フォビドゥンフォレスト・1話中編

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フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

部屋には天井まで届く金属ラックが3つあり、そこのカゴの中にクワガタ達がいる。大きいカゴは1個辺り幅1m、奥行きや高さは50cm以上ありラックの1段が一杯になる。その中に10匹前後づつ住んでる。それと別によくある小さいカゴが10個くらいある。そっちは多くて2・3匹づつだ。 58

2016-08-07 23:13:10
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この部屋のやつは冬眠したがらない連中で、幼虫を入れて大体80匹ちょい、奥の冬眠部屋と合わせると200近くいる筈だ。春から秋に掛けてはエサ代が馬鹿になんねぇ、と思われるそうだが、暖房代の掛かる冬場のほうがやべぇ。かと言ってあんまり冬眠して貰っても困るのが難しい。 59

2016-08-07 23:20:00
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「おい、野郎ども食事だぞ」 俺が呼びかけると、クワガタ達が動き出す。カゴの横についてる扉にハシゴでよじ登り、扉から垂れ下がる輪っかをハサミで挟み込む。体重をかけて引っ張ると、内側から扉が開く仕組みだ。その間に俺はいくつかある小型金属ラックの一つから、昆虫ゼリーを取り出す。 59

2016-08-07 23:26:19
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俺がゼリーのケースを開けた途端、音か臭いに気付いてか、何匹かハサミをカチカチと打ち鳴らす。ブーイングのつもりだろう。お前らはスズメバチか。 「しゃあねぇだろう。時間ねぇんだから勘弁しろい」 今朝剥いてやったりんごの食べかすを片付けながら、ゼリーを入れていく。60

2016-08-07 23:35:20
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コイツラの餌にも色々あるが、グレード的には安物のゼリー<フルーツ<高級ゼリーってとこだ。これをだいだい等間隔でくれてやる。ゼリーつっても所詮は虫が食う分だし、大した額じゃあねぇが高級品ばっかだと飽きが来るらしいので節約も兼ねて安物も混ぜる。フルーツは加工すんのが面倒い。61

2016-08-07 23:40:18
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餌を替えてると、緑色のコルリが飛んできて頭に乗った。察しの良い奴だ。 「ああ、そうだ。出動だぜ。敵の種類が分かんねぇから取り敢えずエイジとタカシの隊は来い」 この頭に乗った奴は、緑野鋭児。書くとき人間と紛らわしいからカタカナで統一するが、一応成虫は全員名前がついてる。 62

2016-08-07 23:44:39
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俺の指示を聞いて飛んできたのはルリクワガタの青木高志。コイツがタカシだ。差し出した俺の右手に乗った。コルリ共々小さくて見た目は頼りねぇが、タカシは飛ぶのが早く、エイジは感覚が鋭い。森での探索で特に役に立つ奴らだ。似た特徴の連中の指揮を任せている。 「頼むぞ」 63

2016-08-07 23:50:57
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タカシはハサミを交差させて反り返る。人間で言えば頷いた感じだ。ああそうだ。言い忘れたが、俺はクワガタと話せる。いやマジだって。一般人が犬猫とコミュニケーションを取るのと似た感覚だ。まあコイツラが普通のクワガタとは言い難いのも確かだ。半分妖怪じゃねぇのかという説もある。 64

2016-08-07 23:56:31
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実際、4・5年以上成虫で生きている連中もいるし、明らかに風科の森の影響はあるんだろうが、少なくとも外見は普通のクワガタと差異はねぇ。たまにデケェのや変わった色のはいるが。そもそも俺は他所のクワガタや他の昆虫ともある程度は話せる。単に風科のクワガタが一番相性が良いだけだ。 65

2016-08-08 00:04:13
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ま、コイツラが妖怪だろうがなんだろうが関係ねぇ。人間と同じ大事な気のいい仲間達だ。 「後20分だ。出撃する連中は早めに食っといてくれ。タカシ達以外も何匹か来てもいいぞ」 俺は壁の時計の針を示す。コイツラに数字や時間の概念は分かりづらいが、こうすることで多少は伝わるようだ。 66

2016-08-08 00:08:32
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「ん、なんだエイジ…いて」 跳ねるような飛び方で、俺の頭から顎に移ってきた。そして俺の口を叩きやがった。 「え、『俺達には安物のゼリーで、自分はなんか食ってきたな。それで時間がないだと』って?」 肉まんと珈琲の匂いに気づいたらしい。そう、コイツは感覚が鋭いんだ。 67

2016-08-08 00:12:07
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ハサミでカチカチと不満気な様子を見せる。周りの連中にも伝染して、ちょっとした養蚕所みたいな煩さになった。9割くらいの奴が参加してるぞコレ。 「お前らなぁ…いいからとっとと食え!うるせぇ!間食くらい好きにさせろや!」 人間と同じ大事な気のいい仲間達…だよな…? 68

2016-08-08 00:15:33
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…俺はエイジを引き剥がし、部屋を出て右の台所に行き、湯を沸かした。ここからは10分あれば余裕で集合場所に着く。カップ麺に野菜とハムを混ぜて食う程度の時間はありそうだ。何が最後の晩餐になるか分かんねぇし少しはマシなもんを食っておきたい。…そう考えると奴らにも悪いことをしたか。 69

2016-08-08 00:22:38
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クワガタの平均よりは長生きとはいえ、奴らは5年かそこらの命だ。いざって時は寿命の長い人間を優先するしかねぇ。だからこそ俺は代わりに連中の子供や兄弟を守り育てる契約ではあるんだけどな……。食事を終えた俺は任務用の虫カゴを点検してからクワガタ部屋に戻った。 70

2016-08-08 00:27:57
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「おい、お前ら。そろそろ行くぞ」 エイジ隊とタカシ隊、その他計20匹ほどがのそのそ歩いてきた。準備運動のように羽を動かす。 「久々の出撃になるかも知んねぇからな。無事生きて帰ったらとっておきのゼリー出してやるぞ」 60匹近いクワガタが一斉に俺に飛び付き、全身を覆った。 71

2016-08-08 00:33:21
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「ゴホッ!ガホ!…アホかこんな連れてけねぇよ!」 勢い余って俺の口に飛び込んだアホを吐き出しながら叫ぶ。 「20匹で十分だ!留守番組にもちったぁ分けてやっから残れ!」 40匹ほどの後発組がしぶしぶと俺の体を降りていく。いや足が痛ぇよ。飛べよ。今の急速離陸の勢いはどうした。 72

2016-08-08 00:38:04
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なんで出撃前に味方の手で、無数の珪素生物に纏わり付かれた亀怪獣の気分を体験しなきゃなんねぇんだよ全く。冬で厚着だから良かったが、夏だったら酷ぇことになるところだったぞ。全身の状態をよく確認したかったが、時間が押してきてたんで、エイジ達をカゴに入れて、そのまま基地を去った。 73

2016-08-08 00:44:38
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