放浪王子の竜退治#2 巨獣との死闘◆1
_一言でも発したら、一つでも物音を立てたら、全てのチャンスは奪われるだろう。幸いなことに、川辺は白い砂が積もっていた。砂の上にはハンバーグのような足跡。その先に、巨獣の背中。 (大丈夫、敵は猛獣じゃない。ハンバーグだ) そう自分に言い聞かせる。 31
2016-05-28 17:17:22_背中にリミアイの存在を感じる。しかし、気配は全く感じない。まるでテレポートか何かでその場を離れたかのように、何も感じない。それは好都合だった。元より戦力として当てにしているわけではない。ただ、その存在だけが彼を勇気づけていた。 (僕の背中には影がある。僕を見守る影が) 32
2016-05-28 17:21:33_魚か何かでも探しているのだろうか。巨獣は水面をじっと見つめて、頭を左右に振っていた。視界に入らないように、真後ろから接近する王子。 (影の一族は王権を失った王族を失望しただろうか? 僕は証明したい。影が名の通り影のように、ただ後ろに佇むだけでいいような世界を) 33
2016-05-28 17:27:10_釣竿をキャストするようにフレイルを構えた。遠心力を最大に利用し、重力さえも利用して、巨獣の後頭部にフレイルの石を振り下ろす計画。 (チャンスは一回だ。それで世界が変わる。守られる世界じゃない。影を守る世界だ。何故、脚が震えているんだ……) 34
2016-05-28 17:39:42_息を止めて、フレイルを勢いよく振り下ろす。 (変われ……) 鈍い音。それで巨獣が気絶しなかったら困る。困るのに、ゆっくりと巨獣が振り向く。平たい顔は威嚇の表情。 (変われ……) 朦朧としているのか足取りはふらついているが、その鋭い爪には殺気が宿る。 35
2016-05-28 17:47:36_時間がゆっくりに感じる。 (僕は変われないのか) 震えた脚を必死に曲げ地面に膝をつく。頭上を大きな腕が通り抜けた。 (変わらない……? 筋肉は……信じられる!) 脚に力がみなぎり、巨獣の顎に向けて拳を突き上げる! 全身をばねにした衝撃は、再び巨獣を朦朧とさせた! 36
2016-05-28 17:55:55_フレイルを振る。右から弧を描いて石が巨獣にめり込む。再びフレイルを振る。左から弧を描いて、石が巨獣にめり込む。 子供の喧嘩のように何度も何度もがむしゃらに、フレイルを振り落とす。何も考えられない。巨獣が動かなくなっても王子は止まれなかった。 37
2016-05-28 18:04:02「世界、変われた?」 霧の向こう側に浮かぶ太陽。それを後光にして、リミアイが隣に立っていた。そこでようやく王子はフレイルを止めた。リミアイはしゃがんで巨獣の息の根を確かめる。巨獣は確かに絶命していた。 38
2016-05-28 18:12:37「僕は……死ぬところだった。運が良かっただけだ」 膝に手を付き、肩で息をする王子。口だけではなくそれなりに鍛えていたが、それ以上の力を発揮したような疲労感があった。 「これじゃあ、僕は変われないかもな……でも、勝利は勝利だ」 さわやかな笑顔で巨獣の死体を見る。 39
2016-05-28 18:18:57【用語解説】 【王族】 インペリアル人の王族は、始祖であり最初の女王であるインペリアル・ゴールドの純血を受け継ぐ一族で、インペリアル・レッド系、インペリアル・ブルー系、インペリアル・グリーン系の血筋が存在し、これらの血統は王に相応しいとされる。王族の貸し借りや取引も盛んである
2016-05-28 18:41:20