サイオン・オブ・ザ・タイラント #1

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『吾輩直属の手練れをエスコートに向かわせました。間もなく邸宅前に』「アルゴスには察知されていまいな」『無論ですとも』戦争狂は嗄れ声で笑った。「お前は来んのか、ハーヴェスター=サン?いつまで死んだ振りをしている」『死人のほうが動きやすい事もありましてな。では、また後ほど。ご武運を』

2016-06-01 16:04:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ノイズ混じりの通信はそこで切れた。チバは微かに眉根を寄せ、しばし思案した。葉巻を燻らせながら、再び彼方のジグラットを睨みつけた。チバの目的は、ジグラット心臓部へ侵入する事。そこに配置されているアガメムノンの手駒を排除し、アルゴスの制御権限を奪う事。この血で。チバは自らの手を見た。

2016-06-01 16:09:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……数週間前。タマ・リバー屋形船の船内で見た鮮烈なデータの光が、フラッシュバックする。あの日、チバの網膜に焼き付いたUNIXモニタのデータ。座敷にはチバ、ネヴァーモア、クローンヤクザ、オイランだけがいた。チバは一人、UNIXを操作していた。敵の目と耳から完全に隠されたその場所で。

2016-06-01 16:13:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

10月10日の混乱は、チバに思いがけぬ手札をもたらしていた。月面サーバから盗み出されたアマクダリ重要機密データの破片。それが鍵となり、かつてチバの手勢の一人がとある医療機関から盗み出していた遺伝子解析データの照合結果暗号を、ついに読み解かせしめたのだ。

2016-06-01 16:18:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

屋形船に構築されたスタンドアロン環境で、彼はデータと対峙した。もはやこの世に存在せぬ母親が、何者であったのか。そして父は無論、母親自身さえも知らなかったであろう、その血筋について。チバは声を震わせた。「ぼくが、鷲の一族の末裔だと……?」アガメムノンは、全てを調べ尽くしていたのだ。

2016-06-01 16:23:51
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「成る程な」チバはグンバイで口元を隠し、額の汗を拭って深呼吸すると、やがて燃えるような怒りに支配された。「何故あの男がぼくの前に現れたか。何故あの男が、ぼくを傀儡君主に仕立て上げたか。これで全て分かった。奴のスペアなのだ。あいつは、ぼくをそのように利用しようと考えていたか……!」

2016-06-01 16:30:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

もはや面影も覚えてすらおらぬ、金髪オイランの母親であった。チバはこの夜、自らの血の半分は勇壮なるラオモト家のヤクザの血であり、もう半分は、あの冷徹なるアガメムノンと同じ祖の血であると知った。そしてアガメムノンは、それを秘していた。チバがアルゴスの血液認証システムを突破できる事を。

2016-06-01 16:36:49
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チバの中で全てが繋がっていった。何故アマクダリはモータルとニンジャの地位が等しくあらねばならぬのか。何故セクトが盤石となった後も、己が生かされ続けたのか。アガメムノンに従い、何も知らぬふりをしていれば、玉座が与えられたのやもしれぬのだ。それが、チバには、何より気に食わなかった。

2016-06-01 16:47:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

底知れぬ瞳に雷をたたえた、アガメムノンのアルカイックな笑みが、データを凝視するチバの脳裏に浮かんだ。もはや、この遺産を拒否することは何者にも不可能であろうという、神のごとく尊大な笑みが。故に、反抗した。あの男には決して予測できぬであろう、野蛮なヤクザの反抗を、チバは選択したのだ。

2016-06-01 16:54:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ぼくをナメおって」チバはUNIXから機密フロッピーを抜き、それを屋形船の座敷から暗黒のタマ・リバーへと放り捨て永遠に処分した。……この事実を知っている人間はおそらく、アガメムノン、チバ自身とネヴァーモア、そして10月10日以降に機密データ提供を秘かに支援したハーヴェスターのみ。

2016-06-01 16:57:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……短い回想を終えたチバは、黒い岩が飛び石めいて配置された日本庭園を抜け、バイオパインが並ぶ正門前へと向かった。まばらに降る雪の中を、あの赤いネオントンボが飛んで行く。小さき暴君に率いられた精鋭クローンヤクザ部隊の行列が一斉に早足で進み、正門付近に並び、厳めしい待機姿勢をとった。

2016-06-01 17:06:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

正門前、ラオモト家所有の武装ヤクザベンツの横には、紺色の大型装甲車。そこから降りたアクシス制式突入装備のニンジャが3人。ヘヴィレイン、ワイプアウト、コロッサス。皆、ハーヴェスターに鍛えられた忠実なるアクシス。彼らはまずチバを、次いで、ネヴァーモアが掲げる奇妙な襤褸布を一瞥した。

2016-06-01 17:12:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……ドーモ、お待ちしておりました。極秘裏にジグラット突入を行うための最小セルを用意しました」雪の中、ヘヴィレインは一礼し、チバに特殊装甲車に乗るよう促した「ラオモト=サンは、こちらへ」「…見て解らんのか?ぼくはネヴァーモアと護衛クローンヤクザ2人を伴う。武装ヤクザベンツでよい」

2016-06-01 17:23:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「しかし……」ヘヴィレインは眉根を寄せた。確かに、特殊装甲車の堅牢さはベンツより優位。だが「…どうした」チバはゆっくりと立ち止まり、ヘヴィレインのフルメンポの奥に微かに覗く目を見据えた。チバはあらゆる敵の目を知っていた。狂人の目。裏切者の目。あるいは勝ち誇り、あざ笑う者どもの目。

2016-06-01 17:30:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……万が一の場合に、説明がつきません、こちらへ」ヘヴィレインは再び、促した。腰にずらりと吊った大ぶりなグレネード弾が、制式プロテクターに擦れ、硬質プラスチック音を発した。「解った。武装ヤクザベンツは随行させる。かまわんな?」「無論です」ワイプアウトが電子音声で返し、オジギした。

2016-06-01 17:34:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

チバは独り装甲車へ向かった。背後から見送るネヴァーモアに対し、グンバイを掲げて見せながら。クローンヤクザとネヴァーモアは頷き、武装ヤクザベンツへ向かった。彼らの背を狙い、ワイプアウトは無表情に、音もなく、両腕に仕込んだミニガン”統治2022s”を展開した。正門前を血で染める為に。

2016-06-01 17:41:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ヘヴィレインは年端もゆかぬ少年の後ろに続き、彼を鼻で笑った。だが、殺戮の銃弾が撒かれる直前。ネヴァーモアは振り向き、長柄の鋼鉄軍旗の一撃でワイプアウトを殴りつけたのだ。「イヤーッ!」「グワーッ!?」銃弾痕にまみれたソウカイヤ旗。クロスカタナの紋章が、凍てつくネオサイタマに翻った。

2016-06-01 17:49:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「SHIT」ヘヴィレインが後方を振り向いた。ネヴァーモアは頭突きを食らわせてワイプアウトを雪の中に転倒せしめ、コロッサスに挑みかかっていた、チバは軍配のホロ・スフィアを操作していた。正門に待機していたクローンヤクザ部隊が一斉にヤクザスラングを叫び、ドスダガーを抜いて突進してきた。

2016-06-01 17:54:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナムアミダブツ! たちまちラオモト邸正門前は血とクローンヤクザの死体で満たされてゆく!チバはこの3人から裏切りの臭いを嗅ぎ取っていたのだ!「クソが……!」混戦の中、ヘヴィレインはクローンヤクザを次々銃殺しながら、ネヴァーモアを狙いグレネードに手をかけた。

2016-06-01 18:03:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

だが、一瞬の躊躇。憤怒の形相で立つネヴァーモアの傍に、殺傷してはならぬと命じられていた確保目標、チバがいたのだ。「イヤーッ!」「グワーッ!」隙をつき、ネヴァーモアの振り回す鋼鉄軍旗がヘヴィレインのフルメンポを砕く!逃走機会!チバはオニヤスが理性を失わぬうちに、共にヤクザベンツへ!

2016-06-01 18:08:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ソマシャッテコラーッ!」護衛クローンヤクザは散らばった荷物を積み込みながら、外からドアを閉めにかかる。BLAMN!銃弾が飛び、クローンヤクザの額に穴を穿つ!「アバーッ!」護衛を載せている暇など無し!DRRRRRRRRR!ネヴァーモアがハンドルを握り、武装ヤクザベンツが走り出す!

2016-06-01 18:11:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ベンツは私道を激走し、急カーブを刻み大通りへ!チバはその先の光景に目を疑った!「ハイデッカーだと……!?」何たる事態!ハイデッカーの道路封鎖だ!後方からは装甲車が迫る!「速度を落とすな!」「ハイ」アクセルが踏み込まれる!チバはシートベルトを締めながら舌打ちし、通信機を作動させた。

2016-06-01 18:18:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハーヴェスター=サン、これはどうケジメするつもりだ?」『一体何が?』「とぼけるな。何故、この区画にこれほどの数のハイデッカーが」SMAAASH!「「「アバーッ!」」」強行突破!『警備でしょう』「ナメるなよ!これは包囲というのだ!旗色が悪いと見て震え上がったか?老いぼれの犬め!」

2016-06-01 18:23:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

オニヤスが運転する武装ヤクザベンツは、銃弾を弾きながら疾走する。チバの怒りが伝播したかのように、彼の両肩からは湯気が立ち上り、ハンドルはみしみしと音を立て軋んだ!『愚かな真似はやめ、投降していただきたい。保護します』ハーヴェスターは言った。「裏切ったのだな!腰抜けのカス札めが!」

2016-06-01 18:27:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『考え直して頂きたい。輝かしい大戦争が待っておるのですぞ』嗄れ声が言った。『抵抗者共がおれば砲声一発でガレキの下に埋め、無敵の要塞に得意満面で立てこもる阿呆共がおればアクシス部隊が蹂躙し、それを知り総崩れになった敵兵共を追い散らし鋼鉄の車輪とスリケンで殺戮する、そのような戦争が』

2016-06-01 18:33:14