女騎士・イン・デスレース#1 地を駆ける蒸気車◆2
_砂漠を埋め尽くすような蒸気車の群れ。群れ。群れ。あちこちにテントが張られ、スタッフが額の汗をぬぐいながら右往左往する。 「各車最終メンテナンスの真っ最中! 酷暑にトラブルはつきものです!」 司会進行が実況をしていた。デスレースが始まるのだ。 11
2016-09-01 19:32:54_無数の観客の興奮が最高潮に達したとき、一斉にスタートする! 轟音を上げて進む蒸気車! 巻き上がる砂埃! 何も見えない! そこから飛び出す一台の蒸気車! 「ウオアー!」 「まず飛び出したのは……ザリガニ騎士団所属! マシン名三星号! かの名高い3猛士がエントリーだ!」 12
2016-09-01 19:38:00_観客は去っていく蒸気車を望遠鏡で見ながらクールダウン。砂埃が晴れた後、スタート地点に視線を戻すと、そこには蒸気車が一台。 「どういうことかね!?」 「うーん、エンジンの故障だ……」 ザリガニ騎士団の2台目のエントリー、技師と金髭の騎士の車である。 13
2016-09-01 19:42:17_観客はすでに帰り支度を始めていた。技師は何とかして車を直そうとしたが、既定の時間を過ぎてしまい失格! 「リタイアです」 「残念だ」 ドライバーの技師と金髭の騎士は申し訳なさそうに白旗を振ったのだった。 14
2016-09-01 19:46:50―― そして3台目のエントリー、モーラとセリマのペアは遅からず速からず、順調にレースを進めていた。砂漠を越え、荒野へとたどり着く。見慣れた荒野は居心地がよく、疲れの見え始めたセリマの顔にも笑顔が戻る。 「いい景色じゃないか。ほら、牛の白骨が落ちてるぞ!」 15
2016-09-01 19:50:41_モーラは先程からモヤモヤした思いを解決できずにいた。すべてセリマがやってしまうのだ。エンジントラブルの整備から、襲ってくる野生動物から逃げるなど。モーラといえば地図を広げて、道案内をするだけだ。 (まぁ、セリマさんが世話焼きなのはわかってますけど) 16
2016-09-01 19:55:31_車は荒野の中を進む。枯れた草を踏み、小石を蹴飛ばして。モーラはセリマとは裏腹に懐かしい荒野を素直に楽しめない。 (これじゃあ面倒ごとを押し付けているみたい) 天気もよく、空には雲が笑っている。モーラは青空に誓った。 17
2016-09-01 20:00:19(役に立たなくちゃね) モーラはずっと先の地図までめくる。この先は二つのルートを選択せねばならなかった。西に延びた道は南方ルートと北方ルートに分かれている。真っすぐは未開のジャングルで車では踏破できない。南方は竜芽山脈の山道。北方は聖河沿いのなだらかな道だ。 18
2016-09-01 20:04:50_答えはすぐに出る。 「次の分岐、右に行きましょう。聖河沿いの走りやすい道です」 「よしきた!」 セリマは口笛を吹く。荒野に伸びる、色が変わっただけの土の道の先。その右側を見据える。さび付いた交通標識。揺れる車体。 19
2016-09-01 20:10:13【用語解説】 【竜芽山脈】 灰土地域と竜の国の間に横たわる巨大山脈。文化的にも軍事的にも壁としてそびえ、灰土地域中で殺された竜を護った。芽の文字とは裏腹に、赤茶けた不毛の山脈で、常に霧がかかっている場所が多い。山からの水は麓に大きな森林を育んだ
2016-09-01 20:22:05