戯言屋さんの突発抽象小説「穴だ穴だ5」

例によってまとめました。 これまでの目次はこちら→ http://togetter.com/li/955105
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まとめ 戯言屋さんの突発抽象小説「穴だ穴だ」・目次 増えたので目次を作りました。 1555 pv 25
戯言屋 @zaregotoya

突発抽象小説「穴だ穴だ5」 「対象はマジオペ沼を落ちていったかも、とのことです」 トウコ追跡部隊の隊長の報告に、黒服の竜師は頷く。「ナナタとかいう小僧、意外に粘ったな。マジオペ沼は規模の割に深い構造だ。他の地層に逃げられたら面倒だ。急げ」「はっ」 敬礼して立ち去る隊長。 01

2016-07-22 12:26:00
戯言屋 @zaregotoya

実のところ、そうではないかと思い、先回りして沼の探索を部下に命じていた隊長である。彼女は現場に向かい、状況を確認することにした。「沼の捜索はどうだ?」「ダメです隊長。原作小説3巻が、その……」「はっきり言え」「多くの人員がダメージを受けて、行動不能に」 芝村め。歯噛みする。 02

2016-07-22 12:28:25
戯言屋 @zaregotoya

「……この程度で行動不能だと? お前達は過去の苦しみを忘れたのか。思い出せ、ゲームには全然なかったような感じの設定がいきなり出てきた、あの頃の理不尽を」 隊長が飛ばした激に、追跡部隊の人員達が、はっと顔をあげた。拳を握りしめて隊長は叫ぶ。「思い出せ……奪われた瀬戸速を!」 03

2016-07-22 12:31:31
戯言屋 @zaregotoya

微妙な顔の隊員達。「いや、普通に瀬戸壬生でしょあれは……」「私的には茜速が」「善速でBコースを」 頭を押さえる隊長。「……いいだろう。貴様ら、まだまだ余裕がありそうだな。さっそく沼に降りろ!」 そ、そんなー、と声をあげる隊員達。えーん、という感じでマジオペ沼に沈んでいく。 04

2016-07-22 12:33:45
戯言屋 @zaregotoya

芝村め、芝村め…… トウコ追跡部隊の隊長は、刀剣乱舞沼が無名世界観の穴と関わることに、強い危機感があった。それはとても恐ろしいことだと身をもって実感していたのだ。その流れを回避するためならば鬼にもなろう。……刀剣乱舞は、無名世界観とは無縁の、天に揺蕩う楽園であるべきなのだ。 05

2016-07-22 12:36:34
戯言屋 @zaregotoya

トウコというあの若い審神者も、無名世界観の泥沼めいた設定に沈んで精神を病む前に、なんとか救助せねばなるまい……そう考えていた。実のところ人助けのつもりなのである。(私の部下達は、そうした危機感を持っているのか?) そんな風に考えていると、沼の水面を破って部下が顔を見せる。 06

2016-07-22 12:38:55
戯言屋 @zaregotoya

「イツコ隊長! 見つけました!」「でかした。どんな状況だ?」 拳を握りしめる部下。「グエンとク・ミエンがいい感じです!」 アサルトライフルをパワフルに片手撃ちする隊長。慌てて水面に潜る部下を見送った後、溜息。まあ、あの様子ならそう時間はかかるまい。仮説拠点に戻ることにする。 07

2016-07-22 12:41:20
戯言屋 @zaregotoya

隊長が仮説拠点に戻ると、あのナナタという少年と竜師が、何かを話しているところだった。拷問を受けて憔悴してボロボロのナナタ。己を抱くように震えて、怯えているよう。可哀想に。あれもこれも芝村が悪いと考える隊長。「君の協力で、刀剣乱舞沼から迷子になった審神者を見つけられそうだよ」 08

2016-07-22 12:43:54
戯言屋 @zaregotoya

「まいご……?」 憔悴した顔で見上げるナナタに、薄ら笑いを浮かべる竜師。「不幸な行き違いがあったようだが、我々は彼女が誘拐されたのでは、などと思っていたのだよ。いや、君には悪いことをしたね。これは僅かだが、心ばかりのお詫びと、お礼だ」 ナナタの手に10マイルを握らせる竜師。 09

2016-07-22 12:46:42
戯言屋 @zaregotoya

「何かあれば、これからもよろしく頼むよ」 笑顔でそう言って、竜師はナナタを解放して仮説拠点から逃がしてやった。「…………」 ナナタは、どこか焦点の定まらない目で、ふらふらと歩き始める。そんな様子を見てガンパレのトラウマイベントを思い出したか、隊長は苦々しい顔で背を向けた。 10

2016-07-22 12:49:00
戯言屋 @zaregotoya

「竜師」「小娘は見つかったのか?」「もう間もなく」「ふん……急ぎたまえ。事態は君が思っているよりも急を要する。これはとても重要な任務なのだ」 竜師は懐からボロボロの青い本を取り出して、神経質そうに確認しながらそう言った。隊長は何も言わず敬礼して、心の中で溜息を吐いた。 11

2016-07-22 12:51:14
戯言屋 @zaregotoya

……時は進んで、一方その頃。「……遥か昔。オーマと呼ばれる民が異世界におった」 今日は星見じいさんが無名世界観の歴史を語ってくれるらしい。焚き火を囲みながら、二人の少女が話を聞いていた。アルファシステムサーガというボロボロの青い本を読みながら、星見じいさんは話を続ける。 12

2016-07-22 12:53:49
戯言屋 @zaregotoya

「このオーマの民は、世界が1つに繋がっていた大昔の時代の、わんわん帝国の世界調査船団の水夫の末裔と言われてはいるが……真相は不明じゃ。ただ彼らは、どういう理由か元の世界に帰れなくなったらしい。そこで元の世界に帰る技を磨いたのじゃ」 わんわんって……突っ込みを自重するトウコ。 13

2016-07-22 12:56:28
戯言屋 @zaregotoya

「あれ。わんわん帝国って確か……」「ナナコ、まだ話の途中じゃ。星見話はただでさえ脱線しやすいんじゃから、ちと黙っておれ」 むーっ。と頬を膨らませるナナコがおかしくて微笑むトウコ。「で、オーマと呼ばれる民は、WTG(ワールドタイムゲート)を使って元の世界に戻ろうとしたのじゃ」 14

2016-07-22 12:58:33
戯言屋 @zaregotoya

「目には見えないワープゾーンみたいなの……ですよね?」「そうじゃ。そしてWTGは、リューンという情報を伝える光を他世界に運ぶ性質があってな。正確にはリューンが集まって束になった感じのものがWTGなんじゃが、オーマは、このリューンを操る技術を磨いていったらしいんじゃよ……」 15

2016-07-22 13:00:40
戯言屋 @zaregotoya

「このあたりのオーマの歴史は、あまりに古い話なので、現在のオーマ達にさえ真偽は定かではないらしいが、しかしオーマ達がリューンを操り、そこから絶技(RPGでいう魔法)や、世界移動の技術を発展させていったのは確からしいのう……」 ちくちくサーガを読みつつ、星見じいさんは言う。 16

2016-07-22 13:02:48
戯言屋 @zaregotoya

「オーマ達はリューンを操り、世界移動の方法を研究しつつ世界を渡っていった。第1世界から第3世界を自らの版図にして、中央世界と呼んでいたらしい。その後、第6世界まで発見していたようじゃが」 トウコの頭の中では、二足歩行する犬達が魔法でワープして世界を移動するイメージである。 17

2016-07-22 13:05:08
戯言屋 @zaregotoya

「ところがある時、6つの世界が1つになる現象が起きた。この現象はワールドクロスといって、長い期間でゆっくり世界同士が1つになったり、また離れていったりする現象なんじゃが……かなり大規模なワールドクロスが起きたんじゃ」「世界が1つに?」 イメージ出来ずに小首をかしげるトウコ。 18

2016-07-22 13:07:15
戯言屋 @zaregotoya

「簡単に言うとワールドクロスは、ある世界とある世界が地続きになる感じじゃな。ちと難しいので、WTGを使わず歩いて他世界に行ける、くらいで良かろう」「つまり世界と世界がWTG無しで行き来できるようになったのね。そんな大規模なクロスが起きたなら、オーマ達は元の世界に帰れたの?」 19

2016-07-22 13:09:58
戯言屋 @zaregotoya

ナナコの言葉に、星見じいさんは首を横に振った。「……それどころではなかった。突如XXXX(諸事情により伏せ字)と呼ばれる存在が出現して、あしきゆめという悪い存在が、全生命を襲い始めたのじゃ。……それが全ての世界を巻き込んだ壮絶な戦い、悲しみの聖戦の始まりじゃった……」 20

2016-07-22 13:12:45
戯言屋 @zaregotoya

オーマ達には、白・黄・赤・黒・緑・橙・青という部族のようなものがあったせいか分裂気味であり、XXXXの配下となった神々を前に苦戦していたが、全オーマの統領であるシオネアラダが善き神々を含めた光の軍勢を組織して、あしきゆめに敢然と立ち向かい、ついにXXXXを封印したらしい。 21

2016-07-22 13:15:44
戯言屋 @zaregotoya

「最終的には、質量兵器を投下してXXXXを第4世界の地下に封印したそうじゃ。その地は嘆きの平原と呼ばれて不毛の砂漠となったが、こうして戦いは終わった……かに見えた」「あー。次は黄金戦争だっけ?」 ナナコが思い出した顔で言う。トウコは、まだ戦争が続いたことに顔を曇らせた。 22

2016-07-22 13:18:08