第11話 「監獄島に渦巻く謀略」

脳内妄想艦これSS 独自設定要注意
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白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

__ 第11話「監獄島に渦巻く謀略」__

2016-08-22 17:14:57
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11-1 風見が扶桑のところへ向かうと言って執務室を出た直後。 大淀は読んでいた本をそっと閉じ、風見がある程度遠のくのを待つ。そして、徐に立ち上がると気配を殺して執務室の扉を開き、風見に気取られぬように彼の後を追った。 …これが初めての尾行という訳では無い。もう何度目になるか。

2016-08-22 17:16:01
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11-2「(…前回は1階に降りた。今日はここで右)」 曲がり角を利用して自分の姿が彼に見えないように気配を追う、追う。 尾行の度、何故か毎回彼の進路は変わる。 …不自然なのは進路だけではない。次の角に張り付き、大淀は目を閉じて風見の足音に集中する。

2016-08-22 17:16:47
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1, 2, 3, 4歩。そこで足音は止まり、小さな、しかし重い物音。そして、静寂。

2016-08-22 17:17:18
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11-3 …注意深く顔を覗かせ様子を伺うと、風見の姿はその廊下で忽然と消えていた。 「…」 大淀はできるだけ物音を立てないように注力しつつ、風見が消えたと思われる辺りを見回す。何の変哲も無いように見える洋館風の廊下だ。壁際には調度品が並ぶ。

2016-08-22 17:17:35
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11-4 花瓶、キャビネット、絵画…並んでいる物を順々に軽く触れていくが、これらに不自然なところは無いように思える。 …一通り物を調べると、次に大淀はキャビネット脇の壁を手際よく指で撫でていく。ここ最近いつも試しているように。 そして程なく、指の腹に「壁の切れ目」を感じ取る。

2016-08-22 17:18:38
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11-5「ここもそうなの…」大淀は小さく呟く。 風見が理由をつけては席を外し、『目的地では無い場所』で姿を晦ましている事に気が付いたのはかなり前。 初めは些細な興味で後を追って、突然彼を見失った事からだった。 …とうに彼も気付いているのだろう。今や警戒をかなり強められている。

2016-08-22 17:19:17
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11-6 風見は明らかに裏で何かを進めている。壁一枚を隔てて向こう…この建物に何故か存在する隠された空間と通路のその奥で。 そして、残念ながらその間の壁一枚は開けるために特別な手法を要するようで、彼女が裏側に立ち入るのを常に拒み続ける。 「…」 大淀は壁からゆっくりと手を離す。

2016-08-22 17:22:13
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11-7 彼が大淀にその秘密を明かすつもりが無いのは明らかだ…と言うのも、恐らく彼は彼女がどういった理由でここに居るのかとっくに知っている。 だが、誓って、大淀は風見の邪魔をするつもりでは無かった。 ただ、この島で過去に酷い仕打ちを受けた彼が無茶な事をしていないかが心配なだけ。

2016-08-22 17:22:53
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11-8「(でも、そんなの信じてもらえないよね)」 自嘲気味に短く嘆息すると、大淀は追跡を諦めてその場で大きく伸びをする。 …なにしろ体を動かす機会の少ない場所だ。読書ばかりでまた少し鈍ってしまったように思う。体の芯が重たそうにポキポキと音を立てた 「…今回も内容はいつもと同じ」

2016-08-22 17:23:56
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11-9「報告は『特記事項無し』、ね」

2016-08-22 17:24:10
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11-10「…数日でこれをやってのけるのには驚かされるな」 風見が手にした小瓶を軽く振ると、中身が瓶にぶつかって『カラン』と軽い音を立てる。 「今はここに来た当初のように、環境が整っていない状態という訳でもありませんし…いい加減慣れましたよ。あと、あまり強く振ったらダメですよ」

2016-08-22 17:25:30
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11-11 隠し扉を通り、暗い階段を通った先の小部屋。 棚を埋め尽くす雑多なガラスの瓶、壁と床は一面文字と数字で埋め尽くされた紙が覆う。 …全てではないが、紙には写真も添えられており、その中には『鳶』の4人のものもある。 唯一、扶桑の前の机の上のスペースが空間らしい空間と言えた。

2016-08-22 17:25:52
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11-12「探知機のほうは?」 「明石さんに進めてもらっています」 即答である。これもまた何度も繰り返されたやり取りなのだ。 「毎度恐れ入るね…それにしても、最初に仮説を聞いた時は驚いたぞ」 風見は瓶を扶桑の机に戻す。 その瓶の中身は、奇妙な色合いをした波目模様の塊。

2016-08-22 17:26:27
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11-13「綾香ちゃんと大智君、照海さんの艦娘化時の傾向と、綾香ちゃんの拾った石の特徴を聞けばこれしか無いと思ったまでです」 扶桑は壁に貼った紙の内の一枚に視線を送る。 この紙だけは周りと比べてサイズが大きく、また字よりも線画が中心となっている。 大型機械の設計図のようだ。

2016-08-22 17:26:56
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11-14「大本営のバカ共も危険なラインにまで手を伸ばしたものだ…それだけ戦力が足りないか、或いは資源が無くなってきているかのどちらかと言う事だが」 扶桑同様、風見の目線も設計図の一点に集中する。 図上の機械には五つのブロックが存在しており、それぞれ一点に赤で丸がつけられている。

2016-08-22 17:27:50
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11-15「だが、餌としては格別だ。今動いてくれさえすれば、一番心易いかもしれないな…」 「提督、それからもう一つ。これを」 扶桑は机の上に並んでいる小型の試験管の中から一本を選び取ると、中身が風見に見えるように掲げる。 栓で封をされた試験管の中身は、赤黒い血のような液体。

2016-08-22 17:28:51
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11-16「!おいおい、まさか艦娘の血か?何故こんな物を…」 驚きの表情を浮かべて液体を食い入るように見つめる風見の前で、扶桑はちっちっ、と人差し指を振る。 「似て非なる物ですわ、提督。こちらは石を作った際の理論を基に作ってみた副産物。強いて言うなら中和剤のようなものです」

2016-08-22 17:29:15
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11-17「中和剤?」 机の上の元あった位置に戻される試験管の中身を、訝し気に目で追う風見。 「はい。第肆型の影響を受けてから艦娘化が発生するまでに投与する事で、 『削除プロセス』を阻止する事が出来るはずです」 「それは、艦娘化を防ぐ事が可能であると…そういう意味か?」

2016-08-22 17:29:48
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11-18 この風見の問いには扶桑は首を横に振って答える。 「残念ながら。阻止した場合は…恐らく、綾香ちゃん達と同等の状態になるのではないかと想定しています」 …ゴールはまだ遠い。扶桑のトーンがそう告げていた。 「そうか…いや、今後まだ第肆型がここに送られることを考えれば…」

2016-08-22 17:33:52
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11-19 気を取り直したように前髪を掻き上げると、風見は部屋の出口へ足を向ける。今日はこれで十分だ、という風見の無言の合図である。 「…部屋を出る時には大淀に気を付けてくれ。次回ここに来る際にはA-4番の入り口を使おうと思う…時程はその時に伝える。ロックの解除は任せるぞ」

2016-08-22 17:34:06