日向夏さんが #書くかもしれない物語の冒頭を書く

日向夏🐗11/29『不死王の息子』発売 @NaMelanza

ncode.syosetu.com/n9636x/ 「薬屋のひとりごと」更新しました！ #narou #narouN9636X

日向夏🐗11/29『不死王の息子』発売 @NaMelanza

＃書くかもしれない物語の冒頭を書く

日向夏🐗11/29『不死王の息子』発売 @NaMelanza

白谷未来は怪力である。どの程度かといえば、片手でリンゴが潰せ、体力測定では軽めにやって学年男子の記録を抜くほどだった。 そうなれば、大体姿形というものは、ごついゴリラのようなものと想像されてしまうが、そこは違う。身長は百五十五センチ、中学生のような童顔が悩みの大学一年生だ。

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馬鹿力を隠し人並の女子大生ライフを送ろう、そう誓った未来だったが、世の中そんなに甘くない。入学式当日、サイドブレーキをかけ忘れた軽トラが坂からおりてきた。同じ学科の男子生徒がそれに気づかず背中を向けていた。未来はその男子生徒を助けるために、軽トラを止めたのだ。

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これが男女逆転ならどうだろうか。そこに恋が生まれたのではないだろうか。いやしかし、これで生まれたものといえば「ロリゴリラ」という不名誉としか言えないあだ名だった。そして、未来は今日も又、雑用を押し付けられ、大人一人分の重さは軽くある教材を運ぶのであった。

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「次回から金とろう」 未来は機材を実験室のテーブルに置いた。精密機械なので壊れないようにそっとだ。教授から「握りつぶすなよ、ゼロ七個つくんだからな！」と言われたが、さすがに金属製は潰さない、力をかけないかぎり。 そういう意味ではガラス製のピペットなど未来にとって天敵に他ならない。

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用事を済ませ、教授から「また、頼む」と挨拶をされながら、未来は実験室を出た。時間は、二コマ目が始まったばかり。窓を見ると、食堂が見える。 （ごはん、先に済ませよう） 体格は大きくないが、その怪力のせいか未来の燃費は異常に悪い。おかげで高校時代のあだ名は「フードファイター」だった。

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未来は理学部に所属している。本当は医学部に行きたかったのだが、残念ながらそんな知能は未来にはなかった。もし、パラメーターの振りを自由にできたなら、『ちから』を『ちのう』に振り替えていただろうに。 未来はエレベーターの↓を押す。チンっとすぐ音がなって、扉が開くとそこに若い男がいた。

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二十代半ばほどでスーツを着て入る。リクルート中の先輩だろうか、と思ったがきているスーツは、大学生のそれよりも物がずっといい。実家が金持ちか、それとも新しい教材を売りに来たセールスマンだろうか。男は軽く頭を下げると、エレベーターから降りた。未来も軽く頭を下げて、入れ替わりに乗った。

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食堂につくと中はまだがらんとしていた。未来はお得なB定食をごはん大盛りとかつ丼を頼む。本当はもう一つある食堂のほうがおいしいのだが、こちらの食堂のほうが、値段が安くごはん大盛にするとおかわり無制限なのが魅力だ。 「未来ー」 適当な席に座ると、甲高い声が聞こえてきた。

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同じクラスの柊アズサだった。アズサとは取っている授業がかぶることも多く、よく一緒に授業を受けている。 アズサは購買のパンを一つジュース一つで足りる省エネタイプだ。どんぶりが二つ並ぶテーブルを見て、悟りの表情で未来を見るのはやめてほしい。 当たり前のようにとなりに座ってお昼をとる。

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10 アズサが携帯電話をいじりながら、パンを半分食べたところで、未来はかつ丼と定食をきれいに平らげ、食堂のおばちゃんにおかわりを頼んだ。言われるまでもなく、まるでお供えもののように山盛りのどんぶり飯にしてくれるのは、毎回よそうのが面倒だと言わんばかりだ。

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11 「ごはん中に携帯はよくないってしつけされなかったか？」 「んー、一食で五合食えとはしつけされなかったなあ」 憎まれ口がうまいのはアズサの特徴である。ほれほれ、見てといわんばかりに携帯画面をつきつけたと思ったら、そこには怪しげなサイトが乗っていた。そういう話題が好きな子だ。

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12 未来の所属する大学の理学部は、農学部と併設している。例の軽トラが坂から降りてきた事件以来、未来は農学部を目の敵にしていた。その農学部の話について書かれてあった。 「獣医学科の動物実験かあ」 「それ、前も聞いたけど」 獣医学科は農学部に入る。医学部ではない。

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13 「食堂の周りにいる猫たち、あれ、実験用に繁殖させてるって聞いたよ」 目をきらきらさせるアズサだが、それについては否定しておかないといけない。目の敵にしているが、ゴシップをわざと大きくする理由はない。 「避妊、去勢手術はしているみたいだけど」 実験とまではいかないだろう。

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14 「えっ、うそ！　ほんと？　それってやばくない？」 「やばくない」 野良猫を増やさないようにかたっぱしから手術を受けさせる団体を未来はしっている。成功率の有無はあるだろうが、学校に自称親切な動物好きがいる限り、それくらいしてもらわないと猫だらけになってしまう。

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15 それよりも構内に馬糞を散らかしていく乗馬部のほうが問題だなとどんぶり飯をきれいにした。 もう昼前の時間なので、食堂には人が増えてきている。食堂のおばちゃんが混む前に食器片付けさせろと目線を送るので、トレイを返却口に置く。 「次、授業何？」 「世界芸術近代史」 「何それ？」

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「何それといわれても」 未来にもわからない。選択授業の中で時間に余裕があるものがそれだっただけだ。確かに受けている人間は少ないし、芸術棟までいくのは遠いし、近代芸術とはなんぞやと言われても、正直わからない。なんというのだろう。まだ、世間に認められていない前衛的なものが多いのだ。

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「なんで今後使うことは一生ありませんって授業ほど、教科書高いんだろうね？」 「ニッチだからじゃない？」 未来は鞄につまった子ども用の辞典のような参考書をにらむ。重さは問題ないが鞄の中でかさばるのはいけない。 「じゃあ、あたし次、実験だから」 ばいばーい、とアズサは出て行った。

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食堂を出て、中庭を抜け、理学部と教育学部を抜けたところに芸術棟はある。古びた校舎なのは、以前はほかの学部の教室として使っていたからであり、新校舎が建つとともにそんな名前に変わったという。独特の油絵具の臭さや奇妙なオブジェは卒業生の作品らしいが、正直ガラクタにしか見えない。

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19 独特の雰囲気漂う中の教室に入る。生徒は教室の三分の一しかおらず、数人単位でがやがやと話していた。ぺたぺたとスリッパの音が聞こえるとともに、一応、話すのはやめて教卓へと目を向ける。さえない痩せた男が参考書と古びたスライドに使う資料を持ってやってきた。