「ワン・ランナー、ワン・ペデストリアン」

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「そして、そういったものが敵として前に立つ時は、殺してしまう時は……せめて、覚えて、忘れず、そして祈ろうと考えました」綾波は、ただ黙ってその言葉を聞いた。吹雪の中の真なる願いと深い狂気をただ静かに聞いた。10

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((自分が素晴らしいと思ったものを、願いを、殺して、その事実を覚え続けるって…この人は一体、どれほどの修羅道を歩き続けてきたのだろうか…)) 11

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「戦って、戦って、戦って。戦い続けて。戦いを終わらせて。そのあとに、私が護ったものがどんな世界を作っていくのか。私はそれが見たいんです。私が殺してしまった者達と一緒に。来るべき未来を、世界を旅する」吹雪は綾波に振り向いた。その顔には、凪いだ海めいた静かな微笑が浮かんでいた。 12

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「これが、私の目的、夢です。だから、殺すのです。夢を踏み躙る未来を持たぬ者を、深海棲艦を」「……なんだか、すごいですね」綾波は、そう言うのが精一杯であった。 13

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目の前に立つのは、今地球全てを覆う戦争に立ち向かい、殺し、護り、出会った想い全てを抱えて駆ける、希望と呪いの麻縄で編まれた猟矢であった。文字通り、綾波とは、綾香とは次元の違う戦いに身を置くモノであった。死を連れて、死を齎し、死と共に歩む。それはまさしく、死神の所業であった。 14

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「…なんだか、柄でもない話をしてしまいましたね」吹雪はただそう言うと、踵を返した。向かうは、監獄島。綾香は咄嗟に呼び止めた。「あ、あの！」「なんでしょうか？」吹雪はきょとんとした表情で綾波を見た。綾波は一瞬口籠った。やがて、意を決し、綾香と綾波、二人分のコトダマを放った。 15

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「私は、綾波型駆逐艦一番艦・綾波で、日野原綾香です！今は艦娘で、高校生でした！」「…そうでしたか」「私達には目的があります！詳しくは言えませんが、全力で殴り飛ばしたい人たちがいます！深海棲艦の脅威から人々を守りたいです！そして、元の高校生に戻りたいです！」 16

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吹雪は粛々と綾波と綾香のコトダマを聞く。これはアイサツだ。己を定義する行いに他ならない。「正直、私には戦いが終わった後の夢なんてありません！けど！それでも！生きて生きて生き抜いてやります！そのためには、誰にも負けません！たとえ、貴方にも！」綾香は啖呵を切り、吹雪を指差した。 17

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吹雪は僅かに目を見開いた。だが、すぐにほほ笑んだ。「これは…ここまで面と向かって挑戦状を叩き付けられたのは初めてですね」「………あっ」その言葉を聞き、熱の浮いた顔をしていた綾香は正気に戻った。「わ、私ったら勢いで何を…！」「綾波＝サン、いえ、綾香＝サン」「は、はひ！？」 18

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綾香はビクッと体を震わせた。吹雪はそれを見て僅かに呆れて、言った。「なら強くなりなさい。死神の鎌すらも撃ち抜けるように。貴方には、その才能があります」「吹雪さん…」「けど、焦ってはいけませんよ」吹雪は今度こそ監獄島へ向かうために踵を返し、そしてチシャ猫めいて目を細め笑った。 19

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「一歩一歩、着実に歩んでいきましょう。走るのは、私だけで十分ですから」綾波は、綾香は吹雪のコトダマを、胸に刻み付ける。吹雪は監獄島へと向けて航路を取った。綾波は慌ててそれに続いた。それは、対照的な軌跡を水面に刻み付けていた。 20

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迷いなく、目指す果てを渇望する走る者の軌跡と、迷い揺らぎながらも着実に進み続ける歩む者の軌跡が。やがて、それらの軌跡は海へと溶けて消えた。後にはただ、静かな海が朝日に照らされるばかりであった。 21

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風見SS・監獄島シリージコラボ「ワン・ランナー、ワン・ペデストリアン」おわり