「ワン・ランナー、ワン・ペデストリアン」

一人の少女はただ走った。その先にある未来を求めて。 一人の少女はただ歩む。今をしっかりと生きるために。 風見SSシリーズとのコラボ作品!
0

インターミッション

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「全く…面倒の極みのような奴が迷い込んできたな…」…ここは様々な「世界」の飛び交う空間。ここに『ある』のはそれら世界以外にはわたしと、そして語り手、ヴァヴァのみだ。だが、今回はいつもと違った。あの飄々としたヴァヴァが苛立たしげに頭を掻き毟り、何かを睨み付けているのだ。

2016-08-06 21:02:56
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「聞いてないぞ…この世界にもあれが来ているとは…」わたしは彼が膨らませた世界を覗き込んだ。泡めいて透明な世界の片隅に、瑠璃色に輝く一際目立つ光点があった。彼はいつものように私の発言を求めず、さりとて警告するかのように言葉を綴る。

2016-08-06 21:04:52
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「いつの世にもいるわけだよ。世界の枠を逸脱する奴と言うのがね。そういう奴ほど、何故世界が区切られているのか、その重要性を全くもって理解していない。己が与える影響に一切の責任を持たないのさ。迷惑千万この上なしだな」

2016-08-06 21:07:06
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

不快げに溜息を吐くと、ヴァヴァはまた瑠璃色の光点を見た。わたしも釣られて目を向ける。「これは…」ヴァヴァは興味深げに呟いた。瑠璃色の光点のすぐ傍、小さいが確かに輝く蒼黒の光が見えた。それは瑠璃色の光点と比べれば蜜柑と西瓜ほどの大きさの違いこそあれど、輝きでは負けず劣らずであった。

2016-08-06 21:09:34
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「これは運がいい。近しい来訪者…いや、遭難者か?まぁ、どちらでも与える影響では変わらない」ヴァヴァは幾分か機嫌を直すと、楽しげにわたしに告げた。いつもの調子で、一方的に。「喜びたまえ。風どころではなく、台風が来るぞ。大きい奴がだ」

2016-08-06 21:12:02
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「しかもいい台風だ。海を攪拌し、地に恵みを齎し、命に挑戦する風を連れてくるぞ」蒼黒の光はやがて何処からともなく現れた緑色の炎を連れて、瑠璃色の光点から離れて行った。やがて二つの炎光は、段々と大きくなっていった。

2016-08-06 21:14:33
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「さて、何が起こるか見ものだな…この台風は、若木の彼女達を根元から圧し折るか、それとも大樹へと育てるか」蒼黒と緑の炎光はやがて螺旋を描き、閃光を放った。光は視界を、ヴァヴァを、そして私を覆いつくし……

2016-08-06 21:16:47
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「……」暗い執務室で、風見提督は目を覚ました。窓の向こう側から、微かに陽が立ち上る。時計に目を向ければそろそろマルゴーマルマル。総員起こしの時間だ。「ここで寝てしまったか…」風見提督は眉間の皺を揉み解し、伸びをして立ち上がった。 1

2016-08-06 21:19:29
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

そして、陽の光を浴びるために窓際に行こうとして、ふと机の上に置いてある書類を手に取った。「そう言えば今日だったな…」風見は顔を顰め、溜息を吐いた。一通り内容に目を通すと、再び書類を机に置き、窓を開けて太陽の光を浴びた。「何事も無く終わるといいんだがな…」 2

2016-08-06 21:21:53
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

風見提督は窓枠に寄り掛かるようにして、力なくぼやいた。陽光が暗い執務室を照らし、闇を暴く。机上の書類には「緊急視察通達」「憲兵隊」と記されていた。 3

2016-08-06 21:24:10
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

風見SS・監獄島シリージコラボ「ワン・ランナー、ワン・ペデストリアン」

2016-08-06 21:25:19

#1

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

ザザーン…ザザーン…波濤を砕き、憲兵隊巡視船「オケハザマ」は海を往く。既に鹿屋を出て1時間、リカルドは甲板上で暇そうに仰向けになっていた。「全くよぉ…美濃部長官も人使いが荒いぜ…」「その通りでありますな」そんなリカルドを見下ろすように立つ黒服の少女が一人。 1

2016-08-06 21:30:49
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

その肌は白粉によって白く染められ、左腕には恐るべき書体で「憲兵隊」のショドー。リカルドは顔を顰めて、視線を横の海へと逸らした。「そこに立つなあきつ丸=サン。下着が見える」「見せてんのよ、と言ったらどうするでありますか?」「ぶん殴って魚のエサだ」 2

2016-08-06 21:30:54
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

あきつ丸はケラケラと笑い、リカルドは不快げに顔を顰めた。その光景を、艦首付近で眺める艦娘が二人。「飽きないものだな、あの憲兵殿は」若葉はタバコの紫煙を揺蕩わせ、ついにカラテ勝負に発展したリカルドとあきつ丸を見て苦笑した。 3

2016-08-06 21:33:43
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

吹雪はその光景を興味なさげに見ると、手に持った茶袋の中から塩大福を一つ取り出して、咀嚼した。その視線は船の進行方向へ、遠くに見える目的地へと。吹雪はもそもそと塩大福を齧り、咀嚼する。「旨いのか、それ」 4

2016-08-06 21:36:44
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

若葉が興味深げに塩大福へと視線を向けた。吹雪は茶袋の中からもう一つ塩大福を取り出し、若葉に手渡した。「美味しいですよ」「そうか」若葉は塩大福を半分ほど齧り、口に含んだ。もっちりとした皮の中には、小豆の粒がそのまま残った粒餡。ほんのりと塩の味が、粒餡の甘さを引き立てる。 5

2016-08-06 21:38:50
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

若葉は黙って塩大福を咀嚼し、飲み込んで言った。「旨いな」「でしょう?」吹雪はチシャ猫めいた笑みを浮かべる。珍しい表情だと若葉は思った。どうやら塩大福は余程の好物であるようだ。若葉はもう半分も咀嚼して飲み込み、満足げに息を吐いた。「漉し餡はないか?」「ありますよ」 6

2016-08-06 21:41:06
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

吹雪は茶袋の中から、漉し餡の塩大福を取り出した。「グワーッ!」リカルドに殴り飛ばされたあきつ丸が二人の元へ滑り込む。「相変わらず痛すぎるであります…あっ、吹雪殿!自分にも漉し餡をお恵みください!」「はいはい」吹雪は苦笑し、目を輝かせ立ち上がったあきつ丸に塩饅頭を手渡した。 7

2016-08-06 21:44:03
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「わーい、塩大福でありまーす!」あきつ丸は童女めいて喜び、塩大福に齧り付いた。リカルドはそのあきつ丸の顔を見て、毒気が抜かれたような顔をした。「つくづく百面相だなテメェは」リカルドは吹雪が投げ渡した塩大福を受け取り、一口でそれを食べた。「相変わらず甘いなこれ…お」 8

2016-08-06 21:48:41
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

リカルドは船の進行先に島を視認した。あきつ丸は目を細め、その島を確認する。「あれが目的地でありますな」「そうか、あれがか」若葉はタバコの吸い殻を携帯灰皿の中に捨てた。吹雪はその島を泰然と見た。牢獄めいた建造物以外には森に覆われたその島の名は…「監獄島…」 9

2016-08-06 21:51:25
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

監獄島。地図からは消された人々から忘れ去られた、とある孤島に設置された鎮守府施設の一つの通称。この地には島流しめいて流されたとある提督と数名の艦娘が暮らすばかりであった。 11

2016-08-06 21:54:26
1 ・・ 11 次へ