- DD_LUNAKICHI
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「あー、ごほん。皆、今回の作戦、お疲れ様でした」 ここは第二次マレー沖海戦の拠点として設置された本営の一角。一夏の奇妙な作戦を戦い抜いた男達が酒を囲んで集っていた。「此度の戦いにおける諸将の活躍、見事でした。皆さんを労うため、即席ではあるがこのような酒宴の場を用意させてもらった」
2016-09-06 23:12:29「今日は普段の激務を忘れ、存分に楽しんで…うーん」1人酒を片手に立ち上がり乾杯の言を述べていた、額に札を貼り付けた男は間が悪そうに言葉を濁した。「思うんだけど、なんで私が幹事なん?」 「おう、あんたと決まったんだから最後までやれや」グラサンを掛けた大男、リカルドが茶化す
2016-09-06 23:13:36なんでと言われても仕方ない。ジャンケンによる厳正なる勝負の結果、幹事役はこの札の男―葛葵に決まったのだ。 「ええい、面倒だ。とりあえず、乾杯!」「「「乾杯!!!」」」 男達、そして彼らの麾下である艦娘達は一斉に、互いを労い盃を交わす。
2016-09-06 23:14:45彼らはこの作戦で起こった不思議な経験を語り合い、飲み、親交を深めた。宴もたけなわ、瑠奈花は早々に酒を遠慮してメロンソーダにシフトし、ザハ、楓と語らっていた。 「本土に帰ればもう秋か。時間が経つのは早いねえ」「ええ、過ぎてしまえばあっという間。時間なんてそんなものです」
2016-09-06 23:16:21「秋と言えば、瑠奈花さんは何を思い浮かべる?」ザハが尋ねる。「そうですね…そういえば、私の故郷は漁村だった。秋は村の漁師達がよく秋刀魚を獲ってきたものだ」「なるほど秋刀魚かあ。悪くないけど、うちらには苦い思い出もあるなあ…」楓は昨年の記憶に思いを馳せ、頭を抱えた
2016-09-06 23:17:15「なるほど秋刀魚ですか。私なら、秋と言えばおいもです。秋はおいもが美味しいですよね」「芋…焼き芋か。なるほどそれもいい…ん?」ザハは突然隣から聞こえていた聞き慣れぬ声に驚いた。「君は…海風か?」「おや、ザハ提督。お久しぶりです」海風と呼ばれた艦娘は丁寧にお辞儀をした
2016-09-06 23:18:01「ん?海風?参加してたっけ?」横から葛葵が首を突っ込む。「何故ここにいるんだ?」瑠奈花が尋ねた。「にょろはいつもの放浪癖で不在と聞いていたが」 (いつもの…放浪癖…?)楓は思わず聞き返そうとしたが、話の邪魔をしないようにと抑えた。「それがですね、先日フラリと戻ってきたのですよ」
2016-09-06 23:19:03「帰還して早速、神山提督はこう言いました。「るなかを連れてこい」と。今は大規模作戦中だと言ったら、「じゃあ終わったら連れてきて」ですって」「それでここまで?手間を掛けたな…」 楓は2人の邪魔をしないようにと少し離れ、ザハと葛葵に尋ねた。「神山提督ってどなただろう。何か知ってる?」
2016-09-06 23:20:53「るなか司令官の知り合いの方だそうだよ。詳しくは知らないが…」「私は何度か会ったことあるよ」とザハ。「幌筵所属で、絵を描くのが得意な、ちょっと変わった人…と言ったところか」「へえ…」 3人は顔を合わせ、瑠奈花と海風の会話を聞いていた
2016-09-06 23:22:17「仕方ないな。では後日向かうと伝えて欲しい」「わかりました!」海風は再度お辞儀をし、去っていった。と思いきや、しれっと酒宴の席に混ざって食事を漁り始めた。 「るなか司令官、なんだって?」「よくわかりませんが、私に用があるらしい。後日幌筵へ行くことになった」「それはそれは…」
2016-09-06 23:25:06葛葵は一瞬考え、そして言った「るなか氏。提案なんだが、その幌筵行き、同道させて貰えないかい」「構いませんが…何故?」「なに、神山提督がどんな方か少し気になってね。彼女とは一瞬会ったくらいしか面識がないからね」「それならうちも」楓が挙手した。「うちもその人に興味が沸いたよ」
2016-09-06 23:29:47瑠奈花は一瞬、渋い顔をした。「私達がいると都合が悪いかな?」「そんなことはありませんが…ただ」瑠奈花の顔にはまるで「めんどくさい」という言葉が書かれている様であった。「いえ、なんでもありません。何を見ても驚かないように心の準備をしておいてください」
2016-09-06 23:31:42神山ミシロが拠点、笏楠花の鎮守府は、辺境の地幌筵の一角にある。鎮守府の裏はサスペンスドラマの終盤で使われてそうな切り立った崖になっており、常に冷たい風が吹く寒地である。幌筵島に飛空艇を停泊させた瑠奈花一行は海風の案内で笏楠花を目指した。
2016-09-06 23:34:30「うう、寒いなぁ。冬を先取りしたみたいだ」「本州はまだ秋だがここまで寒いとは、流石北方の最前線と言ったところか」それぞれ葛葵と楓のお付きで同行した朝霜と長門は肌寒い環境に身体を震わせた。瑠奈花曰く、笏楠花付近の地域は季節に関係なく気温が上がる事は滅多にないらしい
2016-09-06 23:36:35「こんな厳しい環境に身を置くとは…余程の強者と見た」「でもその神山とかって人、放浪癖があるんだろ?仕事を真面目にやってるようには思えないけどなァ」「あはは…」雪花の同行者、吹雪は苦笑いした そうこう言っている間に、一行は笏楠花に到着した。何の変哲もない、よく見るタイプの鎮守府だ
2016-09-06 23:38:28「さて…」瑠奈花が扉に手を掛けると、何故か吹雪は身構えた。葛葵達が吹雪の行動を測りかねている間に、笏楠花の扉が開かれた。突如、コートを着た何者かが瑠奈花に飛びついた! 「るなか!るなか!会いたかった!よしよし!」「あーッ!やめてくださいーッ!」吹雪は必死でその女性を引き剥がす!
2016-09-06 23:40:06葛葵達は唖然としてそれを見た。瑠奈花は抵抗するのを諦めたかの如く不動であった。「…にょろ、挨拶を」「ああ、そうでした!」「ふぎゃ!」女性は吹雪を突き飛ばし、葛葵達に面と向かった。 「えっと、ほぼ、初めまして。神山ミシロです。ヨロシク」「は、はあ…」葛葵達は呆気にとられていた
2016-09-06 23:43:35「この方が葛葵中将、その麾下の朝霜。こちらが、楓提督と長門だ」瑠奈花が2人を紹介した。「葛葵さんに楓さんね。やっぱり本物は違う…」「え?」「なんでもない!こっちの話」「はあ」楓は困惑して頭を掻いた。(…どうやら変人というのは本当らしいな)楓の耳元で長門がボソリと呟く
2016-09-06 23:46:38「それで、今までどこで何をしていたのだ」「秘密。ま、入って入って」ミシロの麾下、海風と初月が一行を案内する。建物の中は暖房が効いていたが、ミシロは寒がりなのか、コートを脱ごうとしない。 「…まあいい。それで、何故私を呼んだ?」「おお、よく聞いてくれたなるなたそ」「るなたそ言うな」
2016-09-06 23:48:52(神山提督はいつもこんな調子なのかい?)葛葵は小声で吹雪に尋ねた。(まあ、その、なんというか…こんな調子です)着いたばかりなのに吹雪の顔は妙に疲れていた。 ミシロは一行を執務室に迎え入れた。執務室の至るところに絵が飾ってあり、画材なども随所に置かれている。
2016-09-06 23:51:19「なかなか上手いじゃん。絵描きの提督ってのは本当みたいだな」朝霜が感心した。執務室というよりは、アトリエのような雰囲気だ。ミシロは引き出しを漁り1枚の絵を引っ張り出す。それは雄々しくも美しい一匹の魚の絵であった。ミシロは自身げに瑠奈花に絵を見せ、そして言った。
2016-09-06 23:54:31