日向夏さんが #書くかもしれない物語の冒頭を書く

日向夏🐗11/29『不死王の息子』発売 @NaMelanza

40 とっさに頭をかばったのは本能だろうか。いっそ頭を割られたほうが楽にいけただろうに。 鉄骨は未来の背中を直撃した。串刺しというより押しつぶすように、痛いより熱い、吐しゃ物のように血が口からあふれる。 即死ならよかったのに、意識だけはまだ残っていた。少しずつ薄れていきつつも。

日向夏🐗11/29『不死王の息子』発売 @NaMelanza

41 だから最後に見たそれは、幻だったかもしれない。 「このままじゃ死ぬぞ」 そんなのわかっている。 「脊椎はもうだめだ、ショック死しないだけすごい精神力だな」 悪かったね。 もしこれが天使というなら意地悪すぎて、死神というなら悪趣味すぎた。 例の男性医師の姿だった。

日向夏🐗11/29『不死王の息子』発売 @NaMelanza

42 「生かしてやろうか？」 できるの？　死神？ 「可能性は低いがな」 未来は幻という藁にすがりついた。こくりと血だらけの頭を揺らした。死神はそれを肯定ととらえたらしい。 死神はスーツの内側からメスを取り出した。それを己の手のひらに突き立ててこぶしをつくる。

日向夏🐗11/29『不死王の息子』発売 @NaMelanza

43 したたり落ちる血は、未来の真っ赤な傷に飲まれていった。そして、もう一滴、それは未来の口へとしたたりおちる。 「因子はあった。覚醒するかはお前次第だ」 なんのことだかわからない。 「そのうち説明する。何になるかといえば、なんていえばいいんだろうな」 青年は首をひねる。

日向夏🐗11/29『不死王の息子』発売 @NaMelanza

44 「人魚姫になれるといいな」 存外、ロマンチストな言葉を残し、死神が消える。いや、未来の意識が途切れる。 泡となって消える人魚姫。王子は彼女の存在に気付かず、生かされたこともわからず、違う女とのうのうと生き続ける。 大嫌いだ、こんな話。 そんなものになりたくない。

日向夏🐗11/29『不死王の息子』発売 @NaMelanza

45 アンデルセンの悲恋物語。それと同時に、授業で受けた人魚像を思い出す。グロテスクな近代芸術。認められることはない、存在を許されないもの。 サルと魚の干物だったらよかったのにね。 よくある偽物ミイラ、不老不死の妙薬とか日本では妖怪じみた扱いのほうが多い。

日向夏🐗11/29『不死王の息子』発売 @NaMelanza

46 人魚の肉、八百比丘尼。 あやかし、存在が許されぬもの。 ぐるぐると頭が回って、混乱していた。 そして、ぱっと目を開ける。 「なにこれ」 体が異常にだるい。まわりが白い。薬の臭いがする。シーツがやけに湿っていて、左手には何本も管がささって点滴の薬液が落ちる音がする。

日向夏🐗11/29『不死王の息子』発売 @NaMelanza

47 ぼんやりした頭のまま、ゆっくり起き上がった。点滴が外れないように、ゆっくりベッドの淵に座る。 着ている服は、検査服のようだ。恥ずかしいことに、下着はつけていない。少し居心地が悪いまま周りを確認する。 病院、のようだ。 状況を見るかぎり間違いないだろう。

日向夏🐗11/29『不死王の息子』発売 @NaMelanza

48 なにをするよりもまず着替えたいと床に足をついた。ワンピース型の服が太ももまでめくれあがった。 「なにこれ……」 絶句する未来の視線の先にあるのは鱗だった。太ももの内側に魚のような亀裂が入っている。 そして、ようやく気付いた。 自分の体に、鉄骨で潰された傷が一切ないことに。

日向夏🐗11/29『不死王の息子』発売 @NaMelanza

書くかもしれない物語の冒頭　終わり。