こじらせたリーマン 20160829-20160904
- tsutsujishika
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休んでいた分の仕事を片付けていたら、いつもより遅い昼になってしまった。部署の面々にもちゃんと食べるようにと念を押されたので、きちんと食べる。兄がやたら買い込んできた食材も消費しなければならなかったので、今日はお弁当だ。
2016-08-29 13:32:12あら、こんな時間に社食にいるなんてめずらしい。そういって、断りもなくパートさんは向かいの席に座った。この人は普段からこんな感じなので、気にしない。綺麗なお弁当ねえ、なんていいながら、自分もお弁当箱を広げている。
2016-08-29 13:37:02「そういえばほら、営業にあなたと似た名前の人、いるじゃない」 「……おそ松ですか?」 「そうそう。彼ねえ、金曜日の飲み会で、女の子をお持ち帰りしたらしいのよ」 「……は」 持っていた箸を折りそうになった。
2016-08-29 13:38:00「私はほら、パートだし、子供の面倒見なきゃだから、飲み会自体はいかなかったの。でもねえ、同じ庶務の子がねえ、二人が仲よさそうに話して、二次会にも行かずに駅に消えていくのを見たんですって。社内恋愛よ社内恋愛。そういう噂ひさびさだから楽しくなっちゃって。誰かに話したかったの」
2016-08-29 13:39:01「……ええ、はあ、そうですか」 その女の子、とは、多分あの人のことだろう。髪の長い美人。おそ松のとなりの席の。思わず胃が痛んだが、ごはんは、食べなきゃ。ぺらぺらと色んな話題を提供してくれるパートさんに相槌を打ちながら、昼は過ぎて行った。
2016-08-29 13:40:04「あれ、チョロ松いないんすか?」 「今日はお昼遅めにとってるんですよ」 「へー……」 すれ違いか。……顔あわせたって、何話していいのかわかんないから、いいか。とりあえず体調は良くなったらしい。よかった。
2016-08-29 13:46:02体調も万全になったので、兄が買いこんだ食材をあらかた調理してしまう。常備菜をいくらか作って、冷凍できるものはしておけば、それなりに持つだろう。これはしばらく弁当だな。と思う。もしおそ松から昼食に誘われたらどうしようか―……。そう思って、手が止まる。
2016-08-29 19:01:17誘われるなんて、これからあるだろうか。木曜日、あんなふうにして以降、一言もしゃべっていない。文字のやりとりすらしていない。……直接会えたら、あの日のこと、もう一回謝りたかった。でも。
2016-08-29 19:02:06ぼうっとしていたら、フライパンの中身が焦げていた。慌てて皿にうつして、換気扇を強にする。たちこめた薄い煙が、目に沁みるようだった。
2016-08-29 19:05:03ポタポタと窓に雨の雫が垂れる。一瞬、とりとめのない考え事をした。水が作る道筋が、あの日のシャワールームでの情景と重なって。
2016-08-30 07:53:58「先輩!金曜日女子をお持ち帰りしたって本当っすか!」 「お前ね、声がでかい」 めんどくせーなと思いながらブラックの缶コーヒーを開ける。どうも、俺と彼女が良い仲らしいとほのかに噂がたっているようだった。みんな好きだねーそういうの。
2016-08-30 10:23:01「何度も言ってるけどさあ、事実無根だからそれ」 「本当っすか?」 「何、俺、そんな信用ないの?」 「おそ松先輩なら2、3人いただいてても違和感ないっつーか」 「失礼なこと言うな。ってか彼女にも迷惑だろ」 言いながら、1人いただいていることには違いないなと思った。あいつは男だけど。
2016-08-30 10:24:02今日も社食の席を借りつつ、持参の弁当を食べる。卵焼きとほうれん草のおひたし。プチトマト。ネットのレシピで見た、ネギとひき肉の炒め物。一人でもぐもぐやっていると、一つ隣のテーブルの女性たちの話声が聞こえてきた。
2016-08-30 12:24:03