フォビドゥンフォレスト1話後編7・遭遇

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フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

1分。2分。ここで偵察に出したカラス型のドローンが戻ってきた。ラッタがドローンをスマホに繋いで映像を再生する。体高1mほどの蜘蛛が映っていた。 「バケグモかぁ…」 「マダラバケグモだな」 俺が補足する。体の模様は見えねぇが牙や単眼の配置からして間違いねぇ。

2016-08-31 21:27:06
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30秒ほどの映像には体高50cmくらいの小型…いや中型の個体も何体か確認出来た。こっちは成長途中で他の種類と判別しづらいが、まず同種族だろう。 「やべぇぞ。桐葉さん。これ二陣で終わんねぇかも」 『どういうことだ?』 「連中は巣分かれすんだよ…最悪コイツラと別に巣がある」

2016-08-31 21:27:26
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普通の蜘蛛には大きく分けて二通りいる。バケグモも同じだ。巣を作るのとか作らねぇのだ。マダラバケグモはその二通りを使い分ける。巣の周りに獲物がいなくなれば、暫くは巣の張り場所を探しつつ徘徊して直接獲物を捉える。すぐに巣を張らねぇのは、巨体向きの良い場所がなかなか無ぇからだろう。 1

2016-08-31 21:29:35
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コイツラのもう一つの特徴としては群れで行動するというのがある。社会性って程じゃねぇ。餌を分け合ったり外敵と一緒に戦うのがせいぜいで、アリやハチみてぇに分業化はしてねぇ。キーパー以外全員が常にボールを追い続ける、ポジションも何も無ぇ素人小学生サッカーみてぇな幼稚な群れだ。 2

2016-08-31 21:35:04
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「バケグモとは失敗しましたね…すみません」 俺とスマホアプリの妖怪図鑑の解説を聞きながら、会長が謝る。確かにあんだけ幅のある敵なら、木々の間隔が狭いさっきの林にいれば良かっただろう。連中も無理に木の間を通らず、糸を使って樹上を行ったろうけどな、結果論だ。 3

2016-08-31 21:47:36
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「しょうが無いですよ。冬にクモの大群が出るなんて思いませんもん」 恵里が俺の考えを代弁してくれた。恵里の分際で…。熱でもあんのかと思ったが、そんなこと言ってる場合じゃねぇんで黙っておいた。 「そうだよなー。冬に大群で出るのはもっと小さいやつだもんな」 ラッタも同意する。 4

2016-08-31 21:50:31
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「もう一つ、おかしいとこがある」 3人が俺を見る。 「奴らが徘徊性になる時はエサが無くなるからなんだが、それにも二通りある。文字通り周りの獲物が全滅した時と、仲間が増えすぎた時なんだ。今はどう見ても増えすぎた方だろ」 「そうだよな」 「しかも連中、まだ群れで行動してやがる」 5

2016-08-31 21:58:20
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「え、まとまって移動したほうが有利だから、じゃないの?」 コイツ本当に恵里か?賢すぎるぞ? 「そうだ。だがな、巣分かれして徘徊する時は、普通はすぐバラバラになるんだ。移動先でエサを取り合わねぇようにな」 「つまり腹が…いっぱいだからまだバラけなくって良いって?」 「多分な」 6

2016-08-31 22:03:51
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嫌そうな表情のラッタにそう応えた。最悪、二桁単位の人間が食われた可能性があるからな、無理もねぇ。野生動物を食った可能性もあるが、どっちも冬場に探すには難しい。可能性としては五分五分でどちらも低いが、現にバゲグモ共は大発生してやがる。何処から何のエサをどんだけ調達しやがった? 7

2016-08-31 22:11:55
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「考えるのは後にしましょう。もう来ます」 佐祐里さんの声で思考を中断した。気付けば50m程先にクモの先頭が見える。俺達は寒いのを我慢して雪を体にくっつけていく。連中は音と熱に敏感だ。祓いの効果があるとはいえ、多少でも熱を減らしたほうが良い。 8

2016-08-31 22:20:16
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俺達は今、南側が開いた不完全なカマクラみてぇな穴の中にいる。南以外の三方には、太目で樹高3メートルくらいの樹がある。連中も好き好んで樹にぶつかってきや来ねぇだろうし、直進してくれりゃあやり過ごせる。このままなら西側数メートルのところを通りそうだ。 9

2016-08-31 22:27:02
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先輩がホルスターから武器を取り出す。先輩の肘から指先までの長さの銃。グリップ上の両側面に円形のクリアパーツがあり、内側に術を仕込んだ8cmレコードが入っている。このパーツから銃口寄りの留め具からトリガーガードに向けて逆向きに刃が仕込まれ、銃と剣の2モードを使い分ける。 10

2016-08-31 22:37:47
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先輩は左右のレコードの力で頭上に氷の盾を張る。威力を抑え、持続時間を優先した奴だろう。普段なら音声が鳴り響くが今は無音なんでどうにも味気ねぇ。北を向き、銃床でもあるブレードユニットを雪の壁に付ける。これから数分間、二度、三度と張り直すことになるから腕を休める為だ。 11

2016-08-31 22:43:27
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『隠れるのが最優先、余裕がありゃあ可能な範囲で情報収集だ。無理はすんなよ』 「はい」 『じゃあ、通信を切る』 桐葉さんと最後の打ち合わせをし、通信機の電源を落とす。周囲への僅かなノイズが消えた。連中の歩行音が近付く。雪をスキーのストックでぷすぷすと突き刺すような音だ。 12

2016-08-31 22:48:43
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北側へ向けて開けた穴から様子を伺う。最前列は大型が1匹、その後に中型が数匹。すぐに見えなくなり、俺達の横を通る。その間に穴からは次の集団が見える。また大型1匹に中型数匹。親世代が子世代を守ってる感じか。また俺達の横を取り、穴からは大型3匹目。先輩が盾を張り直す。 13

2016-08-31 22:55:22
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(ねえ。あれこっち側に寄って来てない?) 横を見張ってた恵里が言う。そう思って穴の向こうを見直すと、確かに徐々にこっちに寄ってきてる気がする。俺達に気付いたって訳じゃねぇかも知れねぇが、このままだと気付かれるかも知れねぇ。 (ラッタはどう思う?…ラッタ?) 14

2016-08-31 23:03:39
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怪訝そうな恵里の様子に俺も振り向いてみると、ラッタの奴は去っていく大型2匹目を目で追ってやがった。 (どうした?ラッタ) (礼太くん?) 「ん、あ、ああ」 俺と先輩にも呼びかけられて、ようやくラッタはこっちを向いた。 (何でも、無いよ。代わるよハル) 15

2016-08-31 23:10:02
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何でも無ぇ様には見えなかったんだがな…今にも飛び出してきそうなのを我慢してるように見えたもんで焦ったぞ…。だが確かに時間が無ぇ。大型4匹目が横を通り、先輩が三度盾を張る。そろそろ第二陣も近い。 (うぉっ!?) ラッタと代わろうとした瞬間、中型の足が横の木を掠めた。 16

2016-08-31 23:14:22
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木にぴしり、と亀裂が入る。もう一撃食らったら、覗き穴担当や佐祐里さんの位置に倒れていきそうだ。俺達は位置の交換を諦め、俺がラッタのところへ詰めた。佐祐里さんと恵里も寄ってくる。窮屈だし、色々当たってやべぇ。 (貧相ですみません…) (そういうの止めて下さい…色んな意味で) 17

2016-08-31 23:20:44
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背に当たるなだらかな膨らみから意識を逸らして、エイジ達に様子を聞いてみる。さっきから第二陣を探る様には言っていたが、間近をデカいのが通るせいか集中出来ていなかったっぽい。大型5匹目が近づいて来た今になってようやく働き出した。 (もうちょいかかるな…恵里は?) 18

2016-08-31 23:25:50
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(うん、大丈夫。ほら) 恵里は光をクモに隠すようにしながら、楽進盤を見せてきた。第二陣には、大型3匹に中型6匹、小型が20匹ほどいる様だ。 (厄介ですね) 先輩が4発目を撃ちながら言う。確かに小型が多いのがヤベぇな。 (倒します?) (お前はまた…) 19

2016-08-31 23:35:45
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頭上のエイジ達が反応し始めた。数は大分減り、服の中と合わせて6匹しかいねぇ。タカシの隊を中心に赤いタグをハサミに持たせてクモ共にくっついて行かせたからだ。後方部隊の配置次第では、ドローンより先にアイツらが先に部隊のところに付くかも知れねぇからな。 20

2016-08-31 23:58:43
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(大丈夫そうだ…多分、第三陣はいねぇ) エイジ達の反応からそう判断する。コイツらが教える数は楽進盤のそれとぴったり一致してる。 (よし、じゃあ倒しましょう) 恵里が剣を握る。 (アホ!その前に北東だ) (あ、そうか) 21

2016-09-01 00:04:49
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(ええ。今日、最初に霊波反応が有った所、そこにもまだいるのなら、私達はそっちへ向かうべきですね) (分かったわ。よし) 恵里が楽進盤に手を掛け、次の瞬間頭を下げる。一瞬遅れ、俺達も下げる。頭上では木が南へ倒れこんでいく。5匹目の大型がへし折りやがったんだ。 22

2016-09-01 00:09:53