意力の空域#3 証を示せ◆1
_リンメラはメルヴィから旅の理由を聞いた。メルヴィは帝都に暮らしていたが、ロケット発射の情報を聞き、同乗させてくれるよう頼みに行ったこと。 「今回は無理かもしれないけどね」 すでに救助の連絡は済んでいる。ただ、3隻も軍艦を沈められて軍はやることがたくさんあるのだろう。 61
2016-09-16 20:20:53_明らかに一介の兵士とお荷物は後回しにされていた。リンメラも命令が待機しかなく、暇を持て余す。無駄話はより深く進行した。 荒野の上空には分厚い雲が広がり、時折雲間から覗いた太陽がまぶしく地表を照らす。メルヴィは青い髪に土がつくことも厭わずに大の字になって荒野に寝転んだ。 64
2016-09-16 20:24:40_太陽が温めた土の香りを感じる。二人は様々なことを語り合った。 「メルヴィ。困っているんだ。守るべきものも、夢もないならば、この先どうやって生きていけばいい?」 リンメラは飛行鍋の点検をしながら言う。 63
2016-09-16 20:30:31_全く、ボルトが緩んでいる。まるで自分のようだとリンメラは思う。欠けているのだ。必要とする大切な生きる理由が。精度が欠けて役に立たないボルトと同じように。 顔を横に向けて微笑むメルヴィ。 「守るべきものも、夢もないなら……あなたは自由なんだよ」 64
2016-09-16 20:35:17_意外な言葉をかけられて、リンメラはスパナを落とした。 「自由だって? 私が?」 「そう。守るべき人がいたら戦わなくちゃ。夢があったら何かと夢の選択を強いられる。でも自由ならば……誰のために、何のためにでも自分をすり減らす必要なんてない。自由そのものだよ」 65
2016-09-16 20:40:12「そんなの何もないって言ってるようなもんじゃないか。この荒野と同じだ。何もありはしない。無意味な世界を言い換えただけだ」 「この荒野には私がいて、あなたがいる。あなたという主役がいる。白いキャンバスに、何を描いてもいい。捉え方の違いだよ」 66
2016-09-16 20:48:19「詭弁だね」 「じゃあ、言葉じゃなくて、示してあげるよ。あなたが自由だって証を。私にも自由がある……このヴォイドアクセラレーターは自由を実現するんだ」 そう言ってメルヴィは寝転んだまま両腕を掲げる。そこには二つの小手……革製で、手の甲に半球状の黒い結晶。 67
2016-09-16 20:55:15「自由の実現ねぇ……じゃあ、ひとつ、叶えたいことがあるんだ」 「何でもいってちょうだい!」 (騎士は自由だ) 上官の言葉が脳裏に浮かぶ。騎士になる……それは叶えたいことでもある。けれども、いまのリンメラには不自由に思えた。 (夢をそのまま手に入れて、何が自由だ) 68
2016-09-16 21:03:29_直前で気が変わった。メルヴィを試したくなったのだ。 (本当の自由を知りたい) リンメラの思う空虚……くだらない毎日と、メルヴィの言う自由。同じものを指しているはずなのに、ゼロと無限大ほどに違う。 (見せてみろよ、本当の自由を) 69
2016-09-16 21:11:12「何でもできるんだよな」 「うっ、ハードルあげられた。魔法陣でできることなら……」 魔法陣といえば、任意のルールを決められるという性質を持つ。できるかどうかは分からないが、聞いてみる価値はある。 そして……リンメラは願いを口にした。 70
2016-09-16 21:19:13【用語解説】 【ロケット】 魔法で空を飛ぶのは難しい。術者が飛行する際エネルギー補給のための食料を携帯しなくてはいけないせいで、余計重くなりエネルギー効率が悪化するためである。なのでロケットは大量の術者を地上に配置し、点滴を受けながら大砲の要領で打ちあげる。マスドライバーに近い
2016-09-16 21:30:09