オカルト探偵あきつ丸 -女王殿下の揚陸艦-
その工事を一週間ほど中断させ、その間に突貫工事でど真ん中に神殿を建てる。神殿は小規模で簡素なものとはいえ、どこにでもある建材を使うわけにはいかず、職工も熟練の宮大工が求められる。そしてその情報統制も必須だ。#落ちぬい二次
2016-07-26 22:51:11それを可能にするほどの絶大な資金力、コネ、情報力を全て備えた者は軍広しと言えどこの男の他にはない。 「承りましょう」 鷲塚は次の休日に食事をする口約束の様にあきつ丸の依頼を受諾した。次の帝となる女王については何も訊かずにである。#落ちぬい二次
2016-07-26 22:53:39それだけこの国は追い詰められているのだ。今や九州と四国は陸棲型の深海棲艦に占領され、海路はほとんど遮断された。南西方面から本州に疎開した人々は住居も職も失い、政府はその支援に莫大な負担を強いられている。#落ちぬい二次
2016-07-26 22:56:10そのうえ北ではロシアが南進のための軍備を進めている。艦娘ではなく陸軍と揚陸艦を整備しながらもずけずけと日本を救援するためだと言って抜けるあたり、さすがは大帝とあだ名されるだけはある。#落ちぬい二次
2016-07-26 22:56:24だから、帝の霊力で艦娘が強化されるなら、どんな危ない橋でも渡る。いや、渡らねばならない。鷲塚をしてそこまで決意させるほど戦況は逼迫しているのである。#落ちぬい二次
2016-07-26 22:57:46あきつ丸は頷いて宮内庁から探り出した即位の礼の日取りを伝えた。それに間に合わせるのは鷲塚の役目だ。 話を終えたあきつ丸が応接室を出ると、ドアの横に翔鶴が控えていた。 「ご亭主を長々と借りて申し訳なかったでありますな」 「いえ。お話はもうお済みですか?」#落ちぬい二次
2016-07-26 22:58:46「お蔭さまで。本日はこれで失礼するであります」 そこでふと思い出したという感じで、あきつ丸は言う。 「翔鶴どの、陸軍として一つ助言するであります」 「はい、何でしょう?」 翔鶴の太腿を指さす。短いスカートに包まれたそこには特に何も見当たらない。#落ちぬい二次
2016-07-26 23:00:38「レッグホルスターはやめたほうがよろしい。走るだけで銃が暴れて取り回しが悪い」 翔鶴は鷲塚が依頼を拒否した場合、あきつ丸は鷲塚を殺すつもりであることを見抜いていたのだ。そしてその場合、翔鶴が自分を殺しにくるだろうという事を、あきつ丸もまた見抜いていた。#落ちぬい二次
2016-07-26 23:02:03「旦那想いの奥方を持って、鷲塚どのは幸せでありますな」 にや、と笑みを浮かべて去るあきつ丸を、翔鶴はスカート越しに銃把に手を添えながら見送ったのだった。#落ちぬい二次
2016-07-26 23:04:06鷲塚の協力を取り付けた数日後、あきつ丸は横須賀に所在する別の鎮守府を訪れていた。こちらには大きな訓練用プールはないが、鎮守府の規模からするとかなり大掛かりな工廠が設けられていた。#落ちぬい二次
2016-07-26 23:05:43ここの応接室は鷲塚鎮守府とは違い、使い古しの官給品しかない一般的な――別の言い方をすれば粗末なものだった。茶も安い緑茶だ。が、あきつ丸の目の前にいる男は鷲塚と同じか、それ以上の猛者である……はずだ。#落ちぬい二次
2016-07-26 23:07:33「兵頭大佐。評判はかねがね伺っております。精鋭水雷戦隊を率いる勇猛な艦隊司令だとか」 「で、憲兵様がしがない“艦隊司令”に何の御用で?」#落ちぬい二次
2016-07-26 23:09:45実にしみったれた、女の腐ったような態度である。長い前髪と年の割に若い顔立ちのせいで、思い通りにいかない餓鬼が拗ねている様に見える。勤務評定によれば局地的な戦闘では勝利を挙げてはいるが、戦術的・戦略的には連戦連敗ですっかり不貞腐れているとの事だ。#落ちぬい二次
2016-07-26 23:11:00兵頭は鼻を鳴らし、艦隊司令、と強調して言った。かつてそれは何隻もの護衛艦を率いる名誉と責任を双肩に負う立場だった。しかし今は護衛艦はちっぽけな装備を背負った小娘であり、艦隊司令は言ってしまえば数名の小娘の上官でしかない。#落ちぬい二次
2016-07-26 23:13:16深海棲艦が出現する前に海上自衛隊に入り、当時最新最強のイージス護衛艦に乗り組んでいた兵頭からしたら、その名誉ある『艦隊司令』という立場は随分と落ちぶれたものに感じられるのだろう。#落ちぬい二次
2016-07-26 23:14:22「その前に、人払いを願えませんか」 若干の軽蔑を内心に隠し、言う。 「この長門が邪魔だと言うのか?」 秘書艦でもないのに勝手に着いてきて横柄にソファに腰かけている艦娘が、これまた横柄に言い放つ。相手が憲兵であろうとその態度を崩さない彼女は、長門という。#落ちぬい二次
2016-07-26 23:15:43「……まあ、よいでしょう」 長門は兵頭の愛人であり、戦友であり、最初期の艦娘の生き残りだ。そして『後援会』と称する軍団の中心人物でもある。深海棲艦を打ち破れるなら、ある程度は手段を択ばないだろう。#落ちぬい二次
2016-07-26 23:17:15あきつ丸は意を決し、皇位を東宮ではなく隠棲していた女王に継がせる計画を二人に伝えた。 「そりゃあ、日本人として一番やっちゃいけねえ事じゃねえのか」 「皇位を継がれる女王殿下は紛れもない皇統の男系子孫であります。本質的には何も問題ないであります」#落ちぬい二次
2016-07-26 23:18:19あー、とよくわからない声を上げて左手で頭をかきむしる。その拍子に、のっぺらぼうの右眼がちらりと見えた。 それを見かねた長門が兵頭の足を踏みつけて言った。 「司令、言いたいことははっきり言え。お前の単純な頭じゃこの憲兵殿にはどう足掻いたって勝てるわけないだろう」#落ちぬい二次
2016-07-26 23:20:50「……わあったよ。訊きたいのは一つだ」 「答えられる事なら何でも答えましょう」 ぬるくなった茶を一息に飲み干し、あきつ丸を睨みつける。#落ちぬい二次
2016-07-26 23:22:14「それをやれば、勝てるんだな?」 「勝てるであります。少なくともこの鎮守府の戦力だけでも敵に一撃を加え、島の一つ二つを取り戻す事は出来る様になりましょう」 兵頭は長門にちらりと目をやり、またあきつ丸を見て言った。#落ちぬい二次
2016-07-26 23:24:26「受けた。そんで、俺の役は?」 「まずは情報の遮断であります。大佐殿はアウターヘブンとのパイプをお持ちでしたな?」 「ああ」 「そこにこの計画が流れぬようにして欲しいであります」#落ちぬい二次
2016-07-26 23:26:29アウターヘブンは日本軍に属す最強の艦隊でありながら、半ば日本軍を離反している独立愚連隊のようなものだ。それを率いる龍田は怜悧冷徹であるが、本質はどこまでも狂人である。女王即位を聞きつけたら何をしでかすかわかったものではない。#落ちぬい二次
2016-07-26 23:28:02「つってもな。俺の方じゃ限界がある。あいつの情報網は半端じゃねえ」 「内部は自分が監視しているであります。兵頭どのと長門どのは塞げるところを塞いでいただければよろしい」#落ちぬい二次
2016-07-26 23:29:23多少なら漏れても構わない。完全に遮断するのではなく、龍田が即位の礼に要らぬちょっかいを掛けられぬように情報の漏出を遅らせるだけでも充分なのだ。 「わかった。長門、お前も協力しろよ」 「久々に生き返った司令の頼みなら、仕方がないな」#落ちぬい二次
2016-07-26 23:30:57