サイバー・スレイヤー【五殺目・アブラクサス】前編

ラスボス登場
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劉度 @arther456

【サイバー・スレイヤー】 【五殺目・アブラクサス】前編

2016-08-22 21:01:19
劉度 @arther456

(これからSSを投下します。TLに長文が投下されますので、気になる方はリムーブ・ミュートなどお気軽にどうぞ。感想・実況などは #ryudo_ss をお使いいただけると大変ありがたいです。忙しい方はtogetterまとめ版をどうぞ。それでは暫くの間、お付き合い下さい)

2016-08-22 21:02:05
劉度 @arther456

アゲウミ・ストリート。かつては高層ビルが立ち並ぶビジネス街だった。だが、地区中心に居を構えていたアゲウミ・サイバネ・コーポレーションの倒産し、それを基盤としていた地区の産業も丸ごと喪失してしまった。今やここは、在りし日の栄華の残骸が廃ビルとなって残るハカバに過ぎない。1

2016-08-22 21:03:05
劉度 @arther456

その廃墟の1つ、アゲウミ・サイバネ・コーポレーション本社ビルにアブラクサスがいる。そう聞いてやってきたフジキだったが、この人気のなさには情報を疑うしかなかった。ビルは全くの無人。アマクダリのニンジャはおろか、浮浪者の1人も見当たらないのだ。2

2016-08-22 21:06:03
劉度 @arther456

「外れたか……」 「愚か者め。ソウルを感じ取ってみよ」傍らの少女ドロイドは、最上階を見つめている。言われるがままにニンジャソウルを探る。すると、微弱なソウルの気配を感じ取ることができた。「……ヌウ」「まだまだカラテが足りんのう?」フジキドは何も言わず、ビルへと踏み込んだ。3

2016-08-22 21:09:04
劉度 @arther456

割れた自動ドアが開き、2人は正面ホールに入る。ここも無人。トラップも無し。「まるでハカバじゃの」床のコケシを蹴飛ばし、ナラクがボヤいた。「こんなところに身を潜めるとは、よほどの死にたがりと見た!おいフジキド、こりゃ楽勝じゃぞ!」「油断するな、ナラク」「ヌゥーッ……」4

2016-08-22 21:12:07
劉度 @arther456

ニンジャスレイヤーとナラクはエレベーターに乗り込んだ。最上階、49階のボタンを押す。『上に参りますドスエ』電子オイラン音声がアナウンスする。エレベーターが上昇する。ニンジャ聴力を持ってしても、エレベーターの駆動音以外何も聞こえず、息を潜める気配も感じ取れない。5

2016-08-22 21:15:03
劉度 @arther456

「静かじゃのう」ナラクが呟く。人の足音だけではない。エアコンの駆動音、ファクシミリの紙が吐き出される音、蛇口が捻られる音、そういった、オフィスビルならあって当然の音が無い。かつてサラリマンだったフジキドには、ことさらにビルの静寂に対する違和感を感じ取っていた。6

2016-08-22 21:18:07
劉度 @arther456

エレベーターが上昇するにつれ、フジキドは徐々に屋上のニンジャソウルを感じ取ることができるようになった。だが、その存在感すらも虚無に等しい。ナラクはそれを感じ取っているだろうか。「ナラクよ」「なんじゃ」ナラクは手を頭の後ろで組んで、退屈そうにしている。気付いていない。7

2016-08-22 21:21:03
劉度 @arther456

「……イクサが始まったら、オヌシは部屋の隅で身を守っておれ」「何を言うか」ナラクは不遜な笑みで答える。「ニンジャ殺しを指を咥えて見ていろと?笑止!これほどの楽しみを見逃すワシではないわ」「オヌシが傷付けば、私が困る」「ワシは困らぬよ」8

2016-08-22 21:24:02
劉度 @arther456

「そこまで言うなら、ナラクよ。上のニンジャがいかなるソウルの持ち主か分かるか?」すると、ナラクは一瞬口を噤んだ。「……どこぞのサンシタのものであろう」「クランは?」「関係ない。ワシの力でねじ伏せられる」フジキドは確信を持って聞いた。「ナラク。オヌシ、やはり過去の記憶が無いな」9

2016-08-22 21:27:02
劉度 @arther456

ラースヤとの戦いの時、ナラクは応援こそすれ、彼のソウルやジツに対する言及は何もなかった。その時はソウル感知能力を失っているのかと思ったが、アブラクサスのソウルは感じ取っている。ナラクは今、永い戦いの中で積んできた戦闘経験の一切を失っている。10

2016-08-22 21:30:07
劉度 @arther456

「……だからどうした。取るに足らぬサンシタ共の記憶など不要じゃ」「その割には声が震えておるぞ、ナラク」ナラクの恐れに気付けるのは、フジキドだけであろう。多くのニンジャを屠ったという実感が伴わなければ、ナラクの態度はただの虚勢にしかならぬ。11

2016-08-22 21:33:06
劉度 @arther456

『到着ドスエ』エレベーターが止まった。2人は会話を止め、カラテを構えた。フスマが開く。アンブッシュは無い。それどころが、生命の気配すら無かった。フジキドたちが辿り着いたのは、ガラスドームで覆われた屋上庭園。長い間放置されたそこは、全ての動植物が死んだ隔離空間だった。12

2016-08-22 21:36:01
劉度 @arther456

かつては咲き誇っていたであろうサクラの並木は、土の養分を使い尽くし枯れ果てていた。人工池には腐り果てて沈んだコイの骨が積もっている。干からびた芝生を踏んで、フジキドとナラクが先に進むと、立ち枯れのサクラの奥に1人立つ、黒いコートの人影を見つけた。13

2016-08-22 21:39:02
劉度 @arther456

腰にカタナを挿した男は、フジキドとナラクの足音を聞き取り、振り返る。メンポをつけたその姿は、紛れも無くニンジャだ。「ドーモ、ニンジャスレイヤーです」「ドーモ、ナラク・ニンジャです」2人のアイサツに、男はゆっくりとアイサツを返した。「ドーモ、アブラクサスです」14

2016-08-22 21:42:02
劉度 @arther456

「ダイヤシュラ=サン、ラクシャーシー=サン、ワームトキシン=サン、ラースヤ=サン。全員殺した」「ああ、そうだな」「残るはオヌシじゃ、アブラクサス=サン」アブラクサスはナラクに視線を向ける。「道理に合わんな、お前は」「何?」「ソウルとボディがバラバラだ。まるで噛み合っていない」15

2016-08-22 21:45:02
劉度 @arther456

「たわけ。出来の良いオモチャとはいえ、こんな人形にワシの力が収まるとでも思うたか?」「精神と肉体は不可分だ。片手を失えば生活も変わり、それに応じて心の有り方も変わる。今までとまるで違う体に入れられれば、精神は肉体に食われるのに、どうしてお前は自我を保っていられる?」16

2016-08-22 21:48:03
劉度 @arther456

「戯言を」ナラクは指を曲げ、伸ばし、そして拳を握る。「体が変わることなど、さして珍しい事では無いわ。肝心なのは、カラテが振るえるかどうかよ」「……自我が強すぎるのも考えものだな」アブラクサスは溜息をついた。「その不条理、ここで断ち切らねばならん」17

2016-08-22 21:51:07
劉度 @arther456

アブラクサスはカタナを抜いた。ゆっくりとした動きだが、隙は無い。「流れを正し、強きソウルを手に入れ、俺の願いを叶える」「オヌシの願いは叶わぬ。ここで私が殺すからだ」「ワシのソウルを返してもらうぞ、コワッパ」ニンジャスレイヤー、そしてナラクはカラテを構えた。18

2016-08-22 21:54:08
劉度 @arther456

「ゆくぞ!」2人は同時に駆け出した!ニンジャスレイヤーは右へ、ナラクは左へ。アブラクサスを両側から挟み撃ちにする。「「イヤーッ!」」同時のチョップ突き!「イヤーッ!」鋭いカラテシャウトが、枯れたサクラを震わせた。「グワーッ!?」吹き飛ばされたのは、ニンジャスレイヤーとナラク!19

2016-08-22 21:57:11
劉度 @arther456

ニンジャスレイヤーはすぐに起き上がった。アブラクサスが掌底を床に叩きつけた瞬間、電撃が彼の体を襲った。何らかのジツか。だが、ダメージは威嚇程度。カラテには問題なし!「コケオドシか」「果たしてそうかな?」「なに?」「ピガガーッ!?」20

2016-08-22 22:00:16
劉度 @arther456

ナラクが、いや、少女ドロイドが機械の悲鳴をあげていた。「ナラク!?」ナムアミダブツ!デン・ジツは、機械にこそ真価を発揮するのだ!ショートしたオイランドロイドは起き上がることもできない!「2対1は流石に厳しいからな。手荒い真似をさせてもらった」21

2016-08-22 22:03:06
劉度 @arther456

アブラクサスは改めてカタナを構えた。その姿には確かなワザマエが表れている。ニンジャスレイヤーはカラテを構え直し、タタミ3枚の距離からにじりよる。アブラクサスはカタナを顔の横で構え、動かない。タタミ2枚。ニンジャスレイヤーは右手を突き出し、更に間合いを詰める。22

2016-08-22 22:06:05