フォビドゥンフォレスト・1話中編

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フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

生徒会に入ったり、アイドルを始めたり…そして、あの事件があったり…。瑠梨にとってだけじゃねぇ、風科にとっても去年はここ2・30年で一番の激動の年だった筈だ。 「だから激励とか応援の意味で、彼氏である片桐さんには…」 「待った」 とんでもねぇ勘違いは訂正しねぇと不味い。 35

2016-08-01 23:51:10
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「お前は3つ間違えてる。いいか?まず俺は彼氏じゃねぇ。アイツは今アイドルもやってんだから滅多なこと言うんじゃねぇ。迷惑かけてぇのか」 「人前ではそういうことにしとけってことですよね。大丈夫です。もう皆いませんし」 確かに、話し込んでる間にガキ共が帰ってもう俺ら4人だけだ。 36

2016-08-01 23:59:51
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…ある意味丁度良い。 「そこで2つ目。瑠梨を好きだっつうお前だから特別に聞かせてやる。ただし口外したらガチで殺す」 「はい」 「いや本当だぞ。森の奥で縛って置いてくからな」 「はい」 精一杯怖ぇ顔を作ったつもりだが、微塵も動揺せずに返事をしやがった。自信なくすぜ。 37

2016-08-02 00:03:54
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「アイツには好きな人がいる。繰り返すが俺じゃねぇぞ」 「…僕ですか?」 「おい」 なんだこの無駄なウィット。 「冗談です。北里さんには片桐さんがいますから」 「お前、耳大丈夫か…?それとも頭か…?」 「片桐さんこそ大丈夫ですか…?昆虫ゼリーの食べ過ぎで知能が低下したのでは?」38

2016-08-02 00:11:31
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「舐めてんのかこの糞ガキ…」 「そう言われましても、あんなに愛されてるのが分からないなんて…」 「昆虫ゼリーを馬鹿にすんな!!!」 「え?そっち?」 確かに質はピンキリだが、少なくとも昆虫を不健康にしてやろうとして作ってるメーカーは無ぇ筈だ。それを悪ぃもんみたいに…。 39

2016-08-02 00:16:42
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…いや待てそんな話はしてねぇ筈だった。なんだっけ。ああ瑠梨の好きな人とコイツの3つの間違いの話だったわ。 「…もう良いや。キリがねぇからお前の言うように…なんだ瑠梨が俺を好きって体で3つ目のこと言うわ。いいか?」 「『てい』じゃないんですけどね…どうぞ」 40

2016-08-02 00:21:16
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「別に瑠梨に好きな奴がいたって、プレゼント贈っても良いだろ。結婚してる訳じゃあるまいし」 「それは…でも迷惑に…」 ちょっとは見どころのあるやつかと思えばくだらねぇことでウジウジと…。俺はガキの頭を両手で掴んで髪をワシャワシャとやった。 41

2016-08-02 00:25:49
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「何するんですか!」 「ガキがくだらねぇことでごちゃごちゃ言うな!やりたいようにやって伝えたいように伝えりゃそれで良いんだよ!」 コイツの歳なら既婚者にプロポーズしたってギリ怒られねぇくらいなのに、難しく考え過ぎなんだよ、全く。 「でも!気持ちを押し付けても迷惑に!」 42

2016-08-02 00:32:39
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「…良いか?」 ちょっと声がでかくなったので改めてボリュームを抑え、顔を近づける。 「ちょっと気持ち押し付けられた程度で、どうにかなるほど瑠梨は弱かねぇよ。背負ってるもんが俺らと違うんだ。鳥姫の巫女様舐めんな」 「……」 「それにな、死んだら終わりだぞ」 「え?」 43

2016-08-02 00:36:13
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眼鏡の両肩に手を乗せて続ける。 「お前、明日の今頃自分が生きてると思うか?」 眼鏡が生唾を飲み込む。頭の回転の早そうなコイツだ。もう言いたいことは察したろうが、俺は続けた。 「今日、事故なんかで死んだ奴は昨日そう思ってた筈だ。いや考えてもなかった奴が殆どだろうな」 44

2016-08-02 00:45:04
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「俺だってそうだ。今日うっかりくたばるかも知れねぇ。……瑠梨だって万一ってことがある。だから…」 「痛っ」 「悪ぃ。大丈夫か」 いつの間にか肩に力を込め過ぎていたらしい。 「…はい。それと、その…片桐さんの言いたいことは分かりました。でも…どうしたら良いのかすぐには…」 45

2016-08-02 00:51:02
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「わぁってるよ。俺はとにかく瑠梨に万一がねぇように見ててやっから、焦らねぇで考えとけよ」 俺は手を離し、立ち上がろうとしたが止められた。 「あの…気をつけて行ってきてください」 「お前的には俺がくたばったほうが都合よくねぇか?」 「いえ、北里さんには片桐さんがいますから…」46

2016-08-02 00:55:56
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もう6時近い。確かにやべぇな。急ぐか。 「じゃあ悪ぃばーちゃん。長居しちまって」 「そう思うんなら、今度また対戦つき合いな」 「おう」 「ついでに菓子でも買うんだよ」 「ちゃっかりしてやがるぜ…」 「じゃあ、また来ますね」 俺達は店を出た。48

2016-08-02 01:08:08
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「ねぇはる君」 「なんだ」 神社のほうへ2・3分歩いたところで瑠梨が不意に話しかけてきた。 「さっきのあの子、もしかして私の…」 「言うな。俺も何も言わねぇ」 「…ごめん」 お互いそれを言ったところでどうもならねぇ。後はアイツの勝手だ。 49

2016-08-02 01:17:33
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「…ついでだから聞いとくか。お前今年は何が欲しい?」 「あ、誕生日の?どうしよう。お洒落用の簪(かんざし)ならいくらあっても困らないけど…でも結構持ってるしなぁ」 あの眼鏡には本人に聞けと言ったが、実際、瑠梨はアレが欲しいコレが欲しいとか言うタイプじゃねぇんだよな。 50

2016-08-02 01:22:20
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無難なのが簪だが、誕生日以外も合わせると今まで10本は贈った気がする。手入れ用の関連用品も入れると更に5・6個増える。かと言って服なんかも結構貰う機会が多いし、ヘタに贈ると邪魔になりかねねぇ。もしかして要らねぇものをきいて消去法で詰めてったほうが早いんじゃねぇか? 51

2016-08-02 01:28:46
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「うーん。形に残るものじゃなくて、記憶に残るもの、とかどうかなぁ?ダメ?」 「どっか出掛けたり、とかはスケジュール厳しいか?」 「誕生日は空けてもらってるけど、今はお仕事以外で遠出はしたくないかなぁ」 だよな。プレゼントで疲れさせちゃ元も子もねぇし、他の奴はどうすんだ。52

2016-08-02 01:29:01
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「じゃあなんか食い物とか…特大アイスとかどうだ?」 「…え、本当!?」 瑠梨の目が輝いた。 「いや冗談だったんだが…」 目がどんよりと曇っていく。 「まあ…候補の一つとして前向きに検討させて頂きます」 再び輝きだした。まぶしい。めっちゃまぶしい。 53

2016-08-02 01:40:10
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中編2・終わり:中編3に続く 次回は水~木曜を予定しています

2016-08-02 01:40:47
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神社の階段下で瑠梨と別れた俺は、西へ行き、森の中に入った。つってもまだ仕事じゃねぇ。仲間のクワガタ達への飯やりだ。本来なら朝の日課だが、来れそうもねぇ時は夜に来とくんだ。20cmばかし雪の降り積もった道を長靴で踏みしめて歩く。週末にざっと除雪したおかげでまだ歩きやすい方だ。 54

2016-08-07 22:24:47
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3分ほど歩くと青い鉄柵に囲まれた洞窟が見えてくる。俺の秘密…でもねぇが基地みたいなもんだ。3mの鉄柵の1つ、扉の部分を開ける。洞窟の入口、両側開きの鉄扉も開けて中に入る。数年前まで昆虫学者の爺さんが使っていた飼育所だ。爺さんが引き払うに当たって、手伝いをしてた俺が譲り受けた。55

2016-08-07 22:32:14
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最初はクワガタ達だけの住処だったが、今じゃ俺も週の半分はここで寝泊まりする身だ。元々、爺さんも泊まることが多かったから設備はそのまま使えた。そこへ更に僚勇会や町のおっさん達に要らねぇ家具やら食器を貰ったり、太陽光と水力を付けて貰ったりしたんで大分助かってる。 56

2016-08-07 22:40:19
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スイッチで灯りを点ける。右側の俺の居住エリアに荷物を放り込んで、正面の部屋へ直進した。俺も腹は減ってるが、時間が無きゃ最悪レーションでも食やぁいい。アイツらはそうもいかねぇから俺は後回しだ。扉を開けて中に入ると、軽く暖気された空気が暖かい。コートを入り口に掛ける。57

2016-08-07 23:00:04