マイアミ鎮守府特別編「Bride」 前編

ーこの作品に登場する「彼」は作者の許可を得ており実際違法ではないー マイアミ鎮守府物理書籍版「OverKill」より 中編:https://togetter.com/li/1164253
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orphe @orphechin

……現場から百m程度離れた移民街の路地。その狭い道を走る羽黒の前、屋根の一角に、「彼」はいた。 #マイ鎮特別編

2016-07-25 00:08:01
orphe @orphechin

片手に吹雪、片手に彼女の提督を吊るしたその男は、恐ろしく盛り上がった筋肉を擦り切れた軍服に包み、そして顔には天狗の面を身に付けていた。羽黒は彼に砲の照準を合わせる。 #マイ鎮特別編

2016-07-25 00:08:09
orphe @orphechin

それを見て、天狗面の奥から、男が声を出す。 「アーーーーーーーー…ア、ア、ア、テイトク、テイトク、アー」 彼の威容な面体とその奇妙な口ぶりに、一瞬、羽黒は引き金を引くのを忘れた。 「ワ、ワ、ワ、ワ、ワワワワワ…私、わ、わたしわタしニハだれ、だれも、オイツケナイ」#マイ鎮特別編

2016-07-25 00:08:34
orphe @orphechin

「おい、マイアミの艦娘!助けてくれーッ!」天狗面の男に吊るされた提督が悲鳴を上げる。一方の吹雪は気絶しているのか反応がない。 「な、何?キがチ、チチ、散るんだけど」天狗面の男が片手に力を入れる。間抜けな声を出し、提督が再度気絶する。 同時に、20.3cmが吠えた。 #マイ鎮特別編

2016-07-25 00:09:18
orphe @orphechin

「オッッソオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオイイイイ!!!!!!」聞くものの鼓膜を引き裂かんばかりの叫びを上げ、天狗面が屋根を蹴り、空に舞う。羽黒の放った砲弾は虚空を抉るのみ。 「なんだあの叫びは、おい羽黒無事か!」追いついたマイアミ提督が言う。 #マイ鎮特別編

2016-07-25 00:09:51
orphe @orphechin

「司令官さん、あれです、あれが…犯人です。間違いありません」羽黒が空を睨み言う。視線の先の天狗面は、屋根を蹴上げた後、2人の生贄を両手に吊るしたまま、空中に浮かんでいた。 天狗面の男はくるくると頭を回している。壊れたテープを巻き戻すように。 #マイ鎮特別編

2016-07-25 00:10:55
orphe @orphechin

天狗の鼻が10時の方向を向いて、硬直する。ややあって、低い男の声。 「アー、島風…うるさいぞ。戦いは落ち着いてやるものだ」 それから急激に羽黒たちへ向き直る。 「貴様らは後だ。まずはこの男を裁く。それまでは待っておれ」 「そうはいかないって!」 隼鷹。 #マイ鎮特別編

2016-07-25 00:12:34
orphe @orphechin

このまま撃てば確実に奴に当たる。だが人質も巻き添えだ。 「提督ぅ、やっちゃっていい?」 どうせやるんでしょ、隼鷹の言葉にはそんな本音が滲んでいた。彼女の主、<ナイジェル>は少しためらい、「<ドン・ファン>、いいな」愛宕に責任を投げた。 「殺して頂戴」あっけない返答。#マイ鎮特別編

2016-07-25 00:13:21
orphe @orphechin

「よしきた天狗面の体が膨れ上がり、震える。 「ナ、ナガ…」その胴は、弾幕から手元の吹雪と提督を守るように膨張する。弾丸がそこに吸い込まれていくが、血の一滴すら流れ出ない。 「ナガト…タ…の装甲は…伊テではナイ。フ、ッフフフフ、フ、キかヌわ」先ほどの奇妙な口調が戻る。#マイ鎮特別編

2016-07-25 00:14:22
orphe @orphechin

「ガイしュウ、シンパイ…いいいいいらなィワ」言葉と同時に、天狗面の表皮に血管が盛り上がる。それは彼の衣を引き裂き、何十もの鞭となって彼の全身を守る。「ゴコウセンナンカ…こら加賀、きちんと連携しろ…シチめんちょゥですって…うふ、フーフ、フゥ」血管が烈風を襲う。#マイ鎮特別編

2016-07-25 00:14:40
orphe @orphechin

撤退、隼鷹がそう言う間もなく、天狗面から打ち出された血管は烈風を一つ残らず叩き落とし、彼の体へと戻る。引き裂かれたはずの彼の軍服は、何事もなかったかのように元の姿を取り戻した。そして天狗面は提督たちに背を向け、何もない空を地面のように蹴り、去っていこうとする。#マイ鎮特別編

2016-07-25 00:14:57
orphe @orphechin

烈風を失った隼鷹が崩れる。烈風の妖精と彼女の意識はリンクしており、一斉にそれが破壊された事で、彼女に大きな負担を負わせたのだ。 <ナイジェル>と愛宕が隼鷹に近寄り彼女を介抱する。「畜生、しっかりしろ」 残る羽黒とマイアミ提督の2人が、天狗面を追う事となった。 #マイ鎮特別編

2016-07-25 00:15:17
orphe @orphechin

「ごっはんーゴハン…ユうダチったら、メシはまだ早いぞ。まずは鎮守府に帰るんだ。用事を済ませねばな。テイトクさん、ゴヨォォォ…ジハなァニ?」狂った自問自答を繰り返し、虚空をスキップで駆ける天狗面の男。羽黒はマイアミ提督の手を掴みながら、猛烈なスピードで路地を駆ける。#マイ鎮特別編

2016-07-25 00:16:00
orphe @orphechin

「羽黒、もすこしスピードダウン」 「ごめんなさい。無理です、司令官さん」 「ああクソ!」 艦娘並みの速度で駆ける天狗面を追うには、羽黒も全力を出さなければいけない。それは提督にもわかっていたが、それでも彼女たちの早さに合わせるのはかなり無理があった。#マイ鎮特別編

2016-07-25 00:16:32
orphe @orphechin

羽黒が路地を出ると、目の前に綺羅びやかな景色が広がった。原色のネオンを身にまとったインドの神々の神輿が、大通りを練り歩き、それに付き従う人々が、神の通る道に花びらを撒いている。夜闇に待った白の花びらは、空中で神々のネオン光に照らされ自在にその色を変えていく。 #マイ鎮特別編

2016-07-25 00:16:54
orphe @orphechin

「きれい」 ふと、羽黒の口から意図せず言葉が出た。「ね、司令官さん…」だが羽黒の話しかける相手は、追撃途中にて精魂尽き果て、後は羽黒に引きずられるままであった。そして今や彼は哀れなボロ雑巾となっており、羽黒に答える気力も体力も時の彼方へと消え去っていた。 #マイ鎮特別編

2016-07-25 00:17:24
orphe @orphechin

きれい、じゃなかった。どうしよう……司令官さん。 正気に戻り、羽黒は周囲を見渡す。原色に彩られた祭りの熱狂と多幸感は、まるで路地裏での惨劇など起こらなかったといわんばかりに、空間を満たしていた。 早くみつけないと。焦る羽黒の耳に、男たちの驚きの声が届いた。 #マイ鎮特別編

2016-07-25 00:18:21
orphe @orphechin

「あれは…妖精じゃないか?」 「いや違う、あれはきっと神様だ!」 「あの魁偉、シヴァのご顕現だ!」 男たちが熱心に花びらを宙に投げる。 その先には、神輿の上に屹立する1人の男。両手には2人の生贄。ネオンの光に変色する花びらが、神に擬せられた彼を飾り立てる。 #マイ鎮特別編

2016-07-25 00:19:14
orphe @orphechin

彼は羽黒の姿を認めると、深々と一礼する。「あんた、神様に目をかけてもらったんだな!きっといいことあるぜ!」羽黒の隣を歩いていた子供連れの男が、彼女にお祝いの言葉をかける。天狗面の男は礼を終えると、花びらをまとわせたまま、天高く飛び上がり、月に己の姿を刻み、消えた。#マイ鎮特別編

2016-07-25 00:19:31
orphe @orphechin

天狗面がいずこかへと消えるのを確認すると、羽黒は腰をおろし、提督の体を抱きかかえる。「司令官さん、ごめんなさい…」真っ白な灰になりかけていた提督は、羽黒の言葉で現世に引き戻される。 「気にするな…そう泣きそうな顔すんな…ところで奴は」 「逃げられました」「そうか」 #マイ鎮特別編

2016-07-25 00:20:21
orphe @orphechin

「一旦ホテルに戻るぞ、羽黒」 「ええ。でも…」 「でも、なんだ?」 「もう少しだけ、見ていてはダメでしょうか」 羽黒が祭りの景色に目をやる。 「このお祭り、とても綺麗なんです」 しょうがない、そういいたげに提督は頭を掻く。 「ああ、確かに綺麗だ」 #マイ鎮特別編

2016-07-25 00:20:43
orphe @orphechin

ペナンの夜空を、祭りの光が眩く照らしていた。 (つづく) #マイ鎮特別編

2016-07-25 00:21:01
orphe @orphechin

今日はここまで。二年前の作品でしたが、いかがでしょうか。 初めての人は、このままお楽しみいただければ幸い。 二回目以降の人は、微妙にリファインされた違いを楽しんでもらえれば何より。 随時更新していきます。では次回までごきげんよう。 #マイ鎮特別編

2016-07-25 00:22:34
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