【猛き咆哮、極北を流離う】

荒波の先、栄光をその手に掴み取れ
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雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

前回のあらすじ 「北海の主、幻の鮭を、食べてみたくない?」

2016-09-10 23:37:37
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「鮭…ですか?」楓は静寂に包まれた空気を打開すべく、ミシロに尋ねた。 「そう、鮭です。この北の海には、主と呼ばれる鮭がいる」「聞いたことがあるぞ」長門が思い出したように口にした。「確か通称は、トキワタリといったか」「そう、それです!」

2016-09-10 23:38:56
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幻の鮭、トキワタリ。まるで悠久の時を生きてきたかの如く巨大に成長し、力強く引き締まった身にはこれ以上なく脂がのり、その味は神ですら舌鼓を打ち絶賛するほど。ただし、発見された例は極端に少なく、伝承によっては数百年に1度しかこの世に姿を現さないとも言われているらしい。

2016-09-10 23:40:02
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「これ見て!」「そんなに近づけなくても見える…」ミシロは瑠奈花に魚の絵を押し付けた。絵の魚は恐らく、トキワタリ。端にはミシロのサインと共に今年の西暦が刻まれている。 「これ、数年前に描いた絵なんだけど、描かれてるのは今年の西暦なの。つまり!」

2016-09-10 23:40:43
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「今年、トキワタリが姿を現していると?」「そういうこと!るなたそには是非トキワタリを釣ってきてもらいたい!」「なるほど…いや待て」ミシロが最後に言った言葉を瑠奈花は聞き逃さなかった。 「釣ってきて、だって?君が釣ったトキワタリを私たちに振舞ってくれるのではないのか?」

2016-09-10 23:42:09
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「違うけど」「え、私達ここまで来ておいて更に魚釣りやらされるんですか?」吹雪は肩を落とした。その後ろで、葛葵と楓は全く同じことを考えていた。 ((これは神山提督がただ食べたいだけだな…))2人は顔を見合わせた。「楓ちんもそう思う?」「まあ、それしかないよね」

2016-09-10 23:43:32
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「神山提督…変人というよりは、フリーダムいうか…」「行きの飛空艇で瑠奈花さんが言ってたね。神山提督は後輩のようなものだって。先輩にあんな無茶振りするとは確かに自由なお方だ…」2人が話しているうちにミシロ達の会話は長門と朝霜をも巻き込んで白熱していた

2016-09-10 23:45:15
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「はっきり言う。私はトキワタリが食べたい」「あ、ぶっちゃけたね」楓が笑った。「というか、漁に出るるなかという構図が見たい」(それが本音か!)葛葵が心の中で突っ込む。「漁に出るるなか。ソイヤるなか。それが今のトレンドなんだ。秋雲大先生もそう言っておられる」

2016-09-10 23:45:49
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「そんな無茶な」「瑠奈花さんも災難だね…」「どう思う?瑠奈花氏は引き受けるかな」「うーん」楓は頭を捻った。トキワタリは幻と言われている魚である。本当にいるかどうかすらわからない。その手掛かりはミシロの「絵」である。大方、瑠奈花を創作のネタにしたいだけなのでは、と楓は考えた

2016-09-10 23:47:09
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故に、鮮明な瑠奈花であれば得にならない提案は断ると考えたのだが… 「全く、仕方ないな…」「本気ですか司令官!?」瑠奈花はミシロの依頼を嫌な顔せず引き受けた。これは葛葵にとっても意外だった。 「瑠奈花氏、引き受けたな。何が彼を突き動かしたのか…」

2016-09-10 23:47:58
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不思議がる葛葵をよそに、艦娘達ははしゃいでいた。 「私疲れてるのにぃ…」「いいじゃんか、幻の魚だぜ?ワクワクしてくるじゃん!」「神ですら絶賛し、中枢棲姫も土下座するというその味、楽しみではないか?」「何言ってるんですか長門さん…」朝霜と長門は妙にノリノリである。

2016-09-10 23:49:03
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「そうと決まれば準備をしよう!」ミシロは瑠奈花と吹雪を引っ張っていく。朝霜と長門も意気揚々と続いた。取り残された葛葵と楓はしばらく言葉を失っていた。 「これは…私らも手伝う流れか?」「まあ…いいんじゃない?乗り掛かった船ってやつ」

2016-09-10 23:50:32
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「神山提督のどこに瑠奈花さんを動かす力があるのかも気になるし、うちは手伝うよ。長門もやる気だしね」「まじか…」意外と乗り気な楓の後を、葛葵は愚痴りながらついていった。「戦史研究室の仕事の方が余程楽なんじゃ…ブツブツ」

2016-09-10 23:51:12
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笏楠花の母港には、既に漁船が用意されていた。一行は漁船に漁具を積み込み、準備を進めた。吹雪と朝霜は秋の装いで着る予定だった法被を纏い、瑠奈花、楓、長門は褌の上に極北の海に耐えうる分厚いコートを羽織っていた。 「…それ、着る必要あるのか?」葛葵は唯一、瑠奈花達の格好に疑問を抱いた

2016-09-10 23:53:27
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「これは漁に出る海の漢の正装なのだそうです。生半可な覚悟で漁に臨むのは獲物に対して失礼だと。やるからには全力でやらねば」褌はミシロが用意したらしい。曰く、海の漢の戦装束なのだとか。 「しかし、長門さんは似合っていらっしゃる…」「そうか?しかし、動きやすくてなかなか快適だぞ」

2016-09-10 23:58:35
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「これは実にいい。提督、これからは褌を我らが紅葉の正装にしては…」「はは、それは遠慮しようかな」楓は長門の暴走を抑えると葛葵を見た。「ところで中将は着ないのかい?」「いや私は…いい。船の操舵を担当するから」葛葵は逃げるようにそそくさと操舵室へ向かっていった

2016-09-10 23:59:23
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「せっかく中将さんの分も用意したのに…」ミシロは残念そうに呟いた。葛葵はコートだけ受け取って行ってしまったのだ。瑠奈花は呆れた。「まあ、無理強いはできまい。一応彼は私や君より地位は上なんだぞ…」「ふーん、まあいいや」

2016-09-11 00:01:02
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甲板上では吹雪と朝霜が漁具の手入れを行っていた。昨日のやる気のなさがどこへやら、吹雪はテキパキと調整をこなしている。 「どうしたよ、やけに気合入ってんじゃん」「私と司令官は一心同体ですから。やるとなれば全力です」「ま、頑張ろうぜ。上手く釣れれば最高に美味いトキワタリが食えるさ」

2016-09-11 00:02:04
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「吹雪、調整は済んだか?」「はい、万全です!」吹雪は力強く頷いた。 「葛葵中将、楓提督。まずはご助力、感謝する」「ま、気にせんでええぞ」葛葵が操舵室から顔を出した 「今回の漁は、専用の流し網で行おうと思う。トキワタリの探知は吹雪か朝霜に任せたい。操舵士との連携が重要になる」

2016-09-11 00:02:45
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「ならあたいに任せときな」探知役に朝霜が名乗りを挙げる。「操舵士がうちの司令ならあたいの方が連携しやすいだろ」 「確かに、普段から一緒にいる朝霜さんの方が、葛葵提督との連携は上手くいきそうですね」吹雪が頷く。 「うむ、ではソナーは朝霜に任せる。中将もよろしくお願いします」

2016-09-11 00:04:50
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葛葵は瑠奈花達に親指を立てると、操舵室に引っ込んだ。 「朝霜が標的を探知したら、楓提督と吹雪には奴を引きつけるために餌を撒いてもらう。トキワタリを引きつけ、すれ違いざまに網に掛けるのだ。そうしたら、私と長門とで引き揚げる。この段取りで行こうと思う」「なるほど、心得た」

2016-09-11 00:05:22
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「あと、引き揚げた後も注意ね」ミシロが付け足した。「トキワタリはとてつもなく大きく成長してるから、とんでもなく暴れまくるのよ。引き揚げたところで確実に仕留めないと船をひっくり返されちゃう」「そ、そんなに凄まじいんですか…」吹雪は脳裏にイメージを巡らせようとするが、実感が沸かない

2016-09-11 00:05:58