地獄鎮守府の日常 #37~46

白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

彼女の視界に表示されるインターフェースは、叢雲のものとは違う。 叢雲の場合は弾薬表示や身体情報は複雑で、三次元的に配置されていた。 また文字も帝国標準文字である漢字と出雲文字の組み合わせでなく、日本国から第一期帝国で使われてた、漢字＋平仮名、片仮名だ。 #地獄鎮守府の日常

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様々な情報が表示されるが、雑多で把握は私の頭でもやりきれない代物。 対する不知火は洗練されており、二次元的な配置を心がけられている。 まるで叢雲の場合はこうして感覚を共有する事を前提としてなかったかのような、そんな気分さえしてくる程には。 #地獄鎮守府の日常

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「我慢してくれ」私は不知火に返す。彼女は艤装を着こんで歩いている。エンジンをフル稼働させることによる的への隠密性の低下を恐れ、反重力エンジンや電磁装甲は展開しておらず、通信インフラのみの起動だ。 そしてその重さは、感覚を受信する私にも受信される。 #地獄鎮守府の日常

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艦娘の体重はせいぜい大和のように前身電磁アクチュエータの塊でなければ常人の１．５倍程度の重さだ、お姫様抱っこも出来るし、抱きかかえても少し重い程度である。だが艤装は違う、堅牢性を重視した重金属や高密度物質の塊であるため、非常に重い。 #地獄鎮守府の日常

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普段の海戦なら反重力エンジンを展開してすいすいと重さも感じず移動できるが、こうも長い距離を歩いていると重さ、というのが嫌でも伝わってくる。 ＜解りました＞ だが、不知火も我慢する事に決める。そして森を進み続け、ようやく目的地に到達する。 #地獄鎮守府の日常

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森の先にあったのは洞窟、そしてその周囲には木で出来た小屋と、簡単な木製のバリケード。見張り小屋には艦娘と人間のハーフのような少年が突撃銃を手に持ち監視し、様々な監視網が張り巡らされている。 ここが今回の私の仕事の、目的地だ。 #地獄鎮守府の日常

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藪の中に不知火はすぐに隠れ、そして視界を拡大させ監視網を確認して行く。 視界の拡大能力は海戦でも長距離砲撃の時使われており、各種兵装の着弾予測地点等も表示される。 「着弾予測が煩わしいな、一端切ってくれ」 そう言うと、着弾予測点の緑十字が視界から消える。 #地獄鎮守府の日常

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仕事の内容は単純だ、香港の外にて艤装を装備した戦艦クラスの艦娘が三機逃亡、香港から各地を結ぶ交通ラインの一つにて山賊活動を行っているのでその艦娘の暗殺が任務だ。 逃亡艦娘による山賊活動や海賊活動は問題となっているぐらいには多発している。 #地獄鎮守府の日常

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一説によると大規模な犯罪シンジケートが鎮守府内に存在し、彼らの手引きとも言われてるぐらいに手口は似通っている。 私もその手の海賊提督とはある程度親交があり、『兎頭』と呼ばれる古風なギャングを気取った兎マスクの提督もその一人だ。 #地獄鎮守府の日常

白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

だが彼に聞いたところ、その手のシンジケートの存在については「知らないし、知っていたら暗殺して俺が乗っ取ってやる」と意気込んでいた。 尤も彼の主要な行動範囲は本土で、大陸ではないのだが……最近は似たような荒くれ提督と大阪でドンパチしてるようだが元気だろうか？ #地獄鎮守府の日常

白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

＜司令官、どうしましょうか＞ 悶々と考えてる中、不知火のメッセージが飛び現実に叩き戻される。 「どうだった？」 ＜少なくとも今、外に艦娘は居ないですね＞ 不知火のメッセージ、恐らくは洞窟に屯してるのだろう、そしてアジトの前に居る『人間』が死ねば前に出る。 #地獄鎮守府の日常

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彼女らにとって、同士とする山賊の人間なんてものは敵の戦力を把握するためのビーコンにすぎない、それも使い捨ての道具だ。 モノであるはずの艦娘が、人間をモノに貶める世界がここにはあった。 ＜どうします？こちらも警官隊を突入させ、敵を炙り出しますか？＞ #地獄鎮守府の日常

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「やめろ、不知火はもうそんな事はしなくていいんだ」 私は彼女に釘を刺す。 ＜申し訳ありません。注意、ありがとうございます＞ 感謝のメッセージが、不知火からくる。 しかしどうしたものか、入口前で騒ぎを起こすのなら、一気に三人同時に駆けつけるだろう。 #地獄鎮守府の日常

白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

洞窟を見る、洞窟の上部は当然の如く岩肌の露出した崖になっており、上を取れば少なくともそこから人間の山賊は射殺できる。 そして洞窟から出てくる艦娘の死角にもなるだろう。 「とりあえず洞窟の真上を制圧しよう。あそこさえ抑えれば後は楽だ」 私は不知火に指示する。 #地獄鎮守府の日常

白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

そして気づかれない様に藪から抜け、崖の上までの行軍を行う。 ＜増援も考えた方が良さそうですね＞ 基本的にこの手の行動は四人で行う、だが今回、不知火が行うのは敵艦の撃滅ではあるが、不可能な場合なら情報を収拾するだけして撤退も許可されている。 #地獄鎮守府の日常

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通常なら偵察を行い、待機していた増援戦力としての金剛、大和、榛名を投入するのが常套手段だ、だが、この状況なら私は不知火単独で十分と考え、彼女らは数キロメートル先にて待機させている。 #地獄鎮守府の日常

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だが、敵の中にも大和が居る場合、大和の投入も必要だろうか。 そう考えながら、私は崖の上に到着する。 崖の上には幸い想定していた見張り小屋はなく、洞窟への経路も無いか確認した後、一方的に砲撃が可能なポジションを私と不知火は掌握する。 #地獄鎮守府の日常

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崖の上から、不知火は手持ち式の１２．７ｃｍ砲を構える。彼女が使うのは通常のタイプとは違い、ショットガンのような水平二連式の砲だ。射程こそ通常モデルより多少短いものの、取り回しが良く、この手の任務では非常に有用ではある。 #地獄鎮守府の日常

白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

「騒ぎを起こして外に出た奴を、落下して近接戦でやるんだ、いいな？」 私は不知火に、作戦を告げる。 ＜了解しました＞ 答える不知火、見張り小屋の一つに視界が拡大され、それぞれの兵装の着弾予測視点が表示される。 #地獄鎮守府の日常

白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

小屋を警備する少年は、初霜のような黒い髪の少年だ。 彼の体に、不知火の手持ち砲の、死の十字架が重なり、そして引き金が引かれる。 反動で少し体が揺れ、視界の先にあった見張り台は一瞬のうちに轟音と供に爆ぜた。 続いて他の見張り台や小屋に、砲撃を不知火は浴びせる。 #地獄鎮守府の日常

白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

手持ち式の砲に装備された榴弾が破壊の限りを尽くし、そして弾切れをすると、不知火は後ろ腰にあるホルスターに砲を格納し、崖の下を見る。 洞窟から二体の戦艦娘が現れた、艦首は比叡に、陸奥だ。 「問題ない、このまま降下し、強襲しろ」 私は彼女に指示を告げる。 #地獄鎮守府の日常

白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

不知火はそのまま飛び降り、落下しながら肩の１２．７ｃｍ連装砲と、魚雷発射管を換装したロケット砲を陸奥に叩き込む。 陸奥は発射音に振り向き反応する前に、集中砲火にて爆ぜた。 不知火はそのまま、頭上を見上げる比叡に次の対称をロックし、同じく砲火を叩き込んだ。 #地獄鎮守府の日常

白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

比叡の恐怖におびえる顔が私の頭に染み込みながら、ロケット弾や砲弾の爆発が彼女を包み込み、陸奥と同じく溶解した艤装だけが残る姿と成り果てる。 不知火は崖を蹴り、着陸地点を調整、洞窟の側面に着地するように仕向ける。 反重力機関が、落下の衝撃を弱め着地に成功する。 #地獄鎮守府の日常

白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

周囲からは阿鼻叫喚の叫び声が聞こえる中、私は残弾を確認する、ロケット砲は残り二発、１２．７ｃｍ連装砲は残り六発、実質的には三発だ。 「いけるか」 私は不知火に、念のために打診する。 ＜問題ないです＞ 不知火は私に返す。これで大和が来なければいいのだが…… #地獄鎮守府の日常

白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

待ち構え、洞窟の先から出てくる敵が居ないかを伺う、その最中、生き残りの敵のライフル弾が不知火に襲い掛かる。だがそれは、電磁障壁の前に、不可視の壁の前に遮られ、そして落下する。 #地獄鎮守府の日常