- S_Wakame_S
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0-1 「おはよう提督。今日もいい天気だよ。 ……毎日している挨拶だけれど、やはり今でも気恥ずかしさがあるね。『浜風、着任しました』。……やはりこっちのがしっくりきますね。って、このやり取りも半年続いていますね。ふふっ」
2016-08-02 21:00:220-2 「では、いつもの定時報告から。 昨日哨戒任務に当たっていた部隊から報告にあった、敵索敵部隊と思わしき深海棲艦の小隊は本日明朝、神通さん率いる水雷戦隊により一隻残らず撃破したとのこと。神通さんも改ニに改修されたばかりで、かなり調子が良いそうですよ」
2016-08-02 21:00:410-3 「しかし、提督の読み通りでしたね。深海棲艦の出現頻度が、確実に、少しずつですが上がってきているように見受けられます。提督の仰られていた、いずれ来る大規模作戦も、今なら現実味を帯びてきているように思えます」
2016-08-02 21:00:520-4 「今だから言える話ですけど、深海棲艦の入念な大規模作戦の準備の予兆があると提督が仰った時、この人は何を言ってるんだろうと思ったものです。 それが、実際に提督の読みの通りのアクションに変化してゆくのですから、もう認めるしかないと思いませんか?」
2016-08-02 21:01:160-5 「そんな妄想じゃあるまいし…と思っても、これまでに何度提督のことを疑っても、まるで提督が深海棲艦の指揮をしているかのように、提督の予想した通りになるのですから」
2016-08-02 21:01:380-6 「いや、提督を疑っているだなんてそんな。提督が深海棲艦と繋がりを持っているなんて少しも思っていませんよ!……なんてね。 私は、今も、提督のことを全く疑っていませんよ」
2016-08-02 21:01:500-7 「しかし、提督も察しておられるのではないですか?当基地の、この日和っぷりを。深海棲艦による大規模作戦の話なんて夢物語のようで……。秘書官である私しか知らないことなので無理もないのですが、今私が声を大にしたところで、この日和った雰囲気を変えることは叶わないでしょうし」
2016-08-02 21:02:070-8 「これでも頑張った方だったのですよ?でも誰も、提督の予見した、深海棲艦による大規模作戦なんて意に返さないご様子でした。それに、今の私の言葉は、誰にも届かないですから……」
2016-08-02 21:02:200-9 「明朝に出撃した神通さんら水雷戦隊の皆さん、帰投の時に、今日も敵を追い払ったって、笑顔でした。提督の予見通りなら、ここ数ヶ月の出撃頻度と相手の妙な戦力の弱さは、大規模作戦までの繋ぎであり、様子見のはずなんです。こんなことで笑顔になれるなんて……」
2016-08-02 21:03:040-10 「……すみません、なんでもないです、失言でした。これでも、提督の前では笑おうと決めていたのに。それに、先入観と固定観念は妨げになるって、提督のお言葉ですよね。これでも忘れないようにと努力しているんですよ?褒めてください」
2016-08-02 21:03:200-12 「提督。実は今日、お話があるんです。 私、提督とこうしてお会いするのが最後のようです。 辞令が出たのです。基地異動の」
2016-08-02 21:04:450-13 「何で…、って思いますよね。私だって不服ですよ。 でも、もう決定されたことなので、素直に従うしかありません。 辛いですよね、私もとっても悔しいです。悲しいですよね、私も昨夜いっぱい泣きました」
2016-08-02 21:05:060-14 「私、今でも昨日のことのように覚えています。提督がケッコンカッコカリを、私としてくださったこと。艦娘として、艦隊旗艦として、秘書艦として大切に扱ってくれたこと。昨日もこうして、任務の前に提督とお話ししましたね。提督とのたくさんの想いを胸に、私は『艦』として全うします」
2016-08-02 21:05:230-15 「……提督はお優しいですね。いつも、私の頭をこうして撫でてくれました。いつも無口なくせに、本当に必要な時、ほしいなと思ったときに、手を差し伸べてくれます。 提督、大好きです。今も、昔も、変わらず貴方を慕っております」
2016-08-02 21:05:350-18 そして私は、提督の墓標に背を向ける。 提督の手のように私を撫でてくれる潮風が私を見送ってくれているみたいで、歩きながら、私は涙が零れないように上を見上げて歩くのであった。
2016-08-02 21:06:02