- AlmaObtener
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「……これは、」 差し出されたそれを、受け取って。指先で摘まみ、自分の目の高さに合わせ眺める。細かい意匠。象られた色の連なり。 「──これが、君の最初の物語(うた)かな、エクスィ」 黒髪を、柔らかに撫でる。 音を鳴らしながら、それを耳朶に付ければ、髪を掻き上げた。
2015-07-01 09:41:28ちゃり、と耳元を飾るそれが音を立てるだろうか。少女と視線を合わせるように屈んで、エピカは屈託ない笑顔で告げる。 「ありがとう。大切に、大事にするよ」
2015-07-01 09:41:30鞘二人に似ていると言われ受け取って貰えれば、嬉しそうに、照れくさそうに少し眉を下げて笑った。 代わりに貰った鎖。 首を傾げて広げれば、星のペンダントなのを気付いてまた目を細める。 隣の少女にはお揃いの星で色違い。 先に首につけて。
2015-07-01 10:24:31花のアンクレットの代わりに乗せられた耳飾り。 手にとり揺らせば、相手の色と自分の色と。銀の剣。 少女からは想像できない、剣のモチーフ。 少し首を傾げて…エクスィを見下ろした。
2015-07-01 10:24:56「そうだね、同じこと考えていたみたいだ。」 本当に兄妹のようだと、思ってしまうのは仕方ない。 「ありがとう。そのうち、このモチーフの意味を、教えてくれる?」
2015-07-01 10:25:00「……っ」 『賢者』の敬称で、自分を呼んだ、その青年の差し出すもの。 ーーそれは……"あなたについていきたい"という……真っ直ぐな瞳(め)をした、彼の『魂(おもい)』そのものでーー 「…………っ」 真一文字に結んだ、皺だらけの唇が、微かに、微かに、震えている。
2015-07-01 10:56:15今までに、賢者は、136人の弟子を取った。 その誰しもが……利己的な欲望、不遜な野心、献身の妄執、俗世への侮蔑……様々な目的、動機のために、『賢者』の『名』を欲した。 ーー初めてだった。 彼を。 彼自身を"そう"呼び、慕い。 『弟子になりたい』と、言った者は。
2015-07-01 10:56:21皺だらけの指を伸ばし、ズィオから、『贈り物(おもい)』を、受け取って。 不器用な、笑みを浮かべ。 「……うぬを、認めよう。『儂』の弟子に」 ーー……言ってみたかった、だけなのだ。 賢者の、ではなく、儂の、などと。 その声は、少し震えていて。 そして、僅かに、鼻にかかり。
2015-07-01 10:56:24「そう。これが、私のうた。これから、紡いでいく、うたのはじまり」 髪を撫でる手に幸せそうに笑みを浮かべ。連なる輝きが耳を彩り、涼やかに音を立てたのを見れば、また笑みを深くする。 「これは、私だから。おにいちゃんにも、持っていて、ほしい」 少年へと振り返れば。小首を傾げて、告げて。
2015-07-01 11:14:32「おじいちゃん。笑った」 老人と青年──賢者と弟子、のやりとりを見たならば。 また、胸にあたたかさが満ちてくる。 ふんわりと少女自身もしあわせそうに、微笑むだろう。 離れるのはさびしい。けれど。 新しいはじまりを、祝福したい思いも、確かにあって。
2015-07-01 11:14:41「やっぱり、ズィオは、すごいわ」 最初の日に告げたことば。繰り返して、微笑んだ。 最初の日。言葉を交わして。 紡ぐこと、繋ぐことの意味。生きるということ。確かめ合った人が。 新しい未来を紡ごうとしている、それが、嬉しくて。
2015-07-01 11:20:14素直になれない賢者殿の、そればかりは素直な、震える声に。柔らかく瞳を細めて。 少女の差し出した耳飾りを。紅と金を纏う剣を掌に受け取り。 そうして龍は詩人を真似るように、耳飾りを付けてみる。
2015-07-01 11:21:08「今度。名前、もらったら」 ──また、会いましょうね。 言葉にしたのは、叶うかどうかもわからない約束。だけれど。 ともに見つけた道の先が、いつか。交わることがあればいいと。 そう心から願って。 「ズィオの、新しい名前。私も、知りたいから」
2015-07-01 11:21:17それから。頭に巻いていた布をばさりと取り払って。 髪を掻き上げ、耳元を飾る輝きを、誇らしげに示す。 胸元の透き通る煌めきをも。 「とても、うれしいよ。ありがとう、ふたりとも」
2015-07-01 11:23:45紅い髪の狭間からは二本の白い角を覗かせながら。感慨深げに、龍は琥珀の瞳を伏せる。 思い返すのは、始まりから、これまでのこと。 数々の出会い。 そしてこれからの。別れ。
2015-07-01 11:26:39けれどきっとそれは、多くのものを龍から奪い、そうしながらも、多くを与えるのだと、知っているから。 龍は哀しみ。 龍は喜び。 龍は歌い。 また、と。告げるのだ。
2015-07-01 11:28:41「この先の道は、違えども。ここで紡いだ縁は、きっと、途切れることはないのだろうと。今は、そう思う」 だから、また、と。 龍は告げる。
2015-07-01 11:30:11浮かべたぎこちない微笑みを指摘されるなら、慌てた様子でそれを取り払い。 「ふん!わ、儂とて嬉しければ笑うことくらいあ……」 言いかけて、それが、『すっごい嬉しかったんじゃぁぁ!!』との本音を言っているに他ならないと気づけば、やはり、慌てて口をつぐみ、顔を額まで真っ赤に染めて。
2015-07-01 11:34:27そろそろ日が落ちる。 日が落ちれば、全員で一緒に居る時間がおしまい。 夜が明ければ、ここでの生活もおしまいで、吐息をこぼす。 「じゃぁ、わたしの相棒と同じだね。」 妹からもらった耳飾りを耳へと飾り、腰に差す剣をぽんと叩いた。 大分、古い剣だけれど。
2015-07-01 11:43:27「さて。」 賢者の元に旅立つ彼らに視線を向ける。 ゆっくり呼吸を大きく一つ。 「賢者様、昨日は貴重な体験をありがとう。賢者になるための『素直さ』を賢者様はもーちょい、身につけなおすといいと思うよ。ズィオをひねくれさせないでね。」 戯れて大きく腕を広げて見せる。
2015-07-01 11:43:36「ズィオ、一緒に弟子になれなくてごめん。誘ってくれたのは、凄くすごくうれしかったよ。偏屈爺さんを宜しくね。きっと困ったら軽く叩くぐらいしても許して貰えると思うから頑張って。」 きっと賢者には怒られる言葉だろうけれど。 エプタはどうするのだろうと視線を向けるが、ひとまず。
2015-07-01 11:43:44大げさな仕草で頭を下げた。 「君たちの行く手が幸福なものでありますように。それから、 出会ってくれてありがとう。忘れないよ、ずっと。」 運命を変えた3日間。 ここにもう居ない人たちにも含めて、感謝を、祈りを。 どうか、 出会った人たちの未来が明るいことを。
2015-07-01 11:45:47震える賢者の口元を見れば、それが怒りによるものではなかろうかと一瞬危惧するも、すぐに男は思い当たった。この老人が、そのような形の怒りを表したことのないことに。 堅く結ばれたその唇がほどけ、紡ぎ出される言葉を聞けば、みるみるうちにこちらの表情には喜色が満ちて。
2015-07-01 11:55:05