【コトブキ探偵と殺生石】

ある噂が街の裏側に広まった。ザイゼン家に狐が誘拐された、と。誰も意味は分からず、しかし何故か噂は広まり続ける。そして、その噂を追って一人の男が動き出す。
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コセン・ニンジャ @kosn_ninja

【今回、サメは休んでなんか短編します】#ksktbk

2016-06-09 21:00:01
コセン・ニンジャ @kosn_ninja

夜。都内高級マンションの地下駐車場に、一台の高級車が止まった。乗っているのは、赤いパーカーにバンダナを巻いた若い男。男は、車を急停車させると急ぎ足でマンション入り口に向かう。何かに追われるように背後を何度も振り返りながら。彼の左腕は無く、断面から血が垂れている。 #ksktbk

2016-06-09 21:02:39
コセン・ニンジャ @kosn_ninja

(クソッタレが…!)男は暗闇の道を歩きながら、クセのような手つきで、いつ何時も腰に差してあるはずの物を探すが、そこに目当ての物はない。危機に陥った時、いつも希望の松明めいて状況を切り開いてくれた、一丁のコルト・ガバメント。それを襲撃者に奪われたのだ。 #ksktbk

2016-06-09 21:07:46
コセン・ニンジャ @kosn_ninja

(チョコレートのケチな取引で、なんでこんな目に…)男は回想する。彼が開いている薬物取引裏サイトには、ホームレスから大企業の重役まで、様々な客がアクセスする。その「注文」に応じて、様々な手段で「商品」を届け、金を貰うのが男の生業だ。 #ksktbk

2016-06-09 21:14:33
オオオオトリ @method_ootori

なんか渋いのが始まってる! コセンコトブキ? #ksktbk

2016-06-09 21:16:35
コセン・ニンジャ @kosn_ninja

使い古された手段。しかし、だからこそ改良を重ねることができ、しかも、常に新たな手段を追う警察に見つかることもない。男は増えていく銀行口座の中に慢心を見出しながらも、油断はしなかった。一つ一つのクリックに細心の注意を払いつつ、この商売に付きまとうスリルを楽しんだ。#ksktbk

2016-06-09 21:21:15
コセン・ニンジャ @kosn_ninja

だが今夜、スリルはリスクに変わった。いつもの配達を済ませた彼は、電信柱の頂上に立つ影に気付かなかった。帰り道、背後から怪しいバイクに追跡されていると気付き、即座に発砲。しかし、ありえぬ事に命中したはずの銃弾は弾かれ、鋭い刃物で左腕ごと銃を奪われた。 #ksktbk

2016-06-09 21:29:44
オオオオトリ @method_ootori

警察に追われるとかそういうリスクでは無かった! やりすぎてどこかに命狙われてとかだろうか #ksktbk

2016-06-09 21:31:45
コセン・ニンジャ @kosn_ninja

「腕はいい…ミスターに義手を用意させれば…だが、あの銃は…あの銃は…」男は血滴を地面に残しながら、エレベーターのボタンを押した。その時、来た道から細長い何かを投げつけられた。物を放り渡すようなぞんざいな投げ方。咄嗟に受けとると、それはゾッとするほど冷たかった。#ksktbk

2016-06-09 21:36:39
コセン・ニンジャ @kosn_ninja

それは、自分の腕だった。手には銀色に光るガバメントがしっかりと握られ、それに銃弾を吐き出させようと、人差し指が引き金にかけられていた。ライターの火が、今まで歩いてきた暗闇の道に浮かび上がる。それが消え、小さな火の玉めいたタバコの明かりが、煙と共に残された。 #ksktbk

2016-06-09 21:43:14
コセン・ニンジャ @kosn_ninja

「ヨシダシゲナリ。ケチな売人め」暗闇の通路と、明るいエレベーター部屋の境界線を越え、影は光の元に姿を表した。その時、ヨシダは襲撃者の姿をはっきりと見た。タバコ臭い革ジャンバーとジーンズ姿の男。その手に握られた忍者刀と、殺意に満ちた赤い目が、ヨシダの畏怖を煽る。 #ksktbk

2016-06-09 21:49:23
コセン・ニンジャ @kosn_ninja

「お、おい落ちつけよ…何が欲しいんだ?え?」ヨシダの言葉を無視し、襲撃者は距離を詰める。血塗れの忍者刀が、更に血を求めるように、ぎらりと光を弾く。その時、銃声が響いた。恐怖に耐えかねたヨシダが、二度と動かぬ右手に握られていたガバメントで、襲撃者に発砲したのだ。#ksktbk

2016-06-09 21:56:09
コセン・ニンジャ @kosn_ninja

だが、襲撃者は倒れなかった。よく見れば、忍者刀についていた血の一部が、何かで削り取られて無くなっていた。(ま、まさか、こいつ…銃弾を…)ヨシダは失禁しかけた。頼みのガバメントが通用しない敵は初めてだった。希望の松明が消え去る感覚。#ksktbk

2016-06-09 22:01:09
コセン・ニンジャ @kosn_ninja

襲撃者は赤い目に、更なる憎悪をみなぎらせ、ヨシダに近づく。「お、おい、悪かったって。暴発したんだよ。あんたがこの手を手荒く扱うからさ」とにかく時間を稼がねば。ヨシダはエレベーターをちらと見た。20…19…あと少しだ。「観念した。何でも話すよ。何が聞きたいんだ?」#ksktbk

2016-06-09 22:09:07
コセン・ニンジャ @kosn_ninja

「狐について話せ」襲撃者は言った。ヨシダは考える。キツネ、きつね、狐…そして一つの心当たりを、頭から引っ張り出す。「もしかして、ザイゼン家がさらった狐の事か?」「そうだ」ヨシダは壁際にもたれながら、襲撃者の顔に僅かな焦りが浮かぶのを見逃さなかった。#ksktbk

2016-06-09 22:13:13
コセン・ニンジャ @kosn_ninja

「と、取引しよう」襲撃者は答えない。ヨシダは続ける。「この情報を教えることで、俺が得るメリットは?」ヨシダは最悪な状況の中にありながらも、自分の得を見失ない性分があり、濁流の如き裏社会の流れの中で、それが彼を今まで生き残らせていた。 #ksktbk

2016-06-09 22:18:18
コセン・ニンジャ @kosn_ninja

そして、その性分は意外な現象を引き起こした。襲撃者がニヤリと笑ったのだ。それはヨシダに、牙を剥く野獣を連想させた。(あ、これ死んだかな)ヨシダは心の中で、諦念の極みと共に呟いた。 #ksktbk

2016-06-09 22:19:13
オオオオトリ @method_ootori

命乞いだけじゃなくメリットまで得ようとは豪胆なやつだ #ksktbk

2016-06-09 22:19:31
コセン・ニンジャ @kosn_ninja

「腕を渡せ」「え?」「腕だ。その腕」襲撃者は、ヨシダの抱える右腕を指差した。ヨシダは困惑と共に、右腕を襲撃者に渡す。「動くなよ」襲撃者は次に、ポケットから一冊のメモ帳を取り出すと、パラパラとページをめくり出す。メモ帳には沢山の付箋が張り付いていた。 #ksktbk

2016-06-09 22:22:40
コセン・ニンジャ @kosn_ninja

付箋には、『火炎』『治療』『爆発』といった文字がかかれている。それを見た人は、この襲撃者に奇妙な印象を抱くだろう。それも、あまり良くない類の。「これか」襲撃者は目当てのページを見つけたようで、それを開きながらヨシダの左腕に手をかざし、何やらブツブツと呟き始めた。 #ksktbk

2016-06-09 22:26:26
オオオオトリ @method_ootori

なんか一気にファンタジーな感じになったぞ!? #ksktbk

2016-06-09 22:28:35
コセン・ニンジャ @kosn_ninja

タバコの煙が部屋に満ち、その場を儀式場めいた空間に変える。ヨシダはわけが分からなくなった。先ほどまで命を狙われていたかと思えば、次はこのクソ野郎のタバコのせいで窒息しかけている。ヨシダの内心をよそに、襲撃者がしばらくブツブツ呟いていると、 やがて左腕が光りだした。#ksktbk

2016-06-09 22:29:11
コセン・ニンジャ @kosn_ninja

ヨシダは左腕を指差して言った。「お、おい何だよこれ」「黙れ。死ぬほど痛いぞ」その時、襲撃者の開いていたページの付箋が見えた。『接合』。(アッ…)襲撃者は光る左腕を持ち替えて、ヨシダの左腕のあるべき場所。つまり、左腕の切断面に押し込んだ。「アアアアアアア!!!」#ksktbk

2016-06-09 22:32:07
コセン・ニンジャ @kosn_ninja

激痛と肉が焦げる匂い。叫ばずにはいられなかった。3年前の抗争の時、自分で銃弾を抜いて、傷口をアイロンで焼き潰した事があるが、あれよりも数十倍は痛い。「これがメリットだ。気分は?」気づけば、何十秒も呆然としていたようで、襲撃者の声でやっと我を取り戻すことができた。 #ksktbk

2016-06-09 22:34:15