2016空想の街氷涼祭(氷門旅館)

空想の街2016年7月。氷涼祭。 資料:http://www4.atwiki.jp/fancytwon/
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ろっか @rokkarium

時々こんな風につまずいてしまう。自分で作ったルールを簡単に忘れてしまう現状にため息をつくが、相手がこの人で良かったとも思う。「ほらほら笑って」「元々そんなに笑う方では」「わーらーえー」ほっぺをつまんで伸ばされる。こんなことをするのはもちろん、彼女くらいだ。#空想の街 #氷門旅館

2016-07-01 22:58:39
ろっか @rokkarium

「まあね、心配しなくても私はちゃあんと明日の朝には帰るわけ」いくらかお酒も進んでいた。呂色の肴が華を添える。この森でとれる少々風変わりな山菜で作った天ぷらはあまりにもよい香りで、ロビーにいる他の人たちも次々に天ぷらと日本酒を頼み出す。お酒が進まぬはずがない。#空想の街 #氷門旅館

2016-07-02 01:38:17
ろっか @rokkarium

アルコールの力でロビーが少しずつ騒がしくなる。毎年のことだ。ここへは一人で来る者が多い。不安を抱えながらひっそりと飲んでいるもの同志少しのとっかかりですぐに打ち解ける。「へえ、姉さんは帰れる人なのか」姉妹の母と銀子の話を隣で聞いていた男が二人に声をかけた。#空想の街 #氷門旅館

2016-07-02 01:48:10
ろっか @rokkarium

「あらお兄さんは?」「ここに来てるやつらはみんな帰れないやつらばっかだ。姉さんみたいな方が珍しい」「帰れないの?」あまりにもまっすぐな問いに、本来ならば旅館の主として止めなければならないその会話をそのままに逃した。幸いなことに男は気を悪くする素振りもない。#空想の街 #氷門旅館

2016-07-02 01:52:12
ろっか @rokkarium

「怖くないのか?」男はむしろ自分から積極的に尋ねる。「何が?」今朝とれたばかりという新鮮な刺身を口に放りなげては幸せそうに笑う彼女。このシビアな一問一答を気にする様子はまるでない。「ええとつまりだ。相手がいつまで自分を待っくれるのか不安じゃない?」#空想の街 #氷門旅館

2016-07-02 02:02:05
ろっか @rokkarium

しばしの沈黙ののち周りから小さくざわめきが聞こえた。その不安は正しい。聞き耳を立てていた人々は、突然突きつけられた真実にたじろぐ。呂色が一気に忙しくなったのはお酒の注文が増えたからだ。いつまで迎えてもらえるのか。それはあまりにも現実。#空想の街 #氷門旅館

2016-07-02 02:09:17
ろっか @rokkarium

「姉さんは心配じゃないのか?」「心配?」「氷涼祭は年に一度だ。次に帰るその時に、自分がいたはずの場所に誰かがいるかも知れない。帰ってくることが相手にとって負担になる時期がくるかもしれない。そんなことは思わないのか?」「ああそういうこと。考えるわ」#空想の街 #氷門旅館

2016-07-02 07:16:47
ろっか @rokkarium

ロビーにはもう二人のやりとりを見守らぬ者はいない。男も彼女も声を荒げることなく粛々と話し合いを進めていた。この場所に相応しい話題とは言えないが、争い事ではなくそして何より、自分自身がこの結末を知りたがっていることを銀子は自覚していた。#空想の街 #氷門旅館

2016-07-02 07:22:24
ろっか @rokkarium

「もしも私が帰れないならそれはいいことでしょ」#空想の街 #氷門旅館 生きているものたちの時間が進むこと。死人である自分がかけても回る歯車。死人たちが畏れていることを彼女は望んでいるように見えた。「帰らなくていいなら帰らない方がいいのよ。こんな仕組みただの神様の意地悪でしかない」

2016-07-02 07:27:31
ろっか @rokkarium

ついに男は黙り込む。彼女は気にする様子もなくパクリと肴に手を伸ばした。「ああんもうこんな時間。私そろそろ行かなくちゃ明日の朝起きらんないわ」椅子にくくりつけていた風船を手首に結び治し、彼女は立ち上がると男に声の肩にぽんと手を置き声をかける。#空想の街 #氷門旅館

2016-07-02 07:36:08
ろっか @rokkarium

「また来年も私と飲んで。死人は死人同士仲良くしましょ。もちろん奢ってよね」それじゃあと彼女は銀子に、フロアに投げキッスをして扉を開けた。少女たちの元へと帰っていく。彼女の後ろ姿を見送りそれからしばし、「参ったな」男の言葉が沈黙を裂いた。#空想の街 #氷門旅館

2016-07-02 07:47:22
ろっか @rokkarium

「なるほど俺は自分のことしか考えてなかったってわけか。死人は死人同士。なるほどな。ああちょっともう一杯おくれ。同じものがいい」手が離せない呂色の代わりに銀子が男に酒を運ぶ。「主さんすまないね。こんな空気にしちゃってさ。でも止めずにいてくれてありがとう」#空想の街 #氷門旅館

2016-07-02 07:50:20
ろっか @rokkarium

怒っても悲しんでもいない穏やかな言葉。穏やかな顔。「本当は帰ってくることが苦しかった。変わっていく家族に置いて行かれる気がしてさ。けれどそれでいいんだな。それがいいんだ。そう思ったら楽になったよ。必要とされているから帰るんじゃない。帰りたいから帰るんだな」#空想の街 #氷門旅館

2016-07-02 07:54:52
ろっか @rokkarium

男は銀子の猪口に酒を注ぎ続けた。「主さんあの人すごいね。それでもこの街に、家族や生きていたあの頃に未練のある俺にまたここにくる口実をくれたんだ。参るね惚れるわ」奢ってやるのがこんなに楽しみなことはないよ。男の様子に銀子はすっかり安心していた。#空想の街 #氷門旅館

2016-07-02 08:11:54
ろっか @rokkarium

「そういうことでさちょっと俺でてくるわ。ああ部屋は残しておいてくれ。もしも挫けたその時は帰ってくるから慰めておくれ」椅子にくくりつけていた風船に手を伸ばし、千鳥足で出て行こうとする彼に、「お待ちください」呂色が声をかける。「どうぞこれをお持ちください」#空想の街 #氷門旅館

2016-07-02 08:15:45
ろっか @rokkarium

手渡したのは小さな包み。「詰まらないものですがご皆さんでお召し上がりください。この街でとれた果物で作ったドライフルーツのパウンドケーキ、呂色の得意技のひとつだ。「お、ありがとよ。うちのが再婚したって聞いて帰りにくかったんだけど、ちょっと行ってくるわ」#空想の街 #氷門旅館

2016-07-02 08:21:43
ろっか @rokkarium

扉を開けて、男の背中を見えなくなるまで見送る銀子の肩にふわりと布がかけられた。「夜はさすがに冷えますので」着物に揃いの羽織が温かく包む。「すまないな」「いまさらです」帰す間もなくロビーへ戻る呂色を追いかける銀子。#空想の街 #氷門旅館

2016-07-02 08:24:39
ろっか @rokkarium

再びロビーへと戻る。様々な事情を抱えているであろう死人たちにせめて美味しい食事と酒を。宿泊客が増えることがいいことであるかそれとも悪いことであるのか、長年旅館を営みながら、銀子はいまだ決めかねている。けれど。「私は私のために、か」ここにいたくてここにいる。#空想の街 #氷門旅館

2016-07-02 08:31:15
ろっか @rokkarium

それは銀子にとっても紛れもない事実。「もう一杯いかがですか?」ようやく仕事が一段落した呂色とグラスを合わせる。「銀子様は余計な心配しないでください」「余計な心配?」「帰ろうと思わなくていい。そして、帰そうと思わなくていいのですよ」「それは……」#空想の街 #氷門旅館

2016-07-02 08:36:43
ろっか @rokkarium

「思わずにいてください」答えなど求めていないとばかりに呂色はそう言うとまた仕事をはじめる。それの指し示す言葉が十分にわかるだけにかみ砕けも飲み込めもしない出来たところで消化できる気もしない。#空想の街 #氷門旅館

2016-07-02 08:40:47
ろっか @rokkarium

夜は更けていく。眠って起きれば氷涼祭。死人である自分たちにとっては、懐かしくて、嬉しくて、有り難くて、そして切ない時間が始まる。#空想の街 #氷門旅館

2016-07-02 08:45:06

ここから二日目。お届け物があるようです。

とよよん @to_yo_yo_n

細く切った色紙の束と、紐を切ってまとめたものを箱に詰めながら。 「氷門旅館のお客様の分。私は店に居たいし、通りがからなかったら3回くらいに分けて運んでもらおうかしら」 と、猫を横目に見る。@na74ho #氷門旅館 @Non_Haruki #天真少年 #空想の街 #ウロコヤ

2016-07-02 07:36:57
とよよん @to_yo_yo_n

「配達先は #氷門旅館 です。今日中に届けていただけるとありがたいのですが」  ブラッキーは犬の横をそっと通って、茶屋に入ることができた。そして他のお客さんの食べているかき氷を見て、目を輝かせている。@Non_Haruki #空想の街 #なごみ茶屋 #天真少年 #ウロコヤ

2016-07-02 12:01:39
とよよん @to_yo_yo_n

「この箱です。#氷門旅館 の呂色さんに届けて欲しいの。紙だけれど重いので、気をつけてね。あとこれは、あなたと茶屋のみなさんの分。ブラッキーを送ってくれてありがとう。余ったら誰かに差し上げてくださいな」 @Non_Haruki #空想の街 #天真少年 #なごみ茶屋 #ウロコヤ

2016-07-02 19:36:13
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