TOYOSUシンシジョー

sarumi @sarumi_the_3rd

@mori_arch_econo 　ＴＯＹＯＳＵシンシジョーの外見についてまず説明をしておこう。 　 　ＴＯＹＯＳＵシンシジョーの間口のサイズは築地や他のそれよりはいくぶん小さい。 目だって小さいというわけではない。だいぶ小さいのだ。 だいたい、そう、半分か五割くらい。

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@mori_arch_econo 　あるいはあなたはＴＯＹＯＳＵシンシジョーをどこかで見かけても、間口が小さいことに最初のうちは気づかないかもしれない。でももしそうだとしても、おそらく内観はあなたに何かしら奇妙な印象を与えるはずだ。 　居心地の悪さとでも言えばいいだろうか。

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@mori_arch_econo 　なんだか変だな、とあなたは思うに違いない。 　そしてもう一度あらためて豊洲をじっと見つめることになるだろう。 　一見して不自然なところはないのだが、そこがどうもかえって不自然なのだ。

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@mori_arch_econo 　築地より少しだけ小さく作られた精密なプラモデルみたいに。 　あるいは豊洲はドヤ建築のモデルみたいにも見えるとも言える。市場に居るのに、コミケ会場に居るみたいに思える場所。 　まるでだまし絵のように、水平が歪み、波打つ。

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@mori_arch_econo 　氷があるはずのところに氷がない。ぶつからないはずの荷にターレがぶつかる。 　それがＴＯＹＯＳＵシンシジョー。 　それがＴＯＹＯＳＵシンシジョー。 　それがＴＯＹＯＳＵシンシジョー。 　それがＴＯＹＯＳＵシンシジョー。

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@mori_arch_econo 「ところでさっき床積載荷重限度を平米７００ｋｇにした連中だけどさ」と僕はなにげなく切り出してみた。 彼は何も言わなかった。水道の蛇口は無いのでぎゅっとひねって閉めることができず、ペーパータオルを二枚ホルダーから引っ張り出してそれで手を拭いた。

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@mori_arch_econo 僕の方をちらりとも見なかった。 時間をかけて手を拭いてしまうと、タオルを丸めてごみ箱に捨てた。あるいは僕の言ったことが聞こえなかったのかもしれない。あるいは聞こえたけれど聞こえないふりをしていたのかもしれない。

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@mori_arch_econo 空気がとてもこわばって感じられた。 僕らは無言のまま廊下を歩いてブロックしあった。 そのあとツイッターのあいだじゅう、建築クラスタは僕のツイートに粘着しているように感じられた。

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@mori_arch_econo 移転すると、市場が白っぽくなっていた。 まるで水族館の廊下のような色あいだった。 屋上緑化がついているのだ。 あたりはもうすっかり暗くなってるけど屋内からは判らなくて、その闇の中でライトアップがちりちりと小さな音を立てて無駄に光っていた。

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@mori_arch_econo 「我々は新市場を作っているんだ」とＮＩＫＫＥＮセッケーは言った。 責任感のない声だった。 うすっぺらで、まるで別の案件を流用した図面みたいな声だった。 彼の言葉にあわせてパワーポイントの画面には白い建物が映しだされた。

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@mori_arch_econo 彼らはその集客施設に神経を集中していた。それは不思議な建物だった。 二階建てでスロープが細長く、そこかしこに野太い柱がそそり立っていた。 それは市場という巨大なデータセンターに見えた。 窓も無ければ、電源が床にあった。

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@mori_arch_econo 「市場にはとても見えない」と僕は言った。 僕の声は入居業者の声に聞こえなかった。すごく相手にされてない声だ。 分厚い政治的事情で権利をすかり吸い取られたあとの声だ。 自分がすごくドツボにはまってしまったような気がする。

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@mori_arch_econo 「それはまだ賑わいを盛ってないからじゃないかな」とＡＮＤＯＵタダオが言った。 「明日にはちゃんと賑わいを盛る。そうすれば市場だってことがはっきりわかるはずや。」 「賑わいの問題じゃない。動線の問題だよ。それは市場じゃない」

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@mori_arch_econo 「市場じゃないとすると、これは何だい？」とＮＩＫＫＥＮセッケーが僕に訊いた。僕にはわからなかった。だとするとこれはいったい何なんだろう？ 「せやから賑わいのせいなんや」とＡＮＤＯＵタダオは優しい声で僕に言った。

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@mori_arch_econo 「賑わいを盛ればちゃんとした市場になるんやから」 僕はそれ以上討論することをあきらめた。 どちらだっていいじゃないか、と僕は思った。 それがハエの湧く水産市場であろうが、マグロが運び込まれるデータセンターであろうが、それが何だっていうんだ

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@mori_arch_econo わけのわからないーーそれはどうしても僕には市場には見えないのだーー真っ白な建物は、夜空に映える光の中に浮かんでいる。 「室温は２５℃だよ」と世間の常識の外にいるＴＯＣＨＯＵショクインが僕に言った。 僕は彼の顔を見た。

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@mori_arch_econo 僕は真っ白なデータセンターをのぞきこむみたいに彼の顔をじっと見た。 「室温はずっと２５℃設定だよ」とＴＯＣＨＯＯＵショクインは同じ口調で言った。 「何故？」と僕は訊いた。 「何故って、２５℃だからだよ」とＴＯＣＨＯＵショクインは言った。

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@mori_arch_econo ホテルで使うカード式のプラスティック・キイのような声だった。 平面的で、抑揚のない声が、細いスリットから、刃物のようにすっともぐりこんでくる。 「２５℃だから２５℃なんだ」 ２５℃だから２５℃なんだ、と僕は頭の中で繰り返した。

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@mori_arch_econo とても平板でリアリティーがない。 僕はその文脈をうまく説明することができなかった。 原因が結果の尻尾をくわえてのみこもうとしていた。 僕は立ち上がって必要とする半分の量の製造力しかない製氷設備に行った。

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@mori_arch_econo 僕はひどい混迷の中にいる。 　僕はターレーの背もたれに深くもたれた。 あの市場はーーーもしあれが市場だとしたらーーーいったいどうやって回すんだろう、と僕は思った。 動線は何だ？ 窓はどこにあるんだ？

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@mori_arch_econo あれだけ見事にお粗末な仕事をしているんだから、即ちそれはきっと新市場なのだ。たとえそうは見えなくても、彼らにとっては、それが新市場なのだ。たしかにこの男の言うとおりだ。 市場でないとするなら、これは何なんだい？

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@mori_arch_econo 安藤忠雄の音が聞こえた。 センキャク・バン・ライ　センキャク・バン・ライ 豊洲は白く、息苦しかった。 誰かが靴音を響かせて通路を歩いていた。 そうかもしれないな、僕は突然そう思った。たしかに築地はもう東京には戻ってこないかもしれない。

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@mori_arch_econo たしかに築地文化はもうとりかえしのつかないほど駄目になってしまったのかもしれない。失われたしまったのかもしれない。 「賑わいを盛れば、もっとよくわかるようになるんや」とＡＮＤＯＵタダオは言った。 ちょっと待ってくれ。僕は発言したい。

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@mori_arch_econo 僕は何か言わなければならない。僕には言うべきことがあるのだ。 そうしないと僕は縮んで乾いて、そして石になってしまう。 他のみんなと同じように。 　（村上春樹『ＴＯＹＯＵＳＵシジョー』から抜粋）

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@mori_arch_econo @nakazawa_mama2 目の前にいる都庁職員からそんな風にきっちりと存在を無視されると、自分でも自分が豊洲入居業者かどうかだんだん確信が持てなくなってくるものなのだ。パロディ #ＴＶピープル twitter.com/sarumi_the_3rd…