1950年代のオーストリアHeimatfilmに見る幻想のオーストリア・ハンガリー帝国軍

第二次世界大戦後、ドイツに併合されていたオーストリアは再び独立を取り戻しました。 その時、失われた国の誇りを取り戻すために人々が必要とした幻想、それがかつての栄光の時代、オーストリア・ハンガリー帝国を舞台にしたHeimatfilm(郷土映画)と呼ばれる娯楽映画です。 そんな映画を見た感想ツイートをまとめました。
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しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

ローデリヒのことを考えると鬼伍長には謝罪したほうがいいとの店長の提案で、仲直りのために彼を夕食に招待したものの、ツンデレラの腹立ちは収まらず。激辛グラーシュをお見舞いです。ところが生粋の洪人である鬼伍長には全く効かず、それどころかダンスでリードを奪われ、キスまでされてしまいます。 pic.twitter.com/udZ1bLFOfJ

2018-05-11 11:40:11
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しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

騎兵なのに乗馬もイマイチなローデリヒに、ハンガリー系で乗馬大得意という(お約束)騎兵連隊長の娘は「わたしがあなたを立派な騎兵にしてみせるわ!」と猛烈アタック。連隊将校の祭りに、彼女の兄の竜騎兵少尉の制服を着させて無理やり出席させるという荒業まで発揮します。押しに弱いローデリヒpic.twitter.com/QFwGHogQZS

2018-05-11 11:40:12
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しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

ローデリヒは一年志願兵なので、基本的に下士官扱い。将校の祭りには出席出来ません。彼が着ているこの制服は竜騎兵上衣。歩兵上衣と変わらないように見えますが、左肩の飾りに注目。このAchselschlinge(肩紐)がついていたら騎兵か砲兵です。砲兵の上衣は海老茶色なので、青なら騎兵と分かります。 pic.twitter.com/BmY6phh9eU

2018-05-11 11:40:12
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「将校の祭りには下士官は来ないからバレないわよ!」という連隊長令嬢の見込みは当然外れ、鬼伍長が連絡のために現れてしまいます。右が軽騎兵中尉、左が下士官である伍長。同じアッティラ(軽騎兵上衣)ですが、将校は肩紐をはじめ全てが金糸で、下士官は黄色の飾り紐だという法則がよく分かります。 pic.twitter.com/IWfHrtw5S8

2018-05-11 11:40:13
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しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

この後、鬼伍長とツンデレラがいい雰囲気になったものの、まだ誤解が解けていないせいで喧嘩別れになったり、ローデリヒが何故か某大公夫人が気絶してしまったところを助けたりという事態が起こるのですが、そんなこんなで、とうとう副題である「軽騎兵演習」が始まります。 pic.twitter.com/z34oQdBA4C

2018-05-11 11:40:14
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しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

ツンデレラ宅はこの演習地のど真ん中。当時、軍事演習時に軍はその地にあるものをどう使っても良いという特権があったのですが、それを笠に着ることで、地元住民とのトラブルが絶えなかったというのはよく知られた話です。この演習でもその衝突が起こります。邸内に踏み込まれたツンデレラ激怒。 pic.twitter.com/njUPYCn1CO

2018-05-11 11:40:14
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しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

激怒の間に敵方の歩兵(だから軽騎兵vs歩兵って…)連隊に包囲されてしまう軽騎兵たち。その間にローデリヒは勇気を振り絞って脱走し、本部に状況報告。この本部、中央に大公(将軍)、その右が軽騎兵連隊長、さらに観覧している槍騎兵将校(青上衣に朱ズボン)、参謀将校(瓶緑)が確認できますね。 pic.twitter.com/nk2PFwQCVx

2018-05-11 11:40:15
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しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

ローデリヒが娘の交際相手にふさわしくないと思っていた連隊長も、大公が彼を賞賛するので、認めざるを得なくなります。一方ツンデレラはようやく誤解が解けて、歩兵連隊の捕虜になっていた鬼伍長にデレます。こうして二組、いえ、小間使いも入れて三組のカップルがハッピーエンドを迎えるのです。 pic.twitter.com/cvUMIrY2dJ

2018-05-11 11:40:16
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しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

最後に。この映画の注目点は、墺人、洪人、独人(下着店の丁稚が独人)、ボスニア人といった墺洪帝国の多民族性が強調されているところです。その中でヘルビガー御大が「我らは大砲も弾もいらない、武器を持つことが危険なんだ」と歌い、墺の中立を強調するのが製作時の墺世相を浮き彫りにしています。 pic.twitter.com/9iiJLmaNUq

2018-05-11 11:40:16
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しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

長々失礼しました…。映画としての価値は高くない、大衆娯楽映画です。しかし、1950年代のオーストリア人が墺洪時代をどう見ていたのか、そして「現在」=再独立・永世中立宣言の翌年である1956年の墺をどう見ていたのかということを示した作品だと思ったので、つい細かくご紹介してしまいました。

2018-05-11 11:50:02

おまけの小ネタ

しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

スクショを撮ったのに紹介で使えなかった、ピアノを弾く墺洪軽騎兵一年志願兵のローデリヒ・ランペル君と連隊長の娘イザベルのデュエットシーン。彼が連隊長の居室のピアノを弾いたときにイザベルがいきなり歌えたのは「その曲知ってる。兵隊さんたちがよく歌ってるから」「あれは僕が作曲したんだよ」 pic.twitter.com/tEffjPM7AZ

2018-05-13 03:35:58
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しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

このローデリヒを演じるペーター・ベックは今や大御所俳優ですが、シューベルト同様ウィーン少年合唱団(しかも、ソロ歌手)出身なので、歌を歌う役が多いのも納得です。彼は数々のミュージカル劇場の劇場監督も務めており、アン・デア・ウィーンの監督時代に初演を迎えたのが『エリーザベト』です。

2018-05-13 03:54:29

番外編(舞台作品)

『Leutnant Gustl』(グストル少尉)

1979年 ヨーゼフシュタット劇場

この作品レビューをこのまとめに入れるのは間違いかもしれませんが、敢えて番外編として加えてみました。

1950年代のHeimatfilmはオーストリア・ハンガリー帝国を神話化し、一種の理想郷として描き出しましたが、1970年代のオーストリアではあの時代を批判的に、しかし同時にある種のノスタルジーとともに表現することが一般的になっていきます。

その一例として、二重帝国時代に書かれた文学史的にも重要な作品、アルトゥール・シュニッツラーが1900年に発表した『グストル少尉』の1970年代舞台化の映像作品を取り上げてみます。

今までご紹介したHeimatfilm作品とのコントラストを感じていただければ幸いです。

しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

ついに手を出してしまった…ヨーゼフシュタット劇場の古い舞台中継DVD…それもシュニッツラー『グストル少尉』(1979)。あのですね、片手でこの将校外套の釦を止めてゆく様子を見るだけでもうあのその…ごめんなさい…レビューは近日中に。 pic.twitter.com/Q9FISTBTyx

2015-05-10 07:05:44
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しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

右の少尉が片手で将校外套の釦を止める(一番上をまず最初に止めて、以降下から順に止めてゆく)と、視線が水平に保てるわけです。一方左の大佐が両手で下から順番に止めてゆくと、上に行くに従って自然に顎が上に上がってゆきます。これで階級の差が感覚的に現れるのですよ。たったそれだけで!

2015-05-10 07:32:05
しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

OS成田直行便廃止の打撃が消えたわけではないのですが、リハビリとして、長らく保留してきた1978年のヨーゼフシュタット劇場版『グストル少尉』のレビューをやってみたいと思います。これから8連投になります。ごめんなさい…。 pic.twitter.com/nBLKxnyFgk

2016-04-08 10:48:13
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しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

『グストル少尉』(Leutnant Gustl)といえば、シュニッツラーが1900年に発表した短編小説。まだ幼さが抜けない歩兵少尉グスタフ(愛称がグストル、つまり愛称で呼ばれるぐらいお子様だということ)の心のなかの言葉だけで全てが進行するという、独文学史上重要な作品のひとつです。

2016-04-08 10:48:27
しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

若造少尉が一般市民から侮辱を受け、それに対し咄嗟に将校らしい対処が出来なかったことを恥と考え、名誉のため自死を選ぶかどうか、ウィーンをさまよいつつ葛藤する思考がひたすら一人称会話文で続きます。これをどうしたら舞台化出来るのか…? pic.twitter.com/9JnOHXmwgH

2016-04-08 10:49:02
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しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

エルンスト・ロータルの脚本は、グストルが侮辱を受けた瞬間を別連隊の少佐が見ており、少佐から通報を受けたグストルの連隊、歩兵第四連隊で非公式の法廷が開かれるという形式をとりました。内面の葛藤を法廷という形で外面化するという離れ業です。 pic.twitter.com/AI8340QEPM

2016-04-08 10:49:34
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しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

歩兵第四連隊と言えば墺洪軍歩兵の中では随一のエリート連隊。原作のグストルは所属連隊もファミリーネームさえも記述されず、控えめに言ってへなちょこ若造ですが、こちらのヴィルファート少尉はその所属にふさわしい青年将校になっています。 pic.twitter.com/LcVP5IHcfS

2016-04-08 10:50:25
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しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

その裁判に、グストルを愛するアンナが「証人」として現れ、彼を助けるために八面六臂の活躍をします。終いに「あなたがた軍人の『名誉』についての考えはバカバカしいわ」と法廷の面々に突きつけます。これは原作の通奏低音となっているテーマです。 pic.twitter.com/d4kcG7XNCK

2016-04-08 10:50:54
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しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

原作では、グストルが思いだす「今まで関係を持った女性」の一人でしかないアンナをはじめ、作中にちらりと出てくる名前をそれぞれの役に巧みに振り分ける技は、原作と突き合わせると更に面白くなってきます。原作を誰もが知っている環境だからこそ出来る、二次創作のような舞台化といえるでしょう。

2016-04-08 10:51:14
しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

最後に、この劇作品最大の魅力は、全員がすばらしいウィーン方言を聞かせてくれること。しかも墺洪軍服で!ヨーゼフシュタット劇場は、ローカル性が特徴。旧帝国劇場、ドイツ語圏最高位劇場の一つでもあるブルク劇場とは一味違う楽しみがあるのです。 pic.twitter.com/Nc757A5LqD

2016-04-08 10:51:41
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おわりに・オーストリア・ハンガリー帝国軍を扱った作品が描き出す理想と現実

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