日向夏さんが #書くかもしれない物語の冒頭を書く

日向夏🐗11/29『不死王の息子』発売 @NaMelanza

20 近代美術というものがどういうものがぴんとこないのにはいくつか理由がある。そのほとんどが理解できないからだ。前回の授業では、モデルに毒を飲ませその苦しみ死ぬ姿を芸術と言い張った自称芸術家の話をされた。まったく理解できない。自分が飲めやといいたい。 今回も似たようなものだった。

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21 スライドにあったのは人魚姫の像だった。人型の部分は精巧に美しい。なめらかな肌が樹脂で作られ、ガラスの眼球が輝いていた。ただ、その下半身については、グロテスクとしか言いようがない。まるで貼り絵のようにぺたぺたと張り付けられた鱗。それは魚のものには見えない。 「皮膚病の一種」

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22 講師のその言葉で材料に何を使っているかわかった。人間の皮膚を使っていた。 たぶん、言われなかったら気付かなかっただろう。しかし、それを聞いた後だと、気持ち悪いとしか考えられなくなる。 「一応、生前に献体の話をしていたという」 でも法律で認められるだろうか。

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骨で作られた寺院、人の皮で作られた本、それらが現代でも残っている理由としては、まだ人が人としての命が軽かった時代だからかもしれない。だから残る。現代で新たに作ろうとすれば、それは死体遺棄なり破損なりなんなりになるだろう。表現の自由が狭まったといえばそうなるのかもしれない。

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24 この授業を聞いていると、たまに倫理観が狂う気がしてならない。思うが狂う前に大体授業は終わる。九十分という時間を長く感じさせない点では、ある意味、インパクトがある題材を持つのは正しいのかもしれない。 未来は参考書を鞄にいれると、教室をでた。これで今日の授業は終わりだ。

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25 授業が終わったところで、携帯を確認する。通知が入っており、なんだとみてみたら学科の連絡網だった。明日ある健康診断の時間が変わったというお知らせだった。入学してから三か月、今頃ある理由としては保健管理センターの校舎の建て替えがあったからだ。昨年からあってようやく先週終わった。

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26 翌日、保健センターに向かった。正直、憂鬱だったが、早く終わらせたい。みんなも同じ考えのようで、向かうと行列ができていた。 憂鬱だ。 身体測定が好きな女の子はいるだろうか、いやいない。 思わず反語を使いたくなる。特に未来の場合はそれが顕著だった。体重計など乗りたくない。

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冒頭じゃなくなってきた。

日向夏🐗11/29『不死王の息子』発売 @NaMelanza

とりあえず別に保管しとこう。

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昨日、薬屋を更新したので、今日は別の作業をやる予定だったのだが、妹に「最新話まで読んだから、朝までに次の話更新しろ」と腹パンを受けたので書いてきます。

日向夏🐗11/29『不死王の息子』発売 @NaMelanza

27 未来は一番憂うつであろう体重計に乗る。まわりに人が少ないときを見計らったが、どうしても測定する人間は残る。最近のは同時に身長も計れる優れものだ。 「！？」 測定している女性が首を傾げる。そして。 「ちょっと機械の調子が悪いみたい」 安心してもらいたい、壊れていない。

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28 身長155センチに対し、体重七十キロオーバーなのは、標準よりも大きかろう。しかし、未来の容姿は女子中学生のそれと変わらず、重さはその半分しかないように見える。一言でいえば、密度が異常に高い。生まれたときからであり、何度か病院に連れていかれたこともあった。

日向夏🐗11/29『不死王の息子』発売 @NaMelanza

29 未来の場合、筋肉が異常に重いらしい。だから見た目より体重が重く、馬鹿力だという。毎回、驚く人間相手に説明するのも飽きつつ、壊れてないことをもう一度伝える。 ちょっと変わっているだけで、カルテに注意書まで加えてくれてので、なんとありがたいやら迷惑やらな気分だった。

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30 問診の際、つっこまれたらいやだなあと思いつつ、名前を呼ばれ、医者の前に座る。 大学側は気が利かない。こういう場合、女性医師かしなびたじいさん医師にしてもらいたいのに、相手は妙に若い男だった。けだるげで性欲なんざこれっぽっちもありませんという顔でも、嫌なものは嫌だ。

日向夏🐗11/29『不死王の息子』発売 @NaMelanza

31 あれ？ 未来は首をひねる。どこかで見た顔だった。ああ、そうだ、と思い出したのは昨日、エレベーターですれ違った男だ。白衣を仕立てのいいスーツに変えればそのままである。 どうしてあんなところに？ 疑問は残るが、深く突っ込むところでもない。上着をめくり、聴診器を当てられる。

日向夏🐗11/29『不死王の息子』発売 @NaMelanza

32 カルテを見ながら、あからさまに眉をゆがめるのはやめてほしい。 「なにか持病はありませんか？」 「ありません」 それはもう事前に書いているはずなのに。 「皮膚病の類は？」 「アトピーやアレルギーもありません」 なんでだろう、そんなに肌が荒れていたのかと頬をさする。

日向夏🐗11/29『不死王の息子』発売 @NaMelanza

33 男性医師はカルテにいろいろ書き込みながら、問診はそれで終わった。意外にも体重のことについて、なにも問われなかった。 健康体なのは間違いないので、さっさと着替えて授業へと向かう。 これで終わったかに思えたが、数日後、大学側から再検査の話が来て、がっくりとなった。

日向夏🐗11/29『不死王の息子』発売 @NaMelanza

34 「大学病院って、なに検査すんだろ？」 未来は電車に揺られながら、ネットで病院の地図を検索する。駅から徒歩五分。わかりやすいといえばわかりやすいが、初めての場所は緊張する。なによりどこが悪かったのだろうか。 問題があるとすれば、血液検査の結果だろうか。白血球が多かったのか。

日向夏🐗11/29『不死王の息子』発売 @NaMelanza

35 前に免疫が強すぎて、逆に検査を受けたことがある。当人は健康なので、迷惑この上ない。さぼるとあとで面倒なので、さっさと検査を済ませてしまおう。降りる駅のアナウンスがあり、未来は電車を降りた。改札でカードを押し、説明に書かれてあった駅の降り口番号を探す。

日向夏🐗11/29『不死王の息子』発売 @NaMelanza

36 階段を上がろうとしたとき、ふと未来は後ろを向いた。 「気のせいか」 誰かに見られているような気がした。後ろにはそれらしい人物はおらず、遅い出勤のサラリーマンがちらちらいるだけだ。 自意識過剰に少し恥ずかしくなりながら、外へと出る。 地図によれば、大通りを突っ切った先だ。

日向夏🐗11/29『不死王の息子』発売 @NaMelanza

37 通りは風が強かった。見上げると工事中のビルの上でクレーンのワイヤーが揺れている。風が強いためか、今日の作業は中止らしい。出勤時間には遅く、買い物に出かけるには早い時刻なので、人通りは思った以上に少ない。未来は、携帯電話のナビを見ながら大学病院に向かう。

日向夏🐗11/29『不死王の息子』発売 @NaMelanza

38 歩きスマホはいけません。そんなことを思い出したときには、もう遅かった。 風が吹いた。肩までの髪がばさばさと揺れ、砂埃に思わず目を閉じる。目をこすり、髪を直そうとしたとき、もうそれは手遅れだった。 世界がスローモーションに見えた。自分の真上に向かって、それは落ちてくる。

日向夏🐗11/29『不死王の息子』発売 @NaMelanza

39 明日のニュース一面決まりだな。 工事関係者、どう責任とってくれんの。 さすがに無理、あれ受け止めるの無理。 こういうときこそ馬鹿力役にたてよ。 ぐるぐるめぐる思考、視線の先には重力に逆らえずに落下してくる鉄骨。 光景はスローだが、自分の動きもスローだった。