「ワン・ランナー、ワン・ペデストリアン」

一人の少女はただ走った。その先にある未来を求めて。 一人の少女はただ歩む。今をしっかりと生きるために。 風見SSシリーズとのコラボ作品!
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Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「「「……」」」昼下がりの監獄島指令室前。その扉の前で、3人の艦娘が部屋の中の声に耳を欹てていた。「つまり………と言うわけで……」「成程……」「よく聞こえないわね」軽巡艦娘・五十鈴は渋い表情で耳を扉に押し付ける。そのバストは豊満であった。 12

2016-08-06 21:56:54
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ちょっと、綾波。もうちょっと詰めて」中腰姿勢の駆逐艦娘・浜風はもっとよく中の声を聞こうと扉に詰め寄った。そのバストは五十鈴よりもさらに豊満である。「ちょ…浜風ちゃん押さないで…」浜風の豊満なバストを背に押し付けられた駆逐艦娘・綾波はそう抗議した。そのバストは平坦であった。 13

2016-08-06 21:59:19
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

綾波は押し付けられる浜風のバストの感触に僅かばかりに嫉妬を覚え、扉の向こう側の声に、珍しい来訪者の声に集中した。この監獄島に訪れる来訪者と言えば、定期的に補給物資を運搬する軍の船の出入りがほとんどであった。だが、この日は違った。 14

2016-08-06 22:00:59
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

朝方突如として憲兵隊の巡視船が乗り込んできたのだ。そして上陸してきた憲兵達は、突如としてこの監獄島を調査し始めたのだ。それは、平穏で長閑な時間が流れていた監獄島では、前代未聞の事態であった。まさかこの鎮守府で流血沙汰の事態が起こったのか。 15

2016-08-06 22:03:46
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

まさか、鳳翔と扶桑の鞘当てがついに実力行使の段階に入ったのか。監獄島の水雷戦隊3人娘はそう噂をし、真実を確かめるために偉そうな連中が入っていったこの指令室前で盗み聞きに及んでいたのであった。「んー…男の人の声と…女の子の声?」浜風はくぐもった声を聴き分け、首を捻った。 16

2016-08-06 22:06:07
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「油断しちゃいけないわ二人とも…」五十鈴は額に汗をたらし、駆逐艦娘たちに忠告した。「憲兵隊は地上最強の部隊だわ…一人一人が陸上では艦娘より強いし、容赦がない悪鬼のような連中だって専らの噂よ」「そんな人たちが、なんでこんなところに」「やっぱり…「俺」達のせいか?」 17

2016-08-06 22:08:41
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

その瞬間、浜風の纏うアトモスフィアが変わった。少女のそれから、男のそれへ。五十鈴と綾波はその変化に狼狽えることはない。むしろ当然のこととして受け止めた。綾波が不安げな表情で浜風を見上げ、呼び掛けた。「兄さん、それって」「私達の…「艦娘化」のこと、よね」 18

2016-08-06 22:12:14
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

五十鈴が渋い表情を作る。「艦娘化」海軍の闇の中で秘密裏に行われているある非人道的研究の名だ。それは、神霊たる軍艦の付喪神から分霊を直接顕現させるオリジナルや、艤装に宿すイレギュラーとも違う。人間を魂から艦娘へと変貌させんとする狂気の計画であった。 19

2016-08-06 22:14:41
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

彼女達は只の艦娘ではない。この艦娘化計画の途上で生まれた失敗作。船霊に肉体を侵食され、一つの体に人の意識と船の意識を共有する存在なのだ。彼女たちにはそれぞれ人としての名前がある。五十鈴は白川杏理。浜風は日野原大智(驚くべき事に艦娘化は男にも作用し、女性の体へと変貌させる)。 20

2016-08-06 22:18:09
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

そして綾波は日野原綾香。大智の妹である。「もしかして本土で何か動きがあったのか…?」浜風が、大智が顎に手を当てて訝しむ。この忘却された島に法と秩序の番人たる憲兵隊が踏み込んでくる事態など、ついにこの非人道研究に対して何らかの動きがあったとしか考えられなかった。 21

2016-08-06 22:21:31
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

監獄島は「艦娘化」計画に反対した者、失敗したモノが投棄されるゴミ箱めいた場所だ。故に、この地には「艦娘化」計画の非道に関する証拠が腐るほどあるだろう。ならばその時、自分たちは?昔からこの地にいる扶桑や鳳翔、そして提督は?突如として彼女達の胸の中に、暗然たる思いが立ち込めた。 22

2016-08-06 22:25:29
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

それは朧げなる未来への不安か。やがて綾波は…綾香は立ち上がり、扉を開けようとした。「綾香…?」「やっぱり、確かめてみないと」綾香は決然とした瞳で扉の向こうを見据えた。その向こう側の困難へと。「私たちに関わることかもしれないんだ…だったら」そして、勢いよく扉を開け放たんとして 23

2016-08-06 22:27:55
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「何をしている」不意に、背後から声がかけられた。五十鈴と浜風が咄嗟に振り向くと、そこには衣服を着崩した小柄な艦娘がいた。見知らぬ艦娘であった。「ふえっ!?」突然のことにニューロンがフリーズする。扉が開け放たれる。綾波は倒れこむように指令室にエントリーした。「ふぎゃ!」 24

2016-08-06 22:30:00
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「あン?」床に倒れた綾波の声を聴き、指令室に居た者たちが振り返った。綾波は涙目で見上げた。そこに居たのは、白い軍服に身を包んだ褐色肌の大男。黒い軍服に「憲兵隊」の腕章をつけた顔の白い少女。そして、白黒セーラー服にハカマという奇妙な姿をした艦娘。 25

2016-08-06 22:32:57
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

綾波はその艦娘の目を見た。鶯茶色の、泰然とした瞳を。艦娘の瞳に、困惑が過った。「貴方…一体?」「綾波君?」大男の陰から、疲れた顔をした男が顔を出した。それは綾波がよく知る風見玲二提督の顔であった。「司令官…」「なんだい?」綾波は涙声で風見に訴えかけた。 26

2016-08-06 22:35:13
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「この人達、いったい何なんですかぁ…」「俺達か?」大男は綾波の傍に歩み寄り、助け起こすとその目をまっすぐ見て言った。「ただの査察団だが」 「査察…?」「おお、そうだぜ」綾波は首を捻った。大男は歯を見せて笑った。風見が綾波に安心させるように説明した。 27

2016-08-06 22:36:50
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「つい近頃、こことは違う孤島の前線基地でサボタージュが問題になったようでな。他の孤島系前線基地で問題がないか、査察が急きょ実施されることになったそうだ」「な、なんだぁ…」綾波は安心して、へたり込んだ。「てっきり、何かとんでもないことが起こったのかと…」 28

2016-08-06 22:39:36
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「とんでもないことねぇ…」「まぁ、無かったと言えば嘘になるでありますが…」大男と黒服少女は揃って溜息を吐いたが、綾波にはその理由はわからなかった。だが綾波は安堵に胸を撫で下ろした。少なくとも最悪の事態ではなかったのだから。 29

2016-08-06 22:42:34
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ああ、そうだ綾波、浜風、五十鈴」風見は扉の向こうから覗き込む二人を見て苦笑して、そして唐突に命令を下した。「憲兵隊からの要望だ。今すぐ演習の準備を始めてくれ」 30

2016-08-06 22:45:25
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

風見SS・監獄島シリージコラボ「ワン・ランナー、ワン・ペデストリアン」#1 おわり #2 へ続く

2016-08-06 22:45:39

#2

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

風見SS・監獄島シリージコラボ「ワン・ランナー、ワン・ペデストリアン」 #2

2016-08-07 14:03:00
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

これまでのあらすじ:禁忌の非人道実験「艦娘化」の失敗事例艦娘が遺棄当然に収監される孤島の前線基地、監獄島。誰もに見捨てられたはずのこの島に、ある日突然法と秩序の狂犬・憲兵隊が訪れた。そして監獄島の艦娘は、突如として演習に挑むこととなったのだった。

2016-08-07 14:07:58
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

監獄島港湾部内演習場。今そこに、6人の艦娘が対峙していた。監獄島に所属する4人の艦娘。扶桑を旗艦とした五十鈴、浜風、綾波の4人の艦隊は、対峙する2人の艦隊を見た。 1

2016-08-07 14:09:22
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

一人は黒い軍服に軍帽、白粉で顔を白く塗ったモノクロームの憲兵艦娘・あきつ丸。その手には幻灯機を持ち、背後に浮遊する飛行甲板巻物に己の影を投射する。 2

2016-08-07 14:13:28
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