- hukurou_nayuta
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シマッタ。ニンジャのイクサにおいて、そう思ったときが、終わりだ。今まさに、終わりゆくニンジャがいた。そのニンジャにはカラテがなかった。身体能力はモータルのそれよりは上だったが、ニンジャを相手にするとなると、サンシタ同然であった。だが、彼女には武器があった。ジツだ。1
2016-06-12 15:38:06ここではない、別の空間にコネクトするジツ。使い方次第で、おふざけにも災害にもなる。彼女はこのジツを充分に心得ていた。ある空間へ干渉し、あるニンジャを召喚し、ある町を滅ぼしたこともあった。……このジツこそが彼女の誇りであり、彼女自身ともいえた。しかし、これにも弱点はある。2
2016-06-12 15:41:31召喚時の詠唱、または魔方陣を描くその間。必ず隙は生ずる。一度召喚をさせてしまえば彼女のフーリンカザンだ。ならばさせなければよい。相手がノーカラテだというのなら尚更。わかりきったことだった。「アバッ…」彼女の腹部には穴が空けられ、全身には強力な攻撃を受けたであろう事が見て取れた。3
2016-06-12 15:45:12「トドメだ。どうだ、何にも出来ずに一方的にやられるっつうのは」「……」男…名前はなんだったか。忘れた。何か言っている。知ったことか。なんだ、どうしてアタシはこんな目に遭っているんだ。何をした。わからない。死ぬのか。死ぬのだ。何のために。「もうハイクすら詠めねェか」4
2016-06-12 15:49:07男がスリケンを構えた。カイシャクだ。けれど、気づいていない。彼女の足元。描かれた魔方陣。「イヤーッ!」「……サラバ!」下から光が広がった。それはその女ニンジャを包み……男が眩しさに閉じた目を開いたとき、彼女はいなくなっていた。「バカナ!喚ぶだけじゃねえってことか……」5
2016-06-12 15:53:16一人残された男。では、もう一方のニンジャはどこに?「逃げられたか。だが、 あの状態では到底助かるまいよ」そうだ。直接殺されるのは避けたものの、致命傷を負ったのは事実だ。彼女はいずこに。ゴシップミルに待つのは、死のみなのだろうか。6
2016-06-12 15:56:25どこかもわからない場所に逃げ延びたゴシップミルは、そのまま路端に倒れ込んだ。辛うじて思考だけが巡っていく。…そういや、ニンジャだからってんで殺すニンジャってのもいるって聞いたことあったな。アタシが死ぬのはそういうことか?違うな。ありゃ組織へのなんか……忠誠ってやつか。スゴイな。8
2016-06-12 16:02:55納得いかねえな。他のニンジャも死ぬ時こうなのか?ニンジャに限った話じゃないな。これって爆発四散すンのかな。それとも衰弱死か。死ぬ前にあの人に会いたかったが…喚んでる余裕がない。っていうか結構色々考えられるじゃんかアタシ。意外と余裕あるな、立てるのでは?アッ…無理だ 9
2016-06-12 16:05:52やがて、雨が降ってきた。重金属の酸性雨が。……ただ雨な、か……なかなかに…ポエットな………こんな……カタユデで不名誉な死を貰える……だけでも幸せな……ほう、か……。動いていた思考も、そこで途絶えた。ゴシップミルは……死んだ。10
2016-06-12 16:09:47そこは、薄明るかった。僅かな明かりが差していた。その中で、床板を軋ませて歩く誰かの気配がした。一人。埃っぽい臭いがする。薬のような臭いもする。口の中には以前血の味と……全身に残る痛み。アレ?俺、生きてるじゃん?声を上げようとした……が、痛え!何にも言えねえ…… 12
2016-06-12 16:14:15「アッ!目を覚まされましたか……!」老人の声だ。こちらに向かってくる。「動かれないほうがよいかと……そのう、酷い傷だ」「俺を助けたのは……あんたか…」ゴシップミルは声を振り絞った。その、薄汚れた白衣を纏った老爺は頷いた。名札を見る。『トモシビ・ヨシダ』知らぬ名だ。13
2016-06-12 16:17:14トモシビの言った通り、傷の様子は酷く、応急措置をしてあるものの……助かりそうはない。「ふうん……あのさ…助からないってこれ、私でもわかるよ。…何で助けた?」老爺は困った顔をし、蓄えた白い髭を弄る。「スミマセン……ですが、どうしても放っておけなんだ。それに、私は医者だ」14
2016-06-12 16:21:00ゴシップミルはトモシビを見る。老いに濁った目。だが、暖かみと優しさに満ちた眼差し。「まあ、こんな小さな、寂れた診療所ですが」「そうか。……ありがとうよ」穴の空いた腹に手をやる。もしかすれば、こんな状況でも助かるかもしれん。「トモシビ=サン。頼みがある」「ハイ?なんでしょう」15
2016-06-12 16:25:40「出来たら…スシ貰えるか。…どんなものでもいい、ダメだったら…ここで死ぬのはあんたに迷惑をかける。どこかに棄ててほしい」「そんな!棄てるなんて…お待ちください、タマゴ・スシくらいであればご用意出来ますゆえ」トモシビはパタパタと部屋を去った。外は雨が降り続いている。よく降るぜ。16
2016-06-12 16:30:31─それから。ゴシップミルは、トモシビ老人のくれたスシによりある程度回復した。死ぬ心配はなくなった。そして…しばらくして完全回復した。しぶとい!生き汚い!でも生きてやるさ。「なんたって拾われた命だ。トモシビ老人にも、改めて礼に行かなきゃならないね!」残念ながら彼女はまだ生きる!17
2016-06-12 16:35:39「そうそう、お礼参りしなきゃならない相手は……まだいたな」ネオサイタマの摩天楼の屋上。召喚師は陣を描き、高らかに詠唱をする。一帯を光が包む。街の者たちは気付きもしない。「出てこい!コンニチワー!」そこから現れしニンジャ!「適当な喚び方すンなよな!ドーモ、ザ・ヴァーティゴです」18
2016-06-12 16:40:09ゴシップミルは味方を得て、上空からある方向へと目を向ける。「今回も協力してほしい。敵がいるんだ。倒さなきゃいけない」「そんなことだろうな、終わったらスシ奢れよ、オーガニックで頼む!」ピンク色のニンジャが暢気に返す。「オーガニックは無理!」銀のマサカリとカラフルなマントが閃く!19
2016-06-12 16:44:56廃墟から徐に現れる男が一人。黒いラインが二本、稲妻めいて描かれた暗いオレンジ色のツナギに身を包んでいる。が、よく見ればそれはニンジャ装束だ。彼はそこを出て五、六歩ほど歩き、ふと立ち止まった。そして、薄く笑った。瞬間!KABOOOOM!爆発する廃墟!紛れもなくこの男の仕業だ。1
2016-06-18 16:37:07