第8話 「閉じ込められた龍」 パート3

脳内妄想艦これSS 独自設定要注意
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白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

__ 第8話「閉じ込められた龍」パート3 __

2016-07-18 09:00:54
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

8-3-1「もしかしたら兄さんとは逆のパターンで、姿は雲龍さんでも、雲龍さん側の心がどうにかなってるのかも…っていうような話を、さっきまで兄さんとしてたんです」 綾香と大智は先程廊下で気付いた考えを、演習場に集まっていた監獄島の面々に説明した。 「成程、『雲龍』を演じているのか」

2016-07-18 09:03:36
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8-3-2「また前例の無いパターンですね、提督…」 扶桑が難しい顔で風見の方を見る。 「これまでの行動から見るに雲龍の記憶だけは持ち合わせているようだな。だが、中身は完全に別人なのだろう」 「もしかして、それであんなに躓いていたんですか?」 大淀が思い出したように言う。

2016-07-18 09:05:01
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8-3-3「え、あの人大淀さんの前でも躓いてたんですか」 「部屋に案内する間に…あれは気まずかったわね」 確かにあの時、風見の挨拶が済んだ後部屋に誘導したのは大淀だったが。 「演じようとしている割に、演技がヘッタクソね、アイツ…」 既に五十鈴の中では雲龍の心象は非常に悪い様子だ。

2016-07-18 09:07:13
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8-3-4「でも、何故演じる必要があるんです?これならバレるのは時間の問題だって自分でも分かりそうなものでしょうに」 「何故…何故、か。そうだな、何でだろうな」 明石の疑問を聞いた風見が煮え切らない応え方をする。 「司令官?」 「…思いっきり心当たりがある、みたいな顔してますよ」

2016-07-18 09:09:26
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8-3-5「バレたか。まぁ、ちょっとな…雲龍の件だが、今回は俺に任せてみてくれないか?」 「あら、提督が自分からそんな事を言い出すなんて珍しいですね」 扶桑が意外そうな顔をする。 「新人達がこうも優秀なもので、最近は全く働く機会が無いからな。偶には俺にも働かせてくれ」

2016-07-18 09:11:19
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8-3-6「あの、それまで雲龍さんはどうしたら…」 「…そっとしておいてやるのが良いだろう。多分、真正面から話そうとしても今は取り合ってくれないだろうさ」

2016-07-18 09:13:34
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8-3-7 その場はそれで解散となった。 雲龍はその日は以後割り当てられた自室から出て来ることは無く、誰とも顔を合わせなかった。 彼女のために夕食代わりの御握りを持って行った鳳翔も、直接彼女とは話をしていない…扉をノックしたものの返答は無く、ドアには鍵がかけられていたという。

2016-07-18 09:14:54
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8-3-8 気になる事と言えば風見の様子もそうだ。 綾波や浜風、五十鈴と比べても遥かに厄介そうな雲龍の対応を前にして、演習場での会話以降一切焦った調子を見せないどころか、普段よりも落ち着いているようにさえ見える。 しかし誰が質問しても適当にはぐらかされ、その理由は分からなかった。

2016-07-18 09:16:55
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8-3-9 そして時間はずるずると過ぎ… … 窓から差し込む朝日が顔を這い、雲龍は目を覚ます。 起きた直後、半ば祈る様な気持ちで自分の手を顔の前へと運び…寝る前と変わらぬその手を見て、自嘲気味に小さく笑う。 「駄目か」 ーその時、建物内に突然アナウンスが響いた。声の主は風見だ。

2016-07-18 09:18:59
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8-3-10「本部より緊急の任務発令。「鳶」旗艦五十鈴以下、綾波、浜風、扶桑、雲龍…以上5名、至急執務室に集まるように。繰り返す…」 「!」 自分の名前をアナウンス内に聞きとめ、雲龍はベッドの上で舌打ちした。 …動かずにいる訳にもいかないか。雲龍は身繕いを済ませ、部屋を後にする。

2016-07-18 09:20:38
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8-3-11 そして、アナウンスから数分後の風見の執務室。 「意外ね、来ないかとも思ったんだけど」 「…」 五十鈴と雲龍の間の空気は非常に険悪である、が、とにかく5人は欠けずに風見の元へ集合していた。 「その辺にしておいてもらおうか…これより今回の作戦内容を説明する。大淀、頼む」

2016-07-18 09:21:56
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8-3-12 風見はそう言うと大淀と共にいつものボードの前に移動する。 ボードには既に今回の作戦海域の海図が貼られていた。 「…沖ノ島の海域に襲来した深海棲艦の機動部隊を撃滅するため、本土から艦隊が送り込まれた。敵中枢の位置はこの辺りだ」 大淀はマグネットを手際よく配置していく。

2016-07-18 09:23:28
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8-3-13「だが敵もさる者、近辺の島々に伏兵が配置されていたのだ。このままだと前進する艦隊は四面楚歌の状態に陥る」 風見はボードから5人の方へ目線を移す。 「よって、我々は急ぎ援軍として出撃し、この伏兵達の脇腹を突いて駆逐してやらねばならない。これが任務の概要となる」

2016-07-18 09:25:03
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8-3-14「そして、雲龍の件も伝えておかなくてはならないな」 風見の言葉を皮切りに、全員の視線が雲龍に集まる。 「…先日の発艦の状態を見ての通り、現状ではまだ雲龍に戦線に立ってもらうのは不可能と判断する。よって、解決まで『鳶』にはこれまで通りの編成で任務にあたってもらう」

2016-07-18 09:26:28
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8-3-15「今回の相手も機動部隊との情報有り。お前達には苦労を掛ける事になるが、済まない、今回も宜しく頼んだぞ」 「了解!」 4人への指示を終えると、風見は今度は雲龍に向き直る。 「雲龍、そういう訳だ。先ずは落ち着いて、現状の回復を最優先事項としてくれ。焦る必要は無い」

2016-07-18 09:29:38
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8-3-16「…」 綾波はちらりと雲龍の顔を見る。その表情からは、この采配が彼女にとって良い物なのか不満なのかは読み取れなー 「…が!」 …唐突に風見が声を張り上げたので、綾波の方がビクッとしてしまった。 「何もタスクを割り当てないというのもアレなのでな。少し書類を手伝ってくれ」

2016-07-18 09:30:49
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8-3-17『鳶』が出撃した後、執務室には風見と雲龍のみが残る形となった。 「今の時期はどうも捌かなくてはいけない量が多くてな…机はそっちを使ってくれ」 風見は書棚から書類を取り出しながら雲龍に指示する。 普段鳳翔や大淀が作業している机だ。 「んで、お前さんに任せるのはこれ、と」

2016-07-18 09:33:29
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

8-3-18 席に着いた雲龍の前に、風見はどさりと紙束を置く。 「こういうのは苦手か?雲龍」 「…いえ…どうでしょう」 机の前の書類の山を片付けると思うと確かに気は重いが、臨まないことにはただ飯食いをしているような気にもなりかねない。複雑だった。 「手順は簡単だ、今教えよう」

2016-07-18 09:34:50
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8-3-19 … 「(改定が必要な場合はここにチェックを入れて…)」 午前の静かな執務室。簡単なレクチャーを済ますと、風見と雲龍は書類の山に取り掛かっていた。 「(申し送りはこっちに纏めて…)」 書類は既に誰かが手を加えた後のようで、作業自体は割と単純な工程で済むのが救いだった。

2016-07-18 09:36:08
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8-3-20「(こっちの書類はこっちの仕様書と比べて…)」 …静かな執務室には、二人が黙々とペンを走らせる音が小さく響いていく… 「(そして、ここには記入者の署名を…)」 …署名ー 「!」 雲龍が自分の間違いに気付いた瞬間には、既に眼前の書類は素早く抜き取られていた。 「あ!?」

2016-07-18 09:38:24
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8-3-21「やはりお前か…照海(テルミ)!!」 「ッ!!」 風見の狙いは端からここにあった。綾波の推測通りにこの人物が雲龍を演じているだけであるならば、『習慣』や『無意識』は雲龍のものにはなり得ない。風見は書類業務を進める体で、雲龍が最初の『署名』を行う瞬間を待っていたのだ。

2016-07-18 09:39:44