第4話 「序章」 パート1

おはなしのはじまり
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白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

___ その日、彼女の手にしたものは 多くの希望、そして絶望の元凶 ___

2016-05-08 21:00:49
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4-1-1 深海棲艦との戦いを続ける各鎮守府、人々の希望を背負って戦地に立つ艦娘、そして、その命を預かり 指令を出す提督達… いつの日かそんな英雄達が勝利し、深海の亡霊に怯えずに暮らせる日が訪れることを、人々は信じる。 それを激戦の表舞台と呼ぶのであれば、そこは「裏舞台」だった。

2016-05-08 21:03:14
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4-1-2 その鎮守府は、人々の目に触れる事もない忘れ去られた孤島に存在した。そしてまた、その島は「公」の地図には載ってすらいなかった。 もっとも、地図に載っていたとしても、制海権を奪われた今の海においては民間の船はそんな場所に態々赴くことも許可されないし、そもそも危険すぎた。

2016-05-08 21:09:26
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4-1-3 島には鎮守府と、その僅かな設備を除けば他には何も無い。来訪者と言っても、定期的に補給物資を運搬する軍の船が出入りする程度である。 鎮守府それ自体の大きさは決して小さくはないが、中はがらんとしていて、部屋も機器も人が普段から使っている形跡は殆ど無い。

2016-05-08 21:14:48
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4-1-4 「提督、司令部より入電です」 その鎮守府の大きさからすれば明らかに不釣り合いな…片手で数えられるような程度の数の人影が、執務室で動く。 「…珍しい事もあるものだ」 男性としては少々長めの髪を後頭部で結った、やや目元に疲れの表れた男が書類を受け取る。

2016-05-08 21:19:03
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4-1-5 「最も、ここに届く入電にロクなものが無いことはハナから分かってはいるがな…」 その男…この鎮守府の提督は、忌々しいとでも言いたげな顔で書類を確認していく。 「あー、別にお前が悪い訳では無い 大淀、だから不安そうな顔はするな」 提督は書類を持ってきた艦娘…大淀に言う。

2016-05-08 21:25:04
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4-1-6 「そんでもって…まぁ、予想通りよな」 「それはどういう意味ででしょうか?提督」 溜息混じりに書類をとじた提督に、部屋に控えていた数名の艦娘の内、秘書艦であろう1人が質問を投げかける。 「ロクなもんじゃないって部分だ、鳳翔…そう、ロクなもんじゃない」

2016-05-08 21:31:14
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4-1-7「本島より、新しい艦娘がここに着任するとの知らせだ」 「新しい艦娘…ですか」 この言葉に真っ先に反応したのは、別の艦娘である。長く美しい黒髪に変わった形の髪飾りをつけたその艦娘は、物憂げな表情で考えこんでいるようだった。 「扶桑…お前なら分かっているとは思うが…」

2016-05-08 21:37:11
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4-1-8「ええ、分かっていますわ 提督…」扶桑、と呼ばれたその艦娘は、そう言いつつも浮かない顔のままだ。 「念には念のためという事で私は準備を済ませてきます」 「ああ、頼む 序でに明石にも伝えておいてくれると助かるな」 言葉を交わすと、扶桑は一礼して部屋を出て行った。

2016-05-08 21:40:11
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4-1-9 「提督、そんな顔をするお気持ちも勿論分かりますが…折角の新人の着任、歓迎の準備もしなければいけませんね」 「あぁ、そう、そうだな…」 提督の気持ちを少しでも別の方向に向けさせようと言ってみたものの、鳳翔自身も貼りつくような不安を覚えずには居られなかった。

2016-05-08 21:43:17
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4-1-10「大淀、追加で情報が届いたようならまた知らせてほしい。予想はしていたが、送られてきた書類に明確な事は殆ど記載されていなかったのでな」 「畏まりました。それでは…」 扶桑に同じく、大淀も一礼すると執務室から出て行った。 それを見届けると、提督は席を離れ窓から外を見る。

2016-05-08 21:48:17
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4-1-11 窓の外から見える景色には、不気味な程静かな海と砂浜、そしてやや遠目の岩礁が映るばかり。雲行きも怪しく一雨降ってきそうで、風景は陰鬱な空気を益々濃くしてしまうようだった。 「艦娘がここに着任するのは久しぶり、ですわね」 いつの間にか隣に来ていた鳳翔が呟くように言う。

2016-05-08 21:52:03
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4-1-12「あぁ、明石以来という事になるな」提督は目を細め、少し厳しい顔つきになる。「出来れば増えない方が良いと思っていたのだが、結局はこうなってしまうワケ、だ…そして、詳しい理由はまだ分からないが、こうなった以上その艦娘で終わり、という訳にもいかないだろう」

2016-05-08 21:52:40
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4-1-13「監獄島…か」「お止め下さい、その呼び名を使うのは」 提督がぽつりと呟いた言葉を、直ぐに鳳翔は遮ろうとする。 「とはいえ、外の世界でここを知っている人間からすればこれほどピッタリな言葉は無いとは思うがな。全く、誰が初めに言いだしたのやら」

2016-05-08 21:56:36
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4-1-14 その鎮守府のある島に送り込まれた者は、その島から離れることは叶わない。その島は、一部の軍の関係者から その用途と特性を皮肉られいつのまにやら「監獄島」と呼称されるようになっていた。 この鎮守府を任された提督の名は 風見 玲二(カザミ レイジ)といった。

2016-05-08 22:02:45
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4-1-15 「監獄島」への新しい艦娘の着任の知らせから時間は巻き戻り、その3日前の本土近海の港町… 安全の確保されたエリアは非常に限られてしまってはいるが、人々は生活のためにも海産物を手に入れなくてはならない。この日も、いつものように漁師たちは早朝から海へと繰り出していた。

2016-05-08 22:10:24
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4-1-16「ふぁ~あ…っと、なんだ…?」 眠たげに欠伸をしながらその日ポイントへと向かう漁師は、何やら普段と海の様子が違うことに気付いた。普段は見慣れない船が、それもかなりの数見受けられるのである。

2016-05-08 22:14:25
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4-1-17「何だ何だ、俺達の漁場だってのに…」「そこの船!停止しなさい!」 一人ごちた直後にいきなり拡声器で停止命令を受け、漁師はつんのめった。 「な、なんだってんだよ…」「この辺りにて、深海棲艦の目撃情報があった。これより先への進入は認められない。速やかに引き返すように!」

2016-05-08 22:17:00
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4-1-18「げ、もしかして海軍の関係者かよ…それに深海棲艦だって?」漁師は直ぐに承諾の信号を軍のものであろう船に送ると、直ぐに言葉の通りもと来た方向へ進路を戻した。「あ~あ、商売あがったりだぜ…」 だが漁船の引き返した先では、海軍が血眼になって「ある物」の捜索に従事していた。

2016-05-08 22:20:10
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4-1-19 「まだ見つからんのか!」気の短い艦長がクルーに怒声を浴びせる。「申し訳ございません!まだそれらしき物は何も…!」「チッ!」 捜索部隊を率いる艦長は内心非常に焦っていた。実を言えば、彼も捜索物の詳細は知らない、ただ上層部から「極秘」の回収指令として命令されていた。

2016-05-08 22:23:12
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

4-1-20(上が血相を変えるシロモノ…見つからないのは不味い…!)額にじわりと嫌な汗が浮かぶ… 「艦長!」唐突に声を掛けられ、艦長は我に返る。「どうした!見つかったか?」 …しかしながら、耳打ちされた内容を聴いて艦長の額の汗は更に酷くなったのだった。

2016-05-08 22:27:28
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___ 近辺の捜索で見つかったのは、極秘任務中の輸送機の残骸 ___

2016-05-08 22:28:11