【猛き咆哮、極北を流離う】

荒波の先、栄光をその手に掴み取れ
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雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「まあ、そうなったらあたいら艦娘の出番ってわけよ」朝霜が連装砲を掲げた。「あたいと吹雪で確実に仕留めてやるさ」「うむ、頼りにしているぞ。私も艤装を使えればよかったのだがな」「長門はダメだね。君の艤装を使ったら船が吹き飛んでしまうよ」

2016-09-11 00:08:32
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

各々が役目を確認したところで、再び葛葵が顔を覗かせた。「そろそろ出るかい?」「ええ、お願いします」瑠奈花の合図で漁船が港を離れ、北海を目指し出航した。

2016-09-11 00:08:57
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北の海は比較的穏やかであった。冷たい風が吹き付けるが、大時化の海よりは余程いい。 「秋刀魚漁とトキワタリ漁、どっちが楽かな」興味本位で楓が尋ねる。「そりゃあ秋刀魚漁じゃないですか?」とミシロ。「秋刀魚は大人しいけど、トキワタリは暴れん坊ですよ。下手すりゃ船底に穴開けられるかも」

2016-09-11 00:10:34
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「ううむ、色々と話が誇張され過ぎてどれが本当なのかわからんな」長門が唸る。「それこそ幻だからねぇ。北海の覇王、悠久の時を越えてきた、神ですら絶賛する味、色々言われてますけど、中には誇張された表現もあるでしょうね」

2016-09-11 00:11:59
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「少なくとも、巨大に成長したということは現実であることを願う。大きければ余った分を紅葉の皆へ土産に持って帰れるだろう。まあ、そもそも本当にトキワタリがいるなら、の話だが」「あ、長門さん、疑ってますね?」ミシロは懐から1枚の絵を、あの魚の絵を取り出した

2016-09-11 00:13:15
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「この季節、トキワタリは必ずこの海にいる。それだけは保証するよ」「そうだ神山さん、聞きたいことがあったんだ」楓はその魚の絵を見ながら、ミシロに尋ねようとした。「一体なぜ、あなたはそこまで自信が…」その時、朝霜が素っ頓狂な声を挙げる

2016-09-11 00:13:59
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「ソナーに感あり!なんだこりゃ!?」「朝霜、どうした!」長門が叫ぶ! 「とてつもなくでかい何かがいる!深海棲艦…ってわけじゃなさそうだけど」「恐らくそれがトキワタリだ!中将に場所を伝えてくれ!」「応!」船上が一気に慌ただしくなる

2016-09-11 00:14:43
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「吹雪!楓提督!撒き餌の用意を!」「了解!」舵が大きく切られ、船が方向転換する。やがて、餌に釣られて海面に巨大な魚影が姿を現す! 「な、なんだあれは!?」長門が驚嘆の声を漏らす。「あの大きさ、魚の規格をゆうに越えている!」「あれがトキワタリだ!こちらに向かってくるぞ!」

2016-09-11 00:16:05
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瑠奈花と長門は意を決して網に手を掛ける。船の方向が微調整され、船と魚影が凄まじい速度ですれ違う。魚影がぴったり網に掛かる!その瞬間、瑠奈花の身体が反動で吹き飛ぶ!「うわっ!」「危ない!」間一髪のところで長門が瑠奈花を受け止めた。「くっ、なんて力だ!」

2016-09-11 00:18:10
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瑠奈花だけではない。船全体が急ブレーキをかけたかの如く急停止した。左弦の網を軸として船が大きく旋回し、制御不能の事態に陥る! 「瑠奈花殿!」「わかっている!」このままでは船はトキワタリに引きずられらいずれ転覆してしまうだろう。こうなればトキワタリを引き揚げ、仕留めるしかない。

2016-09-11 00:19:15
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「…ソイヤッ!」瑠奈花は雄々しく吠え、網を引く!「ソイヤッ!」長門が剛力で網を掴み加勢する!「ソイヤッ!」更に楓が加わる!ブチブチと網が僅かに切れ始めた!「「ソイヤッ!ソイヤッ!」」法被を脱ぎ捨て、吹雪と朝霜が残りの網を掴む!網が完全に切れる前にトキワタリを引き揚げねばならない!

2016-09-11 00:20:48
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「ソイヤッ!」「ソイヤッ!」「ソイヤッ!」「ソイヤッ!」「ソイヤッ!」「ソイヤッ!」「ソイヤッ!」「ソイヤッ!」「ソイヤッ!」「ソイヤッ!」「ソイヤッ!」「ソイヤッ!」「ソイヤッ!」「ソイヤッ!」「ソイヤッ!」「ソイヤッ!」「ソイヤッ!」「ソイヤッ!」「ソイヤッ!」「ソイヤッ!」

2016-09-11 00:21:47
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「ソイ、ヤァアアアアアアア!!!!」極北の海に猛々しい咆哮が響き渡る。トキワタリは網を破り、宙を舞った。「あ、あれが…」「トキワタリ!」葛葵とミシロは雄々しく躍動する幻の魚を見た。重い音を立てて、トキワタリの巨大な身が甲板に叩きつけられる。

2016-09-11 00:22:17
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「よっしゃあ!獲ったぞ!」朝霜が歓喜の声を挙げる。「ーーーーー!」トキワタリは激しく暴れ、船を揺らす!「このままではどのみち転覆してしまうぞ!」葛葵が叫ぶ!「わかってらあ!」朝霜と吹雪が連装砲でトキワタリの脳天を撃つ。だがしかし、弾丸が弾かれてしまう!

2016-09-11 00:23:07
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「うっそだろ!?深海棲艦の装甲も貫ける艤装だぞ!」「悠久の時を生きた身は伊達ではないということですか…!」尚も暴れるトキワタリ! 「長門!楓提督!奴の動きを止められるか!」瑠奈花がライトセーバーを構えた。艤装で貫けぬ今、使えるのはこれしかない。

2016-09-11 00:24:01
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「相分かった」「任せて!」楓がカマを掴み、動きを抑える。「はあぁぁッ!」そして長門が、渾身の鉄拳を叩き込む! 「ーーーーー!」トキワタリの動きが若干鈍る!「今です、司令官!」瑠奈花はライトセーバーを起動した。蒼き刃、そして左右に発現するクロスガードブレードが美しく輝く!

2016-09-11 00:25:37
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「さらばだ、トキワタリよ」蒼い光刃がトキワタリの脳天を貫いた。トキワタリは遂に動かなくなる。幻との激闘を制した一行は堂々と獲物を掲げ、笏楠花に帰還したのだった。

2016-09-11 00:27:14
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「で、なんでいきなり鮭を獲るなんて話が出たんだ」 後日、一行は笏楠花の食堂で幻のトキワタリを食していた。その味は伝承に違わぬ絶品であり、どのように調理しても褪せることのない味であった。しかし、卓に出されたトキワタリは獲った個体の大きさに対して妙に少なかった。

2016-09-11 00:28:20
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「実はちょっと前に、地元の漁師さんの船が戦闘に巻き込まれて大破しちゃった事件があってね」ミシロは刺身を頬張りながら事情を話した。「私、前からずっと言ってたのよ。この時期はトキワタリが現れるって。そんで、漁師さんたちみんな張り切ってたんだけども」「漁に出られなくなったと」

2016-09-11 00:29:52
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「そういうこと。久しぶりに帰ってきたら驚いちゃってさ。なんとかしてあげたいなって思ったわけ」 「ということは、卓に出てきたのが少ないのは彼らにお裾分けしたからかい?」葛葵が尋ねる。「そうです。苦労してもらったのにすいません」ミシロは頭を下げた。これが彼女の本心ということだろう。

2016-09-11 00:31:17
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「一応みんなのお土産分は取り置いてあるから持って帰って食べてね」「そんな事情があるなら、うちらのことは構わずに漁師の皆さんに…」「まあいいじゃないか」と葛葵。「この戦いの…まあ漁だけど、勲章みたいなものだ。遠慮なく貰っていこう」

2016-09-11 00:32:41
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「今回は協力してくれてありがとう。おかげさまでふんどしるなかといういい構図が描けそうです」静かになった空気に笑いが広がった。「神山提督、あとでzipでお願いします」吹雪が興奮気味に食いついた。瑠奈花は何かを諦めた顔で頭を抱えていた。彼らの様子を見て、葛葵は静かに楓に話しかける

2016-09-11 00:33:52
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「結局、神山提督の本心も、何が瑠奈花氏を動かしたのかも、よくわからんな」「まあ、何かこう、切っても切れない絆みたいなのがあるんじゃないかな。あの二人には」「どうなんだろうねぇ」葛葵は神山の雑談に加わった朝霜達と、間が悪そうにしかめっ面をする瑠奈花の様子を見た。

2016-09-11 00:34:56