪との会話を萩風は聞いていない。だがなんとなく島風の考えを察した萩風は優しく言った 「私達は友達よ」 「…ありがと」 安心したのか、島風はすぐ眠った。萩風も眠ろうとしたが、なかなか寝付けなかった。萩風はゆっくりと身体を起こす

2016-04-16 23:06:00
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

いつものことだった。夜は落ち着かない。恐怖に似た感情に襲われるからだ 「…友達、か」 島風の言葉をふと思い出した。島風が熟睡しているのを確認してベッドを降り、ベランダに出て月を眺めた。脳裏には、男勝りなある少女の姿が浮かぶ

2016-04-16 23:07:40